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健吾の決意

 いやこの場合、教師である薬師寺が矢面に立つのは当然なのだが、その体格や日頃の生徒に対する厳しい態度からは想像もつかないほどに臆病さを披露していた彼が手を上げたのは、やはり意外だった。



「さっき聞いたが、田村先生は亡くなったそうだな……。まだ田崎先生が校舎内のどこかに立てこもっているかもしれないからな。探しに行きたい」



 そう、国語の女教諭、田村は体育倉庫の側で獣に喰い散らかされて死んでいた。


 理科教諭である田崎の行方は分からないままになっていた。



「でも田村先生たちって、私たちを見捨てて逃げたんですから、自業自得じゃあないですか。命をかけてまで助けにいく必要があるんですか?」



 震える声でそう言った女生徒の瞳は深く沈んでいた。


 薬師寺は「なんだと!他の先生方はあのとき―――」と大声をだしかけたが、その少女の泣き出しそうな顔を見て言葉に詰まった。



「ご、ごめんなさい。この子、加藤さんの親友だったから……」



 別の女子生徒が庇って、彼女の肩を引き寄せた。



 加藤。最初に犠牲になった少女の名前だった。


 突如として校庭に現れた獣たちに彼女は食い殺された。


 実のところ、あのときに校庭から姿を消した数名の教師たちは、獣たちを追い払うためにと、武器になりそうなものを取りに走っていたのを、薬師寺は知っていた。


 薬師寺に「少しの間、生徒を頼む」と残して。


 誰もが恐怖に支配されて動けないあの場において、田村という女教師は責務を果たすべく奔走し、その末に別の魔物たちに食い殺された。


 彼女が屋内に避難せずに屋外にある体育倉庫の側で死んでいたのは、そういう理由であったことを薬師寺は察していた。


 だが、薬師寺自身は田村たちに変わって生徒を守ることができず、宝木桜を救ったのも結局のところ兼光と美砂であった。


 それを悔いていた。



「……」



 沈んだ空気が場を支配する。


 薬師寺もかける言葉がなく、ただ俯いていた。



「絶対敵とってやる。それにこのゲームをクリアすれば全部巻き戻して元通りになるって話だったし、まだ希望はあるよ」


 

 沈黙を破ったのは健吾だった。

 

 少女の側にしゃがみ込んで肩に手を添えながら、いつになく真剣な顔でそう励ましていた。



 いや健吾が励ましていたのは自分自身だったのかもしれない。


 自分の甘い考えのせいで二人の後輩を死なせてしまった。


 必ず彼らを生き返らせてやる。


 彼はそう決心していた。



「わたしも……頑張ります」



 健吾の強さと優しさに触れた少女は、そういってポロポロと泣き出してしまった。


 兼光、健吾、梶浦、薬師寺はお互いに顔を見合わせると、それぞれが手に武器を持って教室の出口へと向かった。

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