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第六章:邪で穢れた剣

ワイバーンは雄叫びを上げハイズに突っ込んで来たが、最初より荒々しい。


何せ地面すれすれに飛行し、左右にある木林を薙ぎ倒しているのだからな。


しかし、それにより弱点である腹は隠れ見る者に己の硬い皮膚を見せ付けていた。


それをハイズはジッと見つめている。


ワイバーンの皮膚は鋼鉄を超える鱗で護られており並みの武器など簡単に弾き、圧し折る位は出来る。


自分が削った樫の木刀も圧し折られた事が何度もある折り紙付きだ。


だが、どうしても必要なのだ・・・・・・・・


「悪いが、お前とヴァイパーは必要なんだよ」


唯一の主人を護り続ける為に!!


ハイズが地面を大刀で抉り土をワイバーンに投げつけた。


これをワイバーンは避ける事が出来ず顔に浴び目潰しをされるが、速度は落とさない。


グワァァァァァァグ!!


雄叫びを上げ強靭な牙でハイズを噛み砕かんとワイバーンは試みた。


眼は潰されたが、臭いは分かる。


ところが手応えが無い。


いや、そればかりか・・・・片足に痛みが走った。


爪と皮膚の・・・・間だ。


グギャァァァァウ!?


ワイバーンは頭から大木に突っ込み大きく横転した。


それでも身体を振って牙を見せ威嚇するが、眼は見えないから・・・・・自分の右足の爪が一本ばかり無い事が分からない。


ただ、痛くて、そして恐かった。


それがハイズには分かったのか、口端を上げ獣みたいに尖った犬歯を見せ笑う。


ワイバーンの弱点は腹だ。


腹は鱗で覆われていない。


何故ならブレスを吐く際は鱗が邪魔になるからだ。


だから腹は皮袋みたいになっているが、そこだけが弱点では・・・・・ない。


大きくて鋭利な爪と皮膚の間も脆い。


それは獲物を捕らえる際に爪を食い込ませ易いように関節があるからだ。


そして眼も弱い。


探せば案外・・・・弱点は多く、動きも読める。


しかし、幼い時から稽古をしていたハイズだからこそ出来る芸当と言えるだろう。


とは言え時間は無駄にしたくない。


ハイズはワイバーンの指一本を切断し、血脂を吸った大刀を両手で持った。


先程までは我流色丸出しで汚い構えだったが、右上段霞に構えると・・・・・妖しい美しさが垣間見えた。


ワイバーンは臭いでハイズの位置を確認すると両翼でバランスを取るや・・・・・腹を膨らませる。


それを見てハイズは一気に距離を縮めようと駆け出す。


ワイバーンの武器は強靭な爪牙、尾にある毒、そしてブレスだ。


どれも強力だが敢えて何が脅威かと問うならブレスと大半は答えるだろう。


何せワイバーンは最強の生物とされるドラゴンの血を少なからず引いている。


そのためブレスは強力で大抵の物は焼き尽くしてしまうのだからな。


ただ・・・・・腹を膨らませるから一瞬だが速度が遅くなり、弱点である腹も晒け出す。


今も腹を晒した。


ハイズは距離を縮め撃剣の間合いに入ると右霞の構えから突きを繰り出した。


その突きは獲物を見つけた隼の如く凄まじい速度でワイバーンの腹に吸い込まれて行く。


ワイバーンはブレスを吐こうとした瞬間に腹を貫かれ首を仰け反らせる。


しかし、ハイズの大刀は腹を貫き、そこから逆袈裟に切り落とされたので腹が破けた。


ドロォ・・・・・・・・


贓物が一気にワイバーンの腹から零れ落ちるが、その時にブレスが溜まった贓物が出て来る。


それをハイズは足で遠くへやるが慎重にして丁寧な感じだったのが興味深い。


というのも下手に乱暴な扱いをすると贓物が破ける恐れもあったからだ。


同時に・・・・・ブレスが溜まった贓物は何かと高値で取引されるから金にする面もあったのだろうが。


腹を切り裂かれ贓物を出したワイバーンは雄叫びを上げ飛翔しようとした。


