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合流③

 兼光は階段を2段飛ばしで駆け下りていく。


 2階を降りてすぐの踊り場にゴブリンが二匹座り込んでいたが、居合抜きの要領であっという間もなく斬り払う。


 しかし、兼光が一階にたどり着いた時には、春樹、朱音、ライアンの3人は既にゴブリンの群れに取り囲まれていた。



「なんかやばそうな感じだな」



 春樹はそこかしこに横たわっている無残な遺体に目をやりながらそう呟いた。



「は、春ちゃん、さっきの奴らがいっぱいいるよ!」


「ブレイセンバン」



 1、2、3……。兼光は途中でその数を数えるのを諦めた。


 無数のゴブリンたちは獲物を前にして狂ったようにはしゃいで踊っていた。


 どうみても絶対絶命の状況だった。


 兼光は自分が戦って道を切り開くことを真っ先に考えたが、5、6匹を引き受けたとしても、残りの数十匹が彼らに襲い掛かればそれで終わりだ。



 (まずいな、校舎内にもこんなにいたなんて)



 春樹たちは正門を突破したあと、外で既に五匹のゴブリンと遭遇していた。


 もちろんそんな少数では彼らの相手になるわけがなく、あっという間に煙へと変わってしまっていたが、流石にこの数はどうにもなりそうになかった。


 さらには、背後の扉の外からもワラワラと集まり始めていたため、引き返すことも不可能だった。



 (俺と朱音だけならこいつらの頭上を飛び越してあの階段を駆け上がれるだろうけど、ライアンは……)



 春樹が横目に彼を見ると、ライアンはグレーの瞳を細めながら、ニコリと微笑み返してきた。



「ハルキ ダイジョウブデス イクスキャリバー アリマス」



 そう言ってライアンが両手に構えたのは、朱音が倒した獣からドロップした、なんの変哲もない鉄の棒だった。



「ライアン ソレ イクスキャリバー チガウ テツパイプ」



 春樹がなるべく伝わりやすいようにと、ライアンの口調をまねて諭す。



「オウ……。テツパイプキャリバー……」



 ライアンはあくまでそれが伝説の剣だと言い張りながら、得意げに素振りをしてみせる。


 そして素振りの最中に、飛びかかってきた一匹のゴブリンの顔面にライアンのテツパイプキャリバーがクリーンヒットしてしまった。



「アッ」



『ライアン フラムスティードハ レベルガ アガッタ』



 ライアンの体がいつもの発光を始める。


 するとゴブリン達はナイフを落として両目を覆い、恨み言のような言葉を発し始めた。


 これを見た兼光が、すぐに大声で叫ぶ。



「今だ! 走れ、天羽君! そいつらはレベルアップの光に弱い!」



 兼光がそう言い切る前に、春樹は二人の手を取って走り出していた。






「ひー、危なかったなぁ」


「ドキドキしたぁ」


「シヌト オモワセタ」



 春樹たちが多目的教室に着くと、生徒たちがざわめき立った。



「ああ、あいつが天羽春樹か。見たことがある」


「プチデーモンもいるじゃん」


「ライアン君!? やばっ、超すっぴんなのに……」



 眠っていた生徒も何の騒ぎかと目をこすって体を起こし始めていた。



「いや、びっくりしたぜ」



 出遅れた健吾は急いで階段を下りている最中に、凄まじい勢いで駆け上がってくる4人にぶつかりそうになって尻餅をついた。


 そこへ数えきれないほどのゴブリンが押し寄せてきたため、慌てふためきながら彼らを追いかけて上がってきたのだった。



「でもまぁ、皆無事みたいで良かったよ。お前さんが天羽君かぁ、初めましてだな。俺は3年の―――」


「大喜多先輩ですよね。先輩ほどの有名人なら、僕みたいなのでも存じ上げてますよ」



 春樹がそう言って微笑むと、健吾は驚いて言葉に詰まった。


 自分を知っていたことに驚いたわけではない。


 クラッカーとあれほどの豪胆なやり取りをかわしていた少年が、思ったよりも礼儀正しく、低姿勢であることに対しての驚きだった。



「今やお前さんのほうが有名人さ」


「あ。やっぱりあれ、皆に聞こえてたんですね」



 春樹は頬を掻きながら照れくさそうに苦笑する。



「しかし天羽君、学校はあの小人、ゴブリン達に一階を占領されていてね。さっき一階でも見た通り、死傷者も少なからず出ている……。非常ハシゴで降りようにも、外には犬型のモンスターがいて、軟禁状態だよ」



 兼光は春樹たちを不安にさせないよう、なるべく平静を装いながら言葉を選んでそう知らせた。



「そうだったんですか……」


「すまないね。せっかく命がけでここまで来てくれたのに」


「いえ。少なくともこの教室は安全そうですし、来たかいがありました」


「取りあえずは、ね……。ゆっくりしてくれ。疲れただろう」



 兼光がそういうと、春樹は一礼してから適当なスペースに腰を掛けた。



 (なんだか落ち着かないな……)


 

 春樹はその長い手足を丁寧に折りたたんで、なるべく小さくなって座っているつもりだったが、周りの生徒からは否応なしに好奇の視線が向けられていた。

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