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第三章:新たな愛刀

髑髏の谷に到着したのは昼間だが、そこは昼間でも薄暗くて嫌な雰囲気をしていた。


いや、嫌な雰囲気なんて生易しいもんじゃない。


一緒に来た武器屋の主人が言う通り禍々しい気を出していた。


しかし、谷の入り口前に鳥居を置き、聖水等で浄めているからマシだ。


それでもマシな辺り・・・・・・


「流石は元悪党の巣窟だな」


俺の言葉にブロウベは頷いた。


「あぁ、そうだ。ここは悪党が大手を振るい、血で血を洗う激しい戦闘が行われた土地だからな」


何処も綺麗な場所なんてない。


「だから今もこんな風に禍々しい気を放っているんだよ」


自嘲気味にブロウベは言うが、先ほど以上に声が硬い。


それもそうだろう。


常人さえ感じる禍々しい気だから少しでも気を抜けば一巻の終わりだ。


それはティナの親友にして弓使いのエスペランザーが冷たい汗を掻いているのが良い証拠だ。


ティナも汗を掻きつつ必死に精神を保っている。


ところが・・・・・エリナ様だけは違う。


エリナ様だけは何処か平然としているが、禍々しい気は感じるのか眼を細めた。


「・・・・・悲しい、感じですね」


これほどまでに禍々しい気を悲しいとエリナ様は呟くが愚かでも馬鹿でもない。


本当に・・・・・悲しんでいるんだ。


「きっと、この場で死に絶えた者達も生きる事に必死だったんでしょうね・・・・・・・・」


そして最初は夢を抱いていたが、何時しか血の池を泳ぐ内に溺れて沈んだ・・・・・・・・


だから、こんなに悲しい気なんだとエリナ様は独白し一歩前に出た。


「皆さん、私は旅の者ですが、どうか私の従者に力を貸してくれませんか?」


ここに居る俺ことハイズ・フォン・ブルアは武器を欲しがっている。


「私みたいな小娘を護る為です。こんな見ず知らずの私の頼みを・・・・聞いてくれませんか?」


お願いです・・・・・・・・


エリナ様が頭を下げ頼むと禍々しい気が・・・・驚くべき事に大人しくなり、まるで迎え入れるように一本道を作った。


これは・・・・・・・・


「ありがとうございます。さぁ、ハイズ。行きましょう」


「・・・・御意」


俺は茫然としていたが、エリナ様に促され付いて行き他の者も後に続くが不思議な感じを覚えずにはいられない。


あれほどまでの気が目の前を歩く少女の言葉で大人しくなったばかりか道まで設けるなど普通なら在り得ない。


それなのに現実に起こった。


同時にエリナ様は見えるのか、綺麗に出来た一本道を迷わず歩いている。


いや違う・・・・・・・・


『皆が導いている・・・・・・・・』


前を歩くエリナ様の為に協力して道を開き教えているのが俺には分かった。


これが・・・・・エリナ様の気、か。


そこら辺の聖職者などより徳があり・・・・・清らかだ。


そして心から非業の死を遂げた者達を哀れんでいるから俺の同族達は・・・・・応えたんだ。


やがて祠が見えた。


祠は中々に大きいが雨風によってボロボロだが、祠もエリナ様の為にとばかりに鈍い音を鳴らしながらも入口を開け、俺達を中に迎え入れた。


祠の中に入ると何本もの刀剣や長柄が無造作に転がっている。


恐らく噂を聞いた誰かが・・・・・勝手に置いて行った類もあるだろうな。


得てして、こういう噂を聞くと人が集まるからな。


「可哀想に・・・・・・・・」


エリナ様は小さく呟くと一振りずつ武器を縦に置いていく。


こんな真似をすれば忽ち憑依されるが、エリナ様は何でもないのか、作業を続ける・・・・・・・・


俺も・・・・・触れて欲しい。


別に肉体関係を求めた訳じゃない。


寧ろ逆だ。


武器みたいにエリナ様の優しい手に触れてもらい、荒んだ気を癒してもらいたいんだよ。


そうすれば・・・・・・・・地獄の責め苦にも耐えられるからな。


自分でも呆れるほど哀れな性を自覚した時にエリナ様の持つ一振りの大刀が・・・・・強い気を放つ。


柄も鞘もボロボロだったが、まるで他の連中が「これを」と教えているように強い気を放ち続けているのが興味深い。


「ハイズ、これを」


エリナ様は持っていた大刀を俺に差し出した。


「・・・・・拝見します」


断りを入れてから大刀を掴み鞘から引き抜く。


刃長は85㎝で、反りは浅い中反りにして樋が掻かれている。


刃文は直刃に湾れ(のたれ)が混ざった物で、炎のような凶暴性と、氷のような冷酷性が写し出されていた。


