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決戦前夜②

「コータ。ナニ シテル ノカ?」



 宴席から離れた通路にしゃがみこんでIFを弄っていた浩太にジュースを手渡しながらライアンが首を傾げる。



「ありがとライアン。んっとね―――」



 どうやら浩太は、自分にもできることをしたいという思いから、他の町がどうなっているのか情報を集めるべく奮闘していたようだった。


 IFの「フレンド申請」の機能を使い、9ケタの数字とアルファベットからなるIDをあてずっぽうで打ちこんでは申請ボタンを押していたのだ。

 

 そのことを浩太はなるべくライアンの分かりやすそうな言葉を選びながらゆっくりと説明をした。



「上手くいけば他の町の人と情報交換できそうなんだけど、からのIDが多くて全然ヒットしないんだよね」



 そう、IFの個人IDは完全ランダムで割り振られており変更もできないため、よく使われる言葉であったり、生年月日であったりというような分かりやすいものではない上に、9ケタの数字とアルファベットの組み合わせは全部で約100兆通りもある。


 現在、世界の人口がクラッカーの言うとおり40億人程度だと仮定して、ランダムに打ちこんでヒットする確率はおよそ0.004%。つまりは2万5千回に1回という途方もない数字になる。


 浩太は以前から暇を見つけてはこれを試みていたのだが、やはりそう容易くはいかなかった。


 そして、この日の試行回数は既に5000回を超えており、必然、その表情には疲れの色がはっきりと見え始めていた。



「コータ、オラモ。オラモスル」



 相変わらず一人称が安定しないライアンが、急かすようにしてIFの巻かれた自分の左腕を差し出す。


 浩太は子供をあやすかのように「はいはい」と苦笑を浮かべながら、フレンド申請のID入力画面を開いてあげた。



 それから30分ほど、二人は黙々とフレンド機能のID検索欄にデタラメな英数字を打ち込んではフレンド申請を試みていたが、やはりどうにもヒットせずにいた。


 春樹、達也、麻衣が抜けた東組を日中に風町病院まで護衛したライアンは、よほど疲れていたのかいつの間にか寝息を立て始めていた。


 浩太はその寝顔に向かって「おつかれさま、ライアン」と呟くと、すっかり見飽きたフレンド申請画面に視線をもどして入力を再開する。


 戦闘には参加していなかったとはいえ、浩太もライアンに同行して魔物の徘徊する街中を歩き回っていたため、肉体的な疲労もそれなりに溜まっているはずであった。


 しかし、それでも眠気を我慢して指を動かし続ける。




 さらに一時間後。


 ロビーに所狭しと集まって食事をしていた人々のほとんどが、それぞれ割り振られた病室に戻って休み始めた頃だった。



「ソーリー、コータ。ワテ、ネタッタ」



 眠っていたライアンが誰かの話し声に気が付いて、目をこすりながら体を起こす。


 しかし浩太は黒目だけを動かしてライアンの方を見ると、小さく頷いてから会話を続けた。


 そう。ついにフレンド申請が成功し、浩太はその相手と通話している真っ最中であった。


 

「それでどうなったんですか? えっ!? 本当……ですか……。―――ありがとうございます。すぐにこちらのリーダーに伝えます。―――また、連絡させてください」



 通話を終えた浩太に、ライアンが興奮した様子ですぐに話しかける。



「コータ! オテガルダネ!」



 「お手柄だね」と言いたかったのだろう。


 ライアンは自分のことのように喜んでいたが、すぐに浩太の浮かない表情に気が付いて首を傾げた。



「コータ?」


「……うん、やっと成功したよ。相手は台湾の人だったけど、翻訳機能を使ったら普通に会話できた」


「Oh。ナニ ハナスタ?」


「―――彼らも30人くらいの人数で安全地帯へ向かったらしいんだけどね……。その人だけを残して……全滅したみたいだ」


「ゼンメツ?」


「みんな、殺されたって意味だよ」



 浩太はそう説明しながら、自らの発した言葉に身を震わせた。






 3F、リハビリテーションルーム。


 兼光は宴の仕切りを健吾に任せて、梶浦徹かじうらとおる服部彰はっとりあきらと共に明日の作戦の準備をしている最中だった。



「武器も結構集まりましたね」



 梶浦は部屋の中央に山積みにされたそれを眺めながら満足げに頷いた。


 バットや木刀などの鈍器だけでなく、ナイフ、包丁、ノコギリ、園芸用の刈込鋏などの刃物も充実している。


 もちろんこれらは作戦参加者たちがレベル上げがてらホームセンターから拝借してきた物だった。


 

「明日の昼までには職業に合わせた武器を配布しておきます」



 服部が手元のバインダーに挟まれた「作戦参加者名簿」の「職業欄」をチェックしながら言った。


 実際のMMOのように職業によって装備できる武器が決まっているわけではないが、どうやらスキルに関しては武器の制限があるらしい。


 たとえば兼光の「乾坤一擲」は、一定以上のリーチのある武器でなければ威力が半減するし、健吾の「破砕撃」は一定以上の重量のある武器でなければ発動しないことが判明している。


 なので、持ち寄った武器は一旦一か所に集めて、職業の決まった者から順に適した武器を手渡しいくことになった。

 


「ありがとう、そろそろ休んでくれ。僕ももう少ししたら寝ることにするよ」



 兼光がそう促すと、二人は軽くお辞儀をしてからリハビリテーションルームの出口へ向かったが、扉を開けたところで児玉浩太と鉢合わせて足を止めた。



「君は確か、一年生の―――」



 梶浦が名前を思い出すよりも早く、兼光が「やあ、児玉くん、どうしたんだい?」と声をかけた。


 兼光にとっては浩太は恩人であったので、名前をしっかりと憶えていた。


 彼の機転によって解毒ポーションで宝木桜を助けることができたし、ステータスの割り振り方も教えてもらった。


 ゲームに疎い兼光にとって、浩太はこの現状を良く理解しているという点において、天羽春樹と並ぶ有識者といえた。


 浩太は梶浦と服部に会釈をしてから中へと進み入ると、すぐに真剣な顔に戻って兼光の前に立つ。



「実は―――」 

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