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第二章:新たな名前

強い意思を宿す女神を見て俺は思った。


「これが・・・・“強く気高い心”、か」


「ああ?てめぇ、なんて言った?」


ブロウベ・ヴァイエル辺境子爵が喧嘩腰で問い掛けてきた。


先ほど自分の讒言を聞き入れられず俺が飼われる事になったから気に入らないんだ。


「昔・・・・祖国を追放される前に然る方を護衛した事があって、言われたのさ」


『お前さんの剣は斬撃も突きも隼だ。しかし、心が弱くては真に強いとは言えない』


「・・・・なるほど。言い得て妙だな」


お前の剣筋は速い上に鋭い。


「斬られた奴らも言っていた」


何が起こったのか分からない間にピリッとした痛みが走った。


「まぁ命は取り留めたが・・・・危うく死ぬ所だった」


「・・・・・」


この言葉を甘んじて俺は受け入れた。


蔑み忌み嫌われて当然だ。


捕らえようとした役人を俺は人として見ず、草としか見ていなかったからな。


だから邪魔な草を刈る如く・・・・・刃を振ったに過ぎず、そこを蔑まされ忌み嫌われても当然だ。


これからも恐らく・・・・・人を人と思わず殺し続けるだろう。


目の前の女神を命尽き果てるまで護る為に・・・・・・・・・・・


「・・・・決まりましたよ、貴方の名前が」


それまで黙っていた女神が唐突に声を出すや俺を見て微笑んでくれた。


嗚呼・・・・・なんて温かくて曇りない微笑か。


この微笑を護り切れるなら何でも出来ると俺は思いながらも言葉を待つ。


「貴方はハイズ。ハイズ・フォン・ブルアです」


「・・・・王国の古武将にして、初代国王陛下の名を与えられた者の名ですね」


女神が言ったハイズとは遥か昔に生きた武将で御伽話に出て来るほど民草達には知れ渡っており、初代国王陛下だったフォン・ベルトのフォンを与えられたとも言われている。


そしてブルアは・・・・・・・


「黒と紫の容姿を持つ所から取りました。どちらも暗い印象を与えますが、高貴な色です」


貴方は自嘲するでしょうが・・・・・・・・・


「私は貴方の黒髪も紫の双眸も好きです。だからハイズ・フォン・ブルアと名付けたんですが・・・・・如何ですか?」


「俺みたいな野良犬には勿体ない名前です。ですが・・・・・・誠に宜しいのですか?」


敢えて確認を取るが、不安で堪らなかった。


ふとした事で心変わりするのが人間だからだ。


ところが俺の不安を打ち消すように女神は微笑みながら頷いてくれた。


「今日から貴方はハイズ・フォン・ブルアです。主人は私---エリナ・ルシアンです。だから野良犬ではありません。良いですね?」


「・・・・はい。このハイズ・フォン・ブルア。死して魂の存在になろうともエリナ・ルシアン様。貴方様を御護り続けます」


ですから・・・・・・・・・・


「どうか、私を貴女様の御傍に・・・・・・・・」


土下座して俺は頭を下げ、そして言った。


「はい。私が死ぬまで傍に置きましょう」


嗚呼・・・・俺は、やっと巡り会えた・・・・・逢えたんだ。


俺という野良犬を受け入れてくれる唯一人の女神と・・・・・・・・・・・・・・!!


