解毒ポーションと赤鬼の銀輪④
保健室から多目的教室へと戻ってきた兼光たち5名。
「あ、危なかった……」
「死ぬかと思ったぜ……」
「自分もッス……」
健吾と薬師寺と梶浦が、肩で息をしながら呟いた。
保健室に無事たどり着いた彼らは、ゴミ箱から例の瓶を持ち出すことに成功するも、戻る最中にゴブリンの群れに待ち伏せを受けた。
兼光と美砂がそのうちの数匹を返り討ちにして道を切り開いたおかげで、なんとか逃げ延びることができたのだった。
「ほら、これよ」
美砂は緑色の液体が入った小瓶を児玉浩太に手渡した。
「ちょっと待っててくださいね」
浩太はその小瓶を地面に置くと、インターフェイス画面を開いて「収納」アイコンに触れた。
そしてアイテム一覧を開いて収納された小瓶の情報を確認する。
「ビンゴです! みて下さいこれ!」
浩太は興奮した様子で画面を美砂たちに向けて見せた。
『解毒ポーション。効能:毒を治療できる。二日酔いにも最適。メロン味。売却価格:800クレン』
健吾が読み上げると、他の生徒たちからも歓声が上がる。
「二日酔いにも効くのか……。このクレンというのは何かの通貨単位なのかな?」
兼光は真面目な顔をして考え込む。
「そんなことどうでもいいわ。急いで、ちびっこ」
「あっ、そうですね。すぐ取り出します」
美砂が急かすと、浩太はすぐに「取り出し」を押し、小瓶を美砂に返した。
「薬よ、飲みなさい」
美砂が桜の上半身を抱えてそれを飲まそうとするが、既に意識が無くなりかけている桜は眉を少し動かしただけで、口を開こうとはしなかった。
美砂は苛立ちながら、突然に瓶の中身を口に含む。
そして桜の頬を掴んでその口に少しだけ隙間をつくると、唇を合わせて覆い、舌でこじ開けながら口の中の液体をわずかな隙間に流し込んだ。
密着した二人の唇の隙間から溢れた緑色の液体が一滴二滴と滴り落ちる。
医療行為だとは分かっていながらも、多くの生徒たちの心は穏やかではなかった。
顔を上げた美砂が周囲の生徒を睨むと、皆一様に視線を反らして宙を見た。
「ちびっこ、これでいいのよね?」
美砂はブラウスの袖で唇を拭いながら浩太に尋ねた。
「あっ、はい! 多分……」
頬を赤らめてぽーっとしていた浩太が、慌てて背筋を伸ばしながら答える。
しばらくの沈黙が続く。
誰もが願うような気持ちで桜を見守っていた。
「風町……様?」
桜は小さく口を開くと、ぼんやりとした瞳で美砂を見つめた。
「具合はどう?」
「はい、少しボーっとしますけど……すごく楽になりました」
「それはよかったわ」
「また、助けてもらっちゃったんですね」
「そうよ。手間かけさせないで」
「でも私、ありがとうって言いません」
「よくわかってるわね」
「はい、お礼は言うものじゃなくてするものですから」
美砂が頭をなでてやると、桜はくすぐったそうにしながら微笑んだ。
(風町さんの方が年下なんだよな……)
健吾は心の中でそう呟いて、複雑な面持ちで二人のやり取りを眺めていた。