ツンデレ不良男子と天然敬語女子
パラレルワールドで出てきたツンデレ攻略対象キャラ、桐生拓真のお話です。
ツンデレ男子と言うよりただ口と目つきの悪い男の子になってしまいました。
ツンデレ難しいです…
俺が彼女を気にするようになったきっかけは、春のとある日の昼休み。
元々目つきや口調の悪い俺はよくガラの悪いヤツに絡まれる。
その日も、いつものように人気のない静かな裏庭で昼寝をしようと足を運ぶと、突然上級生に絡まれた。
「おい、お前だろ?2年の桐生って。…俺らのダチが世話になったそうじゃねぇか?」
そんな風に声をかけてきたのはガラの悪い上級生。
…確かに俺は最近上級生に絡まれた。だが、いつ絡んできた奴がこいつらのダチなのか全く検討がつかない。
しかも、世話になったもなにも俺は一切手を出していないはずだ。
そもそも手を出せば俺まで先生に呼び出される。
そんなんで謹慎処分、悪ければ退学なんて馬鹿馬鹿しいにも程がある。
俺は真面目に勉学に励む無害な一般男子生徒だ。
つまり、相手が殴りかかってくるのをひたすら避けていたら相手のスタミナ切れで逃げ帰って行くというわけだ。
こういうことはよくあるので慣れたが、こいつら本当馬鹿。
人に喧嘩売って何が楽しいんだか…。本当に生産性の無い奴らだな。
はぁとため息をつくとセンパイは頭に血をのぼらせたらしく真っ赤な顔で殴りかかってくる。
その拳を難なくかわしとりあえず逃げることにする。痛いのは嫌だしな。
ってか下級生一人に対して5人も必要か。こんなことしてる暇があったら受験勉強してろよ。
なんてことを考えていたら何時の間にやら後ろは現在使用されていない空き教室の窓ガラス。
目の前のセンパイはそんなのもお構いなしに殴りかかる。
…おいおい、まじかよ。
ばきぃっと鈍い音とともによろける俺。
俺の顔面に一発くらわしたセンパイが喜色の笑みを浮かべ他の仲間と共に次の手を繰り出そうとしたその時だった。
「先生っ――!!こっちです!」
先生を呼ぶ女の叫び声が聞こえてきた。
その瞬間センパイたちはやべっ!と小さく叫び逃げて行った。
先生なんか気にすんなら初めからやるなよ。
呆れながら逃げるヤツらの背中を目で追う。
そんな俺の横から女の声が聞こえてきた。
「あの…大丈夫でしたか?」
おずおずと声をかけてきたのは猫毛のふわふわした髪をボブに切りそろえたやわらかい雰囲気を纏った女だった。
俺と目があった女は独特な、なんとも表現しがたいへにゃっとした笑みを浮かべた。
こいつ…確か…。
俺はこの笑い顔に見覚えがあった。
確かあの口うるさい女、園谷 楓が「可愛い子がいる」と言った際、視線の先で笑っていた女だ。
名前は確か…ひよこ?すずめ?何かそんな感じの鳥の名前だったような気がする。
「あの「大丈夫だからとっととどっか行け。」
先生を呼ぶフリをして機転を利かせたのは正直助かったが、素直に礼を言うのは癪だし何よりこういう奴は色々と面倒くさい。やれ喧嘩はやめろだ暴力は良くないだ関係ねぇのに口を挟んでくる。
そんなのは俺だってわかってるっての。
いつもこの目つきの悪さで絡まれんだ。睨んどきゃ怖がってさっさと逃げるだろと思い女を睨みつける。
「…あ!ちょっと待ってて下さいね!!」
女は首を傾げた後、何か閃いたように声を上げぱたぱたと足音を立てどこかへ消えていった。
最後に残した言葉に引っかかるもののいなくなったことに安堵し木陰のあるいつもの定位置へと腰をおろし昼寝を始める。
目を閉じて1~2分後、こちらへ向かって来る足音が聞こえるではないか。
もしや…
足音が止み人の手が自分の顔に近づいてくるのを感じたので目を開けると、そこにはハンカチでくるんだ保冷剤を俺の頬に当てようとしている先ほどの女の姿があった。
「…おい、何してんだ。」
俺が低い声で問いかけると女は
「頬の手当てです。顔が腫れてしまったらせっかくの整ったお顔が台無しですよ?」
意味不明な言葉を言い、何が楽しいのかくすくすと笑いながら優しく俺の頬に保冷剤を当てる。
こんなことのためにわざわざ戻ってきたのかよ、変な奴。
とりあえず抵抗するのも面倒なので好きにさせよう。
「相手の方、怪我せずに済んでよかったですね。…人が良すぎですよ、桐生君。」
小さな声で呟いたこの女はやっぱりへにゃっとした顔で笑っていた。
それでは、きちんと冷やして下さいね?
