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レベルアップ④

『おいおい、天羽あもうちゃん。そんなつまらない願いごとを言うなんて、ちょっとがっかりだぜ』


『元の世界を取り戻すというのも、RPGの醍醐味だろう』


『なるほど、それもそうだな。もちろん可能だ。時間を巻き戻してすべて元に戻せるぜ』


『だろうな。この世界は元々ゲームなんだ。セーブポイントまで巻き戻すのは簡単だろう』


『そういうこった』


『あと一つ、あんたは「創造世界」で作られた別の世界でも、同じような世界改変をやってきたんじゃないか?』


『……察しがいいねえ。正解だ』


『そうでないと、あのもう一人の声の主が、モンスターが現れるなんて知っているのは不自然だからな。過去にも似たような事例があったのだろう』


『やっぱ良いねえ、お前』


『それで、過去にこのゲームをクリアした世界はあったのか?』


『今のところは20件中1件だけだな』




「一件だって!?」



 兼光が驚嘆の声を上げる。



「ほぼ無理ゲーじゃねえか!」



 健吾がつられて叫ぶと、他の生徒たちも動揺を隠せずにどよめき始める。



『そうか。それを聞いて安心したよ』



 春樹のその言葉に驚いた生徒たちは、ぴたりと会話をやめて耳をそばだてた。



『単に破壊を楽しむために、絶対にクリアのできないゲームをさせる気じゃあないだろうかと、不安だったからな』


『俺がそんな悪魔に見えるか? このゲームの難度はそんなに高くねえよ。ただな、起こるんだよ、クリアが激ムズになる状況がな。俺はそれが見たくてやってるようなもんだ』


『どういうことか、教えてはくれないんだろうな』


『お前さんならすぐに気づくだろうさ。さあ、俺の自信作、「MMO リアリティー」開始だ! もっともこの場合のOはお前らにとっちゃあオフラインのOだけどなぁ!』



 下卑た笑いを最後に、頭の中で聞こえていたすべての音が止む。



「モンスターたち、動き出したみたいス」



 梶浦がそう言うと、兼光は短く「そうか」とだけ言った。



「すまないかねみっちゃん、二人を死なせちまった」



 健吾は兼光に深々と頭を下げて、奥歯を噛みしめた。



「いや、君たちが生きていてくれて、嬉しかったよ。それにあの男のいうことが本当なら、このゲームをクリアすれば皆生き返ることになる。なにより、二人の死は無駄ではなさそうだ」



 兼光は手押し車いっぱいに積まれた武器を見ながらそう言った。



「さあ健吾、次はどう動こうか」


「まずはこの腕輪の機能を確かめようか」



 兼光の問いかけに、健吾が右手首に巻かれた腕輪を眺めながら答えた。



「そうだね。もう皆取りかかってるみたいだけど……」



 教室を見渡すと生徒たちは皆、腕輪から浮かび上がるホログラムの画面を指先でなぞったりしながら色々と試しているようだった。



「会長、これ、まじでスマホみたいだわ」


「ほんと、画面を指ではじくと色んな機能がでてくるよ。見てみなよ」



 少々浮かれた様子の生徒たちの手慣れた指さばきに感心しながら、兼光は道着のポケットの中にあったガラパゴス携帯をぎゅっと握りしめる。


 機械に対しての苦手意識が人一倍にある兼光であったが、この時ばかりは日ごろからスマートフォンを使っておけばよかったと後悔した。


 そしてごくりと唾を飲み込むと、腕輪のスイッチを押した。


 浮かび上がった画面ではしばらく何かの情報を送受信しているようだったが、間もなくブルーの画面が表示される。



「ふ、ふむ、アイコンは6つか」



 ステータス スキル アイテム マップ コミュニティ システム。


 兼光はどれを押したものかとしばらく悩んでいたが、見かねた健吾が横からステータスのアイコンを押した。



「かねみっちゃん、見てみろよ。これ、俺たちのステータスみたいだぜ」



 画面上では兼光そっくりの3Dキャラクターがゆっくりと回転しており、その隣の説明文にはこう書いてあった。



『斎藤 兼光 age18 4月2日生まれ 高徳高校3年 生徒会長 剣道3段 趣味:時代劇観賞 口癖:次はどいつだい?』と。



「かねみっちゃん時代劇好きなんか。てか口癖……」



 健吾がからかうと、兼光は木刀の柄でその腹に当身を打ち込んだ。



「ぼ、僕はこんな口癖持ってないぞ! さっき一回言っただけで……」


「ちょっ、ムキになるな……よ」



 健吾はみぞおちの辺りを押さえてそういうと、床に向かってどさりと倒れてしまった。


 実のところ兼光は、一人稽古のときに時代劇の殺陣を真似するのが好きで、びしっと決まった時にはいつもこの決め台詞を呟いていた。

 

 だがそれを知るのは自分だけのはずなのにと、訝しげな顔をしながら画面を見つめ直した。



「そういう君の方はどうなんだ」



 兼光は肩を震わせて悶絶している健吾の腕を掴むと、そこに浮かんでいる画面をまじまじと見つめる。



『大喜多 健吾 age17 7月7日生まれ 高徳高校3年生 ピッチャー。趣味:エッセイ作り 口癖:このシンカーで三振かー!』



「え、ボール投げるときにこんなダジャレを言っているのかい? 健吾くん」



 兼光が目を細めながら健吾の背中をぽんぽんと叩く。



「い、いや……、シンカー投げるときに心の中でたまに言ってるだけで、実際に口にだしてるわけじゃあ……」


「あと、エッセイってなんだろうね」


「それはなんというか、自叙伝というか……。将来俺がプロになったときに発売予定の……」



 あながち有りえない話ではなかったのでこれについては兼光も嗤わなかった。



 兼光が視線を自分の画面に戻して眺めていると、ステータス画面の右下で点滅するアイコンに気が付いた。



「未収受経験値? なんだろうこれ」



 点滅するアイコンに恐る恐るに指で触れると、小窓の確認画面がポップアップする。



『EXP45を受け取りますか? はい いいえ』



 兼光が首を傾げながらも何気なしに『はい』のボタンを押す。


 するとにわかに彼の全身からほんのりと光が漏れ始めた。


 当然、生徒たちもそれに驚いて兼光に視線を集める。



「か、かねみっちゃん? 体が光ってるぞ」


「わ、わからない。押したボタンがまずかったのか!?」



 困惑する彼らをよそに、兼光の体を包む光が激しさを増す。


 そしてその光が飛び散るようにして拡散したあとで、どこか懐かしく、聞き覚えのあるファンファーレが教室に鳴り響いた。



『パラパラッタッター サイトウ カネミツハ レベルガ アガッタ』

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