解毒ポーションと赤鬼の銀輪③
「これってもしかして……婚約うでわ!?」
「まさかの新出単語。―――ほら、いくぞ」
春樹は力いっぱいに地面を蹴ると、先に飛び出していった。
「大丈夫か!?」
春樹が青年に声をかけると、彼はさっと春樹の後ろに回って身を強張らせた。
ひょっとすると豹やライオンとほどの大きさがありそうなその獣は、低い唸り声を上げながら春樹を睨みつけていた。
「春ちゃん、後ろにもっ」
やや遅れて到着した朱音が春樹たちに背を向けたまま叫んだ。
どうやら挟まれたらしく、逃げようにも逃げられなくなってしまった。
「朱音、そっち任せてもいいか?」
春樹は覚悟を決めると、正面の獣から目を放すことなくそう言った。
「うん。がんばる!」
朱音は元気に返事をしてから両拳を顎にぴったりとつけると、軽快にステップをし始める。
春樹も一応それらしく構えてはいるが、朱音に比べると幾分かぎこちない。
「さあこい!」
春樹が叫ぶと同時に、獣たちは一斉に飛びかかった。
意外にも、勝負はほんの一瞬で幕を閉じる。
朱音の放った拳は獣の牙を、顎を、頭を、一撃で粉砕。
春樹の放った蹴りは獣の鼻っ柱を押し返し、頭が首に、首が胴体にめり込むほどに圧し潰されていた。
ほどなく、どちらの獣も体から黒煙を上げながら消えてしまう。
「春ちゃん、何この腕輪――――」
自らの拳の威力に驚いた朱音が、春樹の元へ駆け寄ろうとした時だった。
『ミシマ アカネハ レベルガ アガッタ』
ファンファーレと共に朱音の体が輝き始める。
「わっ、わっ。すごいよ、私今輝いてるよ!」
驚嘆の声を上げる朱音をよそに、春樹は腰を抜かしてへたりこんでいる青年に向き直った。
「君は確か……」
春樹はその青年に見覚えがあった。
グレーの瞳、金色の髪の毛。
背丈は春樹と同じくらいで、180cmはあるだろうか。
「イ、イチネン ライアン イイマスデス」
彼はイギリスからの留学生だった。
まだ日本にきて2、3か月ではあったが、その端麗な容姿のせいで「ゴールドプリンス」として学校中で話題の的となっていたため、春樹ももちろん彼のことは知っていた。
「学校に向かうところかい?」
「ハイ。デンシャ トマリマシタ。ガッコウ イッテ ネマス」
「寝るの!? まあいいや。俺は二年の天羽。俺たちも学校に戻るところさ。一緒に行くかい?」
「イッショ イク。メッチャ アリガット」
ライアンはそう言って、春樹と朱音に何度も頭を下げた。