女はそれだけ言うと俺に保冷剤を持たせ裏庭から去って行った。
…女が渡した保冷剤は火照った顔を冷ますにはちょうど良かった。
この日の出来事以来、俺はあの女がどんなヤツなのか気になり始めた。
ちなみに保冷剤を返しに行った際ハンカチは保健室の備品ではないことが判明したが、今でも洗濯したハンカチが俺の鞄に入っていることからどういう状況かは伺えるだろう。
今日もうっとうしい女、園谷楓は違うクラスにも関わらず俺の元へと足を運んでくる。
「おはよう、桐生。今日の調子はどう?雲雀ちゃんのハンカチは返せそうかしら?」
にやにやと嫌な笑みを浮かべて話しかけてくる園谷。
「うるせぇ。黙れ園谷。」
そう。あいつの名前が分かった。
あの出来事から1日が経ち、俺は初めて自分から園谷のいる教室2-Dへと出向いた。
園谷は“だから1年前から可愛い子がいるって言ってるじゃ~ん”と嫌な笑みを浮かべて言った。
しばらくぐちぐちと言われるかと辟易したが、そんなことはなく園谷はすんなりとあの女のことを話した。
あいつは2-Iの春日 雲雀と言うらしい。
この1学年12クラスもある学校で名前もクラスも知らない生徒を見つけるのはとても苦労するはずなのに。
友達なのかと聞いたところさぁ?と笑みを返すのみだった。
俺は時々園谷が恐ろしく感じることがある。
「ねぇ、桐生は雲雀ちゃんと話したいとか思わないわけ?」
耳元でいきなり言った園谷の率直な質問に俺は大きく肩を揺らした。
「ばっ!おまっ!!ふざけんなよ!?」
「平気よ、何のために小声で言ったと思ってるの。ここで騒いだら目立つわよ。」
もしかしたら桐生の思い人の耳にまで届いちゃうかもね~とこれまた小声で囁く園谷。
…こいつむかつく。
「あ、そうそう。それからあんた、いつか私の方に足を向けて寝られないほどに感謝することになるわよ。」
じゃあねぇ~。とヤツは意味深な予言と笑みを残し去って行った。
そして次の日から俺は昼休みや放課後、時間が空く度園谷に連行され、地獄のレッスンが始まった。
この時点での俺は知らないが、初回は園谷と鈴鹿、俺で行われた意味不明なこの講義は回を増すごとに受講者が増えていくことになる。
園谷によればなんでも春日雲雀はド天然で恋愛音痴らしい。
つまりどれだけアピールしても恋愛感情が伝わらないのだそうだ。
よくあるのが、「俺と付き合って下さい」「はい、どこへ付き合えばいいですか?」パターンだ。
そのため俺は裏庭へ行っては春日と交流を深めることになった。
園谷曰く、どんなに押しても相手が気付くことがないから逃げられる心配がないそうだ。
春日と出会って以来、裏庭へは行ってなかったから園谷に春日が時々裏庭へ行っていることを聞き驚いた。
そんなに大切なハンカチだったのかと聞いたその日に返しに行った所、俺の怪我の様子が気になっていたそうだ。
こいつ、その日会ったばかりの相手をそこまで心配するなんて…お人好しすぎるだろうと少し心配になってしまった。
そんなある日、俺はとんでもないことに気が付いた。
それは、ある日クラスメイトから聞いた園谷と愉快な野郎どもの噂だ。
噂とは面白おかしく大げさに語られるもので不安になった俺は園谷に聞いてみた。
「この噂も作戦のうちだから大丈夫。まぁ、あんたの所は雲雀ちゃんがアレだから全然関係のないことなんだけど…」
園谷の言葉通り春日はそんな噂は気にもしておらず…つまり全然平気だった。
こうして俺たちは人知れず交流を重ねて、ついに彼氏彼女にまでになった。
……ちなみにどのように告白したかは伏せておく。
「なあ?」
「何ですか?拓真君??」
「春日って初めてあった日、俺の名前知ってたよな?」
俺は目つきが悪いからか知らないが、校内に名前が知れ渡っているらしい。(クラスメイト談)
しかし、春日はそんな不特定多数の奴らが言う噂なんか覚えもしないだろうから別の理由があるのではと思い聞きたくなったのだ。
「よく覚えていらっしゃいましたね、拓真君。私も拓真君とお付き合いを始めてから色々な所で拓真君の名前が聞けてなんだか誇らしいです!!」
拓真君は人気者なんですね!
ふにゃりと笑いながら全然答えになっていない返事を返す春日。
「に、人気者とかじゃなくてだな…。これはただ単に俺の素行の問題と言うか…――。あぁ!だから、春日は誰から俺のことを聞いたんだ!?」
「そういうことでしたら!!…楓ちゃんが教えてくれたんですよ?1年生の時に人のことを誰よりも考える優しい男の子がいるって。」
「!!?」
春日のその言葉に俺はものすごく衝撃を受けた。
楓って、俺の知る限り楓と言う名前のヤツは園谷しかいない。
まさか、その園谷がこんな恥ずかしいこと言いやがったのか!?嘘だろ!!?
