脱出④
「オマエハ モウ シル デテル」
ライアンの言うとおり、ゴブリンたちは真っ黒な体液を流しながら次々と悲鳴を上げていった。
意外にも大健闘を見せているのはライアン・フラムスティード。
ただでさえ長い手足に、長い鉄パイプ。
間合いさえ間違えなければ一方的だった。
彼が鉄パイプを一振りするたびに、中央の女子たちから黄色い歓声が上がる。
「なんか、不公平だよな……」
ライアンの隣でほかのゴブリンと対峙していた薬師寺満が不満げに唇を尖らせた。
その隙に、よそ見をしていた薬師寺に向かってゴブリンがナイフを振り回すと、彼は飛び上がるほどに驚いて尻もちをついた。
この時には既に、ゴブリンは諸手に持ったナイフを薬師寺に突き立てるべく跳躍していた。
「や、やめろ! 俺の血なんて美味くもないぞ!」
目を閉じたままバドミントンのラケットを闇雲に振り回す薬師寺。
「監督、落ち着いてください」
薬師寺が恐る恐る瞼を開けると、ゴブリンは空中で背後から服を掴まれて、手足をばたつかせていた。
健吾がそのゴブリンを薬師寺の目の前に持っていく。
「監督、どうぞ」
「う、うむ」
薬師寺は頬を赤らめながら咳払いをして立ち上がると、二歩三歩と下がってから打席に立ったバッターのようにラケットを持って構えた。
健吾がそのゴブリンを下手投げでよこすと、薬師寺は力の限りラケットを振りぬいた。
そのシャフトが根本からへし折れるほどに。
「ホームランだな」
薬師寺は放物線を描いて飛んでいくゴブリンを眺めながら呟いた。
それが裏門のフェンスに衝突して落ちたのを確認した健吾が
「ツーベースってとこじゃないですかね」
と言って茶化すと、薬師寺はへし折れたラケットを見ながら眉をしかめた。
勢いに乗った生徒たちは互いに助け合いながら、ほとんど負傷者を出すこともなく善戦していた。
さらにはあちこちでレベルアップの音が聞こえ始め、少なくともゴブリンたちの大半が無効化した。
「皆、おまたせ!!」
校舎内に鍵をかけて魔物を閉じ込め終わった朱音たちがそこに合流したことで、勝敗は間もなく決した。