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合流①

 一方、三島朱音、ライアン・フラムスティードと共に学校へ戻ってきた天羽春樹。



「ふぅ。やっと着いたな」



 春樹は正門の前で、ほっと胸をなで下ろした。


 深夜にも関わらずそこかしこの教室から電灯の明かりが漏れているということは、おそらく皆、下校せずに籠城しているということだろうと察した。



「ヨガッタ ネル デキマス」



 ライアンの表情もぱっと明るくなる。



「でも正門閉まってるね。―――塀、壊すぅ?」



 朱音が可愛らしく指を咥えて物騒なことを呟いていた。



「やめなさい。普通に飛び越えればいいだろう」



 春樹は自分の身長と同じくらいはあろうかという正門を、一度のジャンプでひょいと越えてしまった。



「ちぇー。試してみたかったのに」



 朱音は唇を尖らせたあとで、カンフー映画よろしく塀を蹴って飛び上がると、スカートを押さえて宙返りしながら悠々とそれを越えた。



「ニンジャ!ニンジャ!ゴウランガ!」



 ライアンは何やら大変興奮した様子でガッツポーズを決めながら叫んでいた。



 朱音が試してみたいと言ったのは、その左腕に巻かれている銀の腕輪の力のことだった。


 春樹が朱音に渡したその腕輪は「赤鬼の銀輪ギンリン」というらしい。


 もちろん赤鬼を倒した際にポーションと一緒に春樹が拾ったものだった。



 アイテムとして収納すると、説明文には紫色の文字でこう書かれていた。


『赤鬼から稀にドロップする銀の腕輪。持つものに鬼の力が宿る。腕力+25% 現存数:1 売却価格:25000クレン』


 おそらく現存数とはそのままの意味で、この世界に存在している数を示すものと思われる。


 春樹が「世界に一つしかないから、大切にしてくれ」というと、朱音は妙な方向に勘違いしたようで、頬を染めて喜んでいた。


 また、彼女は先ほど獣を倒した際にレベルが上がっており、脚力が6%上昇している。




「ライアン。少しそこで待っててくれ」



 正門を乗り越えようともがいていたライアンに春樹がそう声をかけると、彼は地面にストンと降りて首を傾げた。



「ウェイト? ワタシ マチボラケデスカ?」


「ああ、ちょっと掃除が必要らしい」


「カシコマリ」



 春樹は静かに身構えて視線を前方の闇向けたまま、今度は朱音に向かって言う。



「なあ朱音。さっき、力試しがしたいって言ってたっけ」



 春樹の視線の先には、八つの赤色に光る玉が浮かび上がっていた。


 ゆっくりと近づいてきたその光球の正体は、四頭の獣の双眼だった。



「やっちゃっていいの?」


「ああ、いいぞ」


「やた」



 額に汗を滲ませる春樹をよそに、朱音は実に楽しげにステップを踏み始めた。


 低い唸り声を上げて低く身構えていた獣たち。


 その内の二匹が、ついに地面を蹴って飛びかかる。



 一方で春樹は、朱音の後方で息を飲みながらじっとしていた。


 春樹自身が手を出さない理由は簡単だった。


 元々、素手で煉瓦を割るような身体能力を持つ朱音の腕力が25%も増加しているのだから、もし一緒に戦って彼女の拳がかすりでもしたらただでは済まない。


 ようは足手まといになりかねないからだった。



 サポートに回ることを決め込んでいた春樹は、ポケットの中にあるポーションの瓶の栓に指を掛けていた。


 もし朱音が噛みつかれるようなことがあればすぐにその獣を蹴り上げて、傷口にこれを振りかける。


 頭の中でそうシミュレートしていた。


 だが、すぐにそれが杞憂だと気づき馬鹿らしくなってため息をついた。



「とっておきだ! 三島流奥義! そう、りゅう、けーーん!」



 完全に遊んでいた。


 朱音は顔面めがけて飛びかかってきた先頭の獣の腹の下に潜り込むと同時に左拳でショートアッパーを放ち宙へと打ち上げる。


続けて地面すれすれを振り子のように走らせて加速させた右拳を、二匹目の下顎に突き立てたまま一緒に飛び上がった。


 打ち上げられた二匹の獣は空中で激突して、地に落ちることなく風と共に空へと溶けた。



 残りの獣も慌てて続くが、朱音は一匹目をハイキックで撃ち落とすと、スカートをなびかせながらくるりと回ってもう一匹に後ろ回し蹴りを喰らわせた。


 一撃目の蹴りはキックボクシングのスタイルだったが、二撃目は完全に空手の後ろ回し蹴り。


 キック、空手、総合。


 多様な格闘技を教えているジムの娘らしく、流派もジャンルも入り混じったでたらめな動きだった。



「よしっ♪」



 その体をレベルアップの眩い光が包み込む


 やがてそれが霧散すると歯を見せてニカリと笑う朱音の姿があった。



「春ちゃん見た? 私の必殺技っ!」


「ああ、すごかったよ。そのうち手から波動もでるんじゃないか」



 春樹は雑に返事をしてから、その頭をぐりぐりと撫でてやる。



「カラテバーカ!クロオビー!オオヤマ!」



 正門の格子の隙間から、ライアンがはしゃいで飛び上がっているのを見つけた朱音は、親指を立てて「余裕っチ」とウインクをした。

 まるでわけが分からず、春樹は考えることをやめた。

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