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赤い世界は今日も穏やか  作者: 浜井
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次の人生までの停留所

この小説には流血シーンや死を考える会話などが含まれます。また、登場人物の半数以上が人間ではありません。苦手な方はご注意ください。

 私は部屋で一人机に肘をついて窓を眺めていた。空は雲ひとつなく真っ赤に澄み渡っており、遠くには修理中の針山も見える。そういえば昨日また何人かが災害かと思う規模の力で乱闘をしていたんだったか。ここは私の知っている強さと違うベクトルの力を持った人が多すぎて頭が痛くなる。

 今も無数に飛んで移動する人が目に映るが、その光景に慣れてしまったのはいつ頃か。人間は空を飛べない、それが世の常識だと思っていたがここではそうでもないらしい。会う人会う人皆SFの世界の住人のような姿であることに驚き、言語が通じることに驚き、ゲームのような技を使えることに驚き。驚きの連発で失神した私を介抱してくれたのは、マリネットさんという腕が4本生えた青い肌と黒い角が印象的な女性だった。目を覚ましてその容姿を見て悲鳴を上げた私に問答無用でチョップをかまし、痛みで絶句したところで「ここは全宇宙の生物が集まってるんだから。地球人だけしか居ないなんてただの驕りよ」と簡潔に説明をしてくれた手際の良さを思い出すと、ああいう状況に相当慣れていたのだろう。

 この家があるG区域はこの世の門から最も近い場所にある、主に親不孝という項目でここに叩き落された者達が住まう場所だ。奥に行くほど凶悪な者たちが住まう区域になっていき、中でも性が関わってくる悪事をやった者は区域に閉じ込められているのだという。それなら殺人をやらかした者も閉じ込めておいたらいいのにと思ったが、この世では死ぬことがない分他の者にさほど害はないとして幽閉はないらしい。痛みはあるんだからその辺配慮してくれよと思う。

 この世界では、区域によってレベル分けされた仕事を日々こなして過ごしている。魂を洗う作業も兼ねているというが、古書の修繕がどう浄化に繋がるのか不思議でならない。本が好きなことも合間って楽しく仕事をしているのだけど、門から離れた区域の者は針山の修繕や人力発電など過酷な労働をさせられているようだ。ただそんな凶悪な連中が番人の言うことを素直に聞くわけもなく、頻繁にサボっては大暴れして大人しい私たちにまで迷惑をかけているのが現実である。魂の浄化は上の世界へ行くための儀式だというが、この荒廃した世界で好き勝手に暴れられる人たちにとっては上の世界など息苦しくて窮屈なものでしかないらしい。戦闘マニアな4つ目の大男・バルドさん曰く「上の連中と仲良く暮らすなんぞ反吐が出る」だそうで。

 ただ可笑しな話だと思うのが、今のところそう悪人らしい悪人に遭遇していないところだ。私を介抱してくれたマリネットさんは星を挙げて破壊屋をしていた戦闘員だというけど面倒見が良いし、頻繁に針山をぶち壊しているバルドさんも銀河を駆ける盗賊団の団長だったというが話せば言葉遣いの荒さが目立つだけの気のいい兄貴だ。他の極悪人指定されてる人も、時々変な思考回路はしているもののこちらに直接危害を加えることはない。変だと思われるだろうけど、私からすると「良い人」なわけだ。以前それをバルドさんに言ったら可哀相なものを見る目を向けられたから、もう二度と口にはしないけど。「能天気なのは構わねェが、痛い目見ても知らねェぞ」そうやって注意してくれたんだからやっぱり優しいのだと思う。

 遠くからすごい勢いで飛んでくる竜のような頭の人物に「おっ」と声がもれる。窓を開けると生ぬるい空気が入ってきたが、目の前で宙に浮いて優雅に会釈した人物の印象が強すぎてあまり気にならなかった。


「こんにちは、ミレイさん。この前の本の修繕は終わりましたか?」

「こんにちは、ギルニアさん。済んでますよ、どうぞ」


 修繕の終わった古書を入れる籠から確保しておいた一冊の本。地球から遠く離れた星の魔法薬の書物らしく、たまたま図書館で見かけて以来修繕が終わったらすぐに読みたいから確保を頼むと私に言ってきたのだ。ちなみに図書館の司書代わりもG区域の住人の仕事である。やっぱり魂の浄化とは結びつかない仕事だ。


「助かりました、私はそう簡単に図書館へ踏み入ることが出来ないもんですからね」

「確かA区域の方は半年に1回だけ許されてるんでしたっけ」

「ええ。普段はそう不便はないのですが、これを見てしまってからは落ち着かなくて。ありがとう、ミレイさん」

「いえいえ。お仕事お疲れ様です」

「ミレイさんこそ。では私は持ち場に戻りますので」


 硬そうな鱗に覆われた顔でにっこりと微笑んだギルニアさんは、またあっという間に持ち場へ飛んで行ってしまった。直線で飛んでいるのに一瞬で姿が見えなくなるのだから物凄い速さだと思う。A区域――複数の星で種族単位の虐殺を行った者の区域の人であれだから、やっぱりよく分からん世界だ。



 榎原美麗、永遠の23歳。今日も地獄でのんびり暮らしております。


閲覧ありがとうございました!のんびりと書いていく予定ですので、よろしければお付き合いください。

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