「春日!そのことは今すぐ忘れろ!!誰だ、春日にそんな恥ずかしいでたらめなことを吹き込んだやつはっ!!!」
がくがくと春日の肩を揺らし訴える。
春日は“わぁ~~!!”なんて言いながら揺らされるのを楽しんでいるが。
「ふふふっ。私、楓ちゃんに拓真くんのことを聞いてからずっとお会いしたかったんです。そうしたら、裏庭に通りかかったあの日、拓真君の名前が聞こえて…」
俺が春日の肩から手を離すと笑いながら話しだす。
「……幻滅したか?」
「え?」
「俺、こんなだから喧嘩はしょっちゅうだし、目つき悪ぃし口も悪い。春日の想像とは全然ちがったんじゃないか??」
いきなりこんなことを話し出す俺に春日は茫然とする。そりゃそうだよな。
言ってる本人だって何言ってんだ、コイツって感じだし。
春日に視線を合わせず俯いているとふいに両頬に手が添えられ上を向かされる。
「!?」
「いいえ、拓真君。拓真君は本当に優しい人です。何にもしてない拓真君にいきなり手を上げる方たちが怪我をしないように思いやってしまうほど。それに、怪我だけでなく体面の心配もしていたのでしょう?今まで何度もこんなことがあったのに先生たちに何も言わなかったみたいですし。あと、自分に手を出せなければ暴力をふるったことにもなりませんから。」
「私、本当はあの日拓真君が殴られたのを見て先生に言ってしまおうかと思ったんです。」
春日の言葉に息をのみこむ。
「でも、拓真君が見逃したから。私があまり言っていいことではないのかなと思って今回は見逃してあげました。」
ほっと息をつく俺を見た春日はむっと眉間に皺をよせ、でも…と続ける。
「でも、今は私、拓真君の彼女なので…遠慮なく言いますよ?」
余計なお世話かもしれませんが、そんな子を彼女にしたのは拓真君ですから。
そう言って俺の両頬に添えていた手をするりと離す。
「か、春日は俺を買いかぶりすぎだ。…言っておくが俺はそんな自己犠牲精神旺盛な奴じゃあない。」
そう、俺はただ単に痛いのが嫌いだから殴られるのを避け、面倒くさいから先生には言わないだけだ。
春日に見られたあれはたまたま隙ができて殴られただけで、春日の思っているような理由があったわけじゃない。
春日にそういうと春日はにこにこと笑って「いつかあの方たちが改心してくださると良いのですが…」と言うだけだった。
「そういえば、拓真君。」
「なんだ?春日??」
「拓真君は先輩たちに絡まれる理由が目つきが悪かったり、口調が少々荒いからと思ってしまっているようですが実は逆なんですよ?」
「はぁ?」
春日はいきなりなにを言い出すんだ。
逆ってどういうことだ?俺の顔が弱そうだからとか、口調が虚勢を張っているようにしか聞こえないからとか言うんじゃねぇだろうな?
「拓真君がこの学校で大変有名なのは端正なお顔をしているからですよ?それに、不良さんは嫉妬してつい手を上げてしまうんです。…それと、拓真君は他の皆さんと違ってお優しいので報復などの恐ろしい仕返しもありませんし。」
「ばっかじゃねぇの!春日、今すぐその口を閉じろ!!」
即座にそう言い春日の口に手を当てて黙らせる。
俺の顔が熱く感じるのは気のせいだ、気のせいったら気のせいだ。
この俺が端正な顔立ちしてるとか、優しいとか…色々ありえねぇ!!
そんなことを考えていると春日がもごもごと何か話したがっているので手を外してやった。
すると春日はその場の空気を和ますような独特なあの笑みを浮かべて
「大好きな拓真君は私が守りますから!!」
大船に乗ったつもりで安心してくださいね?と恥ずかしげもなくいい放った。
…っ!!
男が女に守られてどうすんだ!とかお前に守られるほど俺は弱くねェ!とか色々言うことがあったが、
まぁ、こいつがこうして俺の隣でへにゃっとした顔で笑ってんならもうなんでもいいか…なんて思ってしまう自分がいる今日この頃。
「そういえば、春日は園谷のこと下の名前で呼んでるが、仲いいのか?」
「はい!楓ちゃんとは1年のときからのお友達ですよ!!」
「は?」
「クラスは違ったのですが隣のクラスだったので体育などの合同授業で仲良くなったんです!…あれ?てっきり楓ちゃんがお話してくださっているんだと思ってました。聞いていませんか?」
春日の問いかけに呆然とする俺。
そういえば、私たちの恋のキューピッドは楓ちゃんでしたね!!なんて嬉しそうに笑う春日を見て俺は頭を抱えたくなった。
最後までお読みいただきありがとうございました!!
また別CPのお話も投稿できたらしたいと思いますのでその時は気が向きましたら温かい目で読んでやって下さい。