0:暗闇を抜け光を目指せ!
思うつくがままをかいた。続くかどうかわからんです、はい。気が向いたら続きを描くかもしれません。お目汚しで申し訳ありません。;w;
「ここは、いったい……?」
キツネにつままれたように呆けた顔で、その部屋に入ってきた5人の冒険者のうち一人がつぶやく。
彼らは皆一様に驚きに目を見開き、唖然とした表情で眼前の光景を見ていた。
近頃、その頭角を現し数々の高難度の依頼をこなしてきた冒険者クラン『銀翼』。
彼らは暗い暗いこのカッツ神代遺跡の回廊を魔法の明かりを頼りに進んできた