ワイバーンは飛翔する際に地面を走り助走をつけるが、そんな事は関係ないとばかりに飛び立とうとする姿は、見ていて実に痛々しい。


痛々しいが追い打ちを掛けるようにハイズの大刀が・・・・・空を切り裂く。


今度は翼にあった爪を切り、そこに刃を食い込ませ片翼を切断した。


またしてもワイバーンは悲鳴を上げるが、最後とばかりに尾を力一杯に振った。


尾は棘状となっており、そこに神経毒が含まれているから掠っても終わりだが・・・・それをハイズは難なく避ける。


そして上段に構えると力任せに大刀を振り下ろし・・・・関節部分を狙って切断した。


切り落とされた尾は暫し独立した生き物みたいに動くが、やがて大人しくなる。


尾を斬られ、翼と足も傷つけられたワイバーンは尚も悲鳴を上げて暴れ回るが、ハイズは何処までも冷静だった。


「・・・・・・・・」


暴れ続けるワイバーンの背後に回ると素早く首に跨り強引に口を抉じ開け・・・・・・抉じ開けた口の中に大刀を突っ込む。


ワイバーンは直ぐにハイズの腕ごと噛み砕こうとしたが、それよりも早くハイズは深々と大刀を口内に差し入れ・・・・・抉る。


何かに当たったのか、ワイバーンは身体をビクリと震わせた。


そしてハイズを振り下ろさんとしたが・・・・・やがて大人しくなり、ついには全く動かなくなり両翼を力なく広げる。


これで完璧に死んだ・・・・・・・・


「これで良い・・・・・・」


返り血を浴びたハイズは満足そうに言い大刀を口から引き抜くが、腕からは血が流れており、牙が数本ほど突き刺さっている。


「ふんっ。せめてもの報いにしては情けないな」


悪態を吐きながらもハイズは牙を抜き、大事そうに懐へしまう。


それは最後まで相手に報いる事が出来なかった過去の自分を嘲笑っているように見えなくもない。


だが・・・・もし、ここに常人が居ればどうだ?


恐らく何も言わず恐怖し、ハイズを化け物呼ばわりしただろう。


そして剣を学んでいる者が居ればこう言うだろう。


『貴様の剣は剣に非ず。貴様の構えは構えではない。ただ、本能の赴くままに剣を振り、そして勝つ為ならば手段を選ばぬ剣だ!全く持って度し難く邪悪にして穢れ切っている!!』


剣術を始め古今東西を問わず武なる物は得てして効率よく相手を倒す洗練された術であるが、その理は「戦わずして勝つ」のが最上と説いている。


それは真の基本が「自衛」だからに他ならないが、生か死の立場に立って生を取る為に磨かれた殺人術だ。


だから勝利の為には如何にするか・・・・・・実に考えられている。


ただし、上記の通り基本は自衛にして己の殺人術が使う日が来ないように誰もが願っているだろう。


とは言え何処の世界にも通じるが・・・・・年月を経て行けば形骸化していき、真の基本から外れていく。


現にハイズの元祖国にある剣術も戦いに如何にして勝つかという理から外れ、何時しか如何に美しく、そして綺麗に技を決めるか・・・・・が求められるようになったのだ。


そういう物ほど実戦では殆ど役に立たない小細工や小手先の技を重要視するが、そういう事を求める時代になっているのは現実である。


だから誰もハイズの剣術を認めない訳だが、既に彼にとって自身の剣術が大衆に認められなくても良かった。


「これで良い・・・・・これでエリナ様を護り切れる」


そう一人で満足そうに笑うのが良い証拠である。


明らかに極端な方法だと言う者は居るだろうが、今まで一人で生きて来たハイズにとっては他人を信用できないから自分が、と思ったのだろう。


「さて帰るか。今日中に・・・・こいつ等を物にしなければならないからな」


そう言ってハイズは叩き殺したワイバーンとヴァイパーの亡骸と、切り落とした贓物等を全て縄で縛り身体に縛り付ける。


明らかに倍近くある計4匹の魔物を難なく背負ったハイズは悠々と黄昏から完全な夜になる森林を歩き出した。


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