「おい、だったら来い」


感動で胸が熱くなる俺の頭上にブロウベ・ヴァイエル辺境子爵の不機嫌な声が降ってきた。


「・・・・何処に、だ?」


「てめぇの得物を探すんだよ。たくっ・・・・・この方の慈愛に満ち溢れた温情に感謝しろよ?もし、何かしてみろ。俺様が八つ裂きにしてやるよ」


「・・・・・・感謝する。お前にも、な」


ジロリと俺はブロウベ・ヴァイエル辺境子爵を睨み据えながら答えた。


「だったら直ぐに立って付いて来い」


言われるままに俺は立ち上がるが、新たな主人であるエリナ様も同行する事になり俺はブロウベ・ヴァイエル辺境子爵の領土にある武器屋に赴いた。

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武器屋に赴いた俺を2人の女が見てきた。


いや、明らかに警戒心丸出しで俺を睨んでくる。


特に右側に立つ桃色の髪に緑色の双眸を宿す女は今にも大刀の鯉口を切りそうだった。


「ティナ、止めなさい」


エリナ様が前に出て大刀の鯉口を切り掛けている女の名を呼び制止を求める。


「エリナ様、早くこちらへ!!」


名を呼ばれた女は制止を無視しエリナ様を自分の方へ呼ぶが、エリナ様は俺の前に立った。


「ティナ、今すぐ大刀から手を離しなさい」


「ど、どうしてですか?この男は罪人なんですよ!!」


「いいえ。この男---ハイズは、今日より私の従者です」


『!?』


これを聞いてティナという女と、隣に立つ同い年くらいの女は眼を見張りブロウベ・ヴァイエル辺境子爵を見る。


「本当・・・・だ。俺も認めたくはねぇけどな」


2人に見られたブロウベ・ヴァイエル辺境子爵は罰の悪そうな顔をしながらも説明した。


だが、2人は納得できない顔をしている。


そりゃそうだろうな・・・・・・俺みたいな男が従者に加わるんだ。


特にティナという女は剣士でもあるから俺の・・・・・歩んだ過去が解るんだろう。


「あんた・・・・これまで何人、殺したの?」


「不躾な質問だな・・・・数えた事もない」


俺は不愛想にティナの質問に答えた。


最初は数えていたが・・・・・途中からは嫌になって数えなくなったから本当だ。


ただ少なくとも・・・・・50~60は手に掛けただろうが、そこまで教える気は毛頭ないので俺はティナを無視し武器屋から出て来た男を見る。


「これはこれはブロウベ様にエリナ様。何か御用で?」


男は揉み手をしながらブロウベ・ヴァイエル辺境子爵と、エリナ様に笑みを浮かべて問い掛けてきた。


「こいつに武器を見せてくれ・・・・・エリナ様の従者になる」


ブロウベ・ヴァイエル辺境子爵が嫌々そうな口調で言うと男も俺を侮蔑の眼差しで見てきた。


「・・・・・・・・」


俺は無言で武器屋の主人である男を見たが、男は舌打ちすると「中に入って勝手に見ろ」と言ってきた。


「あぁ、そうする」


不愛想な態度を崩さず俺は武器屋に入るがエリナ様も付いて来た。


そうなると他の者達も付いて来るので・・・・・結局は皆で入ったから男にとっては骨折り損だ。


武器屋に入ると共和国から輸入したと思われる武器もあったが・・・・俺は一瞥する。


共和国の刀剣は細身で重ねも薄い片手剣のシャムシールか、幅広で両手持ちのシミターが基本だ。


一度だけ使ったが俺には合わないので要らない・・・・・


バスターソードやクレイモアもあり、こちらは手に取るがシックリ来ないので却下だ。


「ちっ・・・・野良犬のくせに御高く留まりやがる」


武器屋の主人が悪態を吐いてきたが、それには怒らず俺は顔を向けて聞いた。


「ここ以外に武器は無いのか?ティナやブロウベが持つような剣は・・・・・・・」


「おい、仮にも貴族であるブロウベ様を呼び捨てにして失礼だぞ!!」


「俺が仕えるのはエリナ様のみだ。他の連中に敬語を使う気なんて無い。それよりあるのか?無いのか?」


「この野良犬が・・・・・生憎だが品切れだ。文句あるか?」


「あぁ、ある。何時ごろ来る?」


「数日中・・・・だな。しかし、家じゃ扱ってない・・・・いや、扱い切れない剣なら腐る程あるぞ。ある場所に、な」


ある場所?


「何処だ?」


男の言葉に試す色を感じた俺は身を乗り出して聞いた。


「家の裏庭を真っ直ぐ行った先に谷が在る。通称“髑髏の谷”だ」


そこの谷には祠があり、そこに腐る程の刀剣があると男は告げるが・・・・・・・・


「全て使い手に災いを齎した曰く付きの代物ばかりだ。普通なら聖職者や魔術師が邪悪な気を浄化するんだが・・・・・アクが強いんで手に負えない」


「なるほど。魔剣・妖刀の類か」


この手の代物は五大陸に幾つかあるが、厳重に王室や貴族が管理している。


それは一度でも握れば絶大な力を発揮する反面で・・・・・持ち主を操り、欲しいがままに生き血を吸う「癖」があるからだ。


「どうする?行ってみるか?」


「あぁ、行く。そういう剣が俺には似合いだからな」


男の挑発的な言葉に俺は平然と答えるが、エリナ様は「大丈夫なのですか?」と問い掛けてきた。


「御安心下さい。これでも魔に対しては色々と知識も経験もあるので」


「ですが何も行かなくても数日待てば・・・・・・・」


「いいえ。もし、その数日中に刺客が来れば貴女様を危険に晒してしまいます。それは従者として失格です」


ならば主人に代わり従者が危険な眼に遭うべきだ。


エリナ様は俺の言葉に一理あると感じたのか、俺を見て「分かりました」と承諾して下さった。


「ありがとうございます。では貴女様は・・・・・・・」


「私も行きます」


残るように言おうとした俺だがエリナ様は遮ったばかりか、同行すると言って来た。


「それは止めるべきです。魔剣・妖刀の類は近付くだけで相手を威圧し、運が悪ければ引き寄せられて憑依されます」


「貴方が行くというのなら私も行きます。それが主人というものです」


違いますか?


そうエリナ様は言い、ブロウベ達も困惑していたが・・・・・この眼を見れば説得は無理だと分かる。


「・・・・分かりました」


俺は早くも根負けしエリナ様を連れて武器屋の裏にある髑髏の谷に赴いた。


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