「・・・・・・・・」


刃を水平にして地鉄も見る。


白けて流れるような板目肌板が、特徴的で鎬筋も高い・・・・・利刀だった。


しかし、かなり古い割には新品同様に輝いている。


こんな場所に置いておけば忽ち錆びて使い物にならないだろうに・・・・・・・・・


だが、これなら・・・・行けると俺は思った。


俺は手触りから求めていた物と確信し鞘に納めるが、エリナ様が再び俺に一振り差し出してきた。


「“片手打ち”物ですか」


片手打ちとはなかごが短くて力学上、片手で扱える物の事だ。


それも抜いて見るが作風が同じだから同一人物が打ったのだろう。


ただ、こちらは反りが先反りで長さも63㎝程度だから抜き打ち及び予備にも良いな。


片手打ちも腰に差すと最後に槍をエリナ様は渡してきた。


穂先は20㎝程度で柄は伸縮できる細工が施された代物だった。


「・・・・“髑髏の首狩り騎士”の得物かよ」


ブロウベ・ヴァルディッシュ辺境子爵が畏怖するような人物の名を口にした。


「誰だ?そいつは」


「お前が持つ3種の得物を使った騎士だよ」


何でも今から数十代も前の国王時代に遡るらしい。


その時代ではまだ政に宗教が口出す時代だったらしく歴代国王も苦心していたらしい。


だが、ある時・・・・・国教である聖教に時の国王が追放されるという事態が起こった。


本来なら家臣が助けるべきだが、聖教と王室の板挟みになった末・・・・・・国王追放に加担したらしい。


そんな憂き目に遭った国王だが一人の騎士に護られながら・・・・この地に逃げたと言う。


「しかし、その時代はまだ俺の先祖が治めず無法地帯だった」


おまけに国王を追放した奴は金を巻いて息の根を止めようとしたとブロウベは吐き捨てるように語った。


「その上で家臣達も聖教の命令を聞いたというから呆れるぜ」


「・・・・ある人物は宗教は毒薬だと言った。恐らく時の臣下達も毒薬に溺れたんだろう」


「だろうな。で話の続きを言うと・・・・・その騎士は国王を護る為に戦った。たった一人で、な」


全身を血で染めながら7日間も追い掛けて来た敵を倒し続けたらしいが、ついに矢を打たれ針鼠にされたらしい。


「ところが騎士は仁王立ちになり、最後まで国王が逃げた道を通さないように両手を広げたのさ」


ここまでは絵に描いたような美談だが、それからが・・・・・本当の話だ。


「針鼠になりながら死んだ騎士だったが死ぬ間際・・・・こう言った」


『我が主に害を成し、そして悪行を働く者共よ。今に見ていろ・・・・・地獄の底から我は髑髏となり貴様等の首を狩りに行くぞ』


そして王室より宗教を取った者達よ・・・・・・・・


『貴様等の首は最後に切り落としてやる。騎士たる者が国王を護らず敵になるという恥晒し者共は天高く首を晒すのが似合いだからな」


そう言って騎士は息絶えた後に谷底へ落とされた。


だが、その騎士の奮闘もあって国王は無事に・・・・・返り咲いた。


「それから間もなく俺の先祖を貴族した途端に死人が続出したのさ」


どいつも騎士を殺した連中で首を斬られ、心臓を貫かれた状態で発見されたらしいが・・・・国王を裏切った者達も間もなく死んだ。


騎士の言葉通り・・・・首を斬られ天高く腐るまで晒されたというから巷では死んだ騎士が地獄から来たんだと噂したようだ。


「だが、国王が再び訪れるとピタリと止んだ」


何故か?


「俺の先祖が書き残した書物によれば・・・・・国王が命じたんだよ」


『私を命懸けで護り通した騎士よ。もう良い。もう首を狩る必要はない。だから・・・・・私と共に帰ろう』


「・・・・・だが、騎士は帰らなかったのか」


この3種の得物がある事を考えた末に俺は聞いた。


「あぁ。書物によれば俺の先祖と国王陛下の前に現れた・・・・髑髏の仮面を被り、蒼白い肌の馬に乗った騎士は国王に跪いてこう言ったらしい」


『我が主・・・・・御許し下さい。この身は既に地獄に在り、もはや貴方様の傍に居る事は出来ないのです。そして私は殺し過ぎました故に・・・・・・願わくば我が骸がある谷底に祠を築き、そこに私を眠らせて下さい』


貴方様が・・・・・貴方様の血を引く者が再び訪れた際は・・・・・・・・・


「再び我が身を蘇らせ、そして貴方様を護り続ける・・・・と言ったんだな?」


俺の問いにブロウベは頷いたが、その騎士の得物を俺が3つ揃って持っただけが・・・・理由ではないと告げた。


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