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脱出③

「ガルムか」



 校庭へと出た兼光は、行く手を阻むその獣を見て呟く。


 そう、世界改変の直後に彼らを襲った獣の名前はガルム。


 兼光のIFインターフェイスのモンスター討伐履歴にそのデータは残っていた。



『ガルム 討伐推奨レベル3 北欧神話に登場する番犬。その牙に毒を持ち、群れで行動することが多い。ドロップ:鉄パイプ/ガルムの牙 獲得EXP45』



 昨夜に朱音が4頭を倒したものの、まだ4頭ほどが残っているようだった。



 (さっきのレベルアップ分のステータスポイントは既に振り分け済み。体が軽い、これなら……)



 斎藤兼光、現在レベル4。腕力、脚力、耐力にそれぞれ3ポイントずつ振ってある彼のステータスは以下の通り。



『腕力106% 脚力106% 耐力106% 魔力100% 精神力100% 物理カット0% 魔法カット0%』



 兼光はガルムに向かって真っすぐに木刀を構えた。


 しかし、彼の背後で不安そうに見守っていた生徒たちから突然悲鳴が上がる。



「うわぁ! ゴブリンどもがっ!!」



 大勢のゴブリンが、校庭の真ん中で立ち往生している生徒たちを取り囲むように姿を現したのだった。


 校庭の隅っこには昨日、校舎のドアを開け放って逃走した生徒の遺骸が無残にも転がっていた。


 このゴブリン達は恐らくそれを糧に増殖したのだろう。



 (くそっ、まずいな。このままじゃ僕がガルムを相手にしている間に、皆がゴブリンに襲われる……)



 兼光の表情が一気に強張る。


 何より具合が悪いのは、ゴブリンたちが散らばっていることだった。


 これでは健吾たちが到着したとしても、すべての方向をカバーすることは不可能だった。


 じりじりと間合いを詰めはじめるゴブリン達。


 女生徒たちが怯えて小さな悲鳴を上げ始めたそのときだった。



「ケンドーマン、あんたは正面に集中してなさい」



 風町美砂はそう言うと、包丁を手に手近なゴブリンの前へと進み出た。



「ハラキリ ゴクモン シマナガシ」



 今度はライアンが反対側の守りを固めるべく、鉄パイプキャリバーを両手に構える。



「こ、甲子園球児を舐めるなよ」



 慣れない口上を呟きながら、震える足で踏み出したのは薬師寺満。


 その手に持っているバドミントンのラケットが、甲子園とどう関係しているのかは分からない。



「俺らもやってやろうぜ!」


「こっちの方が何倍も多いんだ!」


「ダチの敵とってやる!」



 美砂たちに触発されて、武器を持った男子生徒たちが一斉に声を上げ始める。


 外周に配置されていた武器持ちの80名が、中央の120名の非武装集団を守るべくその輪を広げていく。



「皆、気を付けて! すぐに健吾たちも来る!」



 兼光がそう言いながら眼前のガルムに向かって走り始めると、生徒たちも負けじと猛々しく声を上げながら、ゴブリンの群れに向かって行った。



 一匹のガルムがその毒牙をむき出しにして、兼光の首元目がけて飛びついた。


 兼光は駆けだしていた足をぴたりと止めると同時に、木刀の腹でその顎をかち上げ、打ち砕く。


 跳ねあがって宙を舞うガルムは、折れた牙だけを残して煙となって消えていった。


 もう残り3匹のガルムがそれに怯んで足を止める。



「どうした、かかってこないのか? それとも、か弱い女生徒しか襲えないのか」



 彼の足元には最初に犠牲になった生徒、加藤の物と思われる制服のリボンが落ちていた。


 友を思って涙を流した女生徒の姿が頭を過る。


 押し殺していた怒りが、兼光の胸の内を焦がし始めていた。





「風町様、かっこいい!」



 美砂がゴブリンの一匹を、包丁で頭から串刺しにしてしまうと、宝木桜が嬉しそうに声を上げた。



「よし、私だって……」



 桜は美砂の足元に転がっていたゴブリンナイフを拾い上げると、それを両手に持って肩を震わせた。



「あんたはいいから下がってなさい。怪我人でしょうが」


「怪我はもう平気です。それに私、怖くないです」



 震える唇でそう言って、兼光と戦っているガルムを横目に見つめる桜。


 あの犬たちに腕を噛まれて引きずられた恐怖はそうそう簡単に拭えるものではない。


 しかしこのとき、彼女の中では美砂に対する憧れのほうがわずかに勝っていた。



「あんたって意外と頑固よね……。まあいいわ、私の側にいなさい」



 美砂は手近なゴブリンを斬り払いながら、呆れたようにそう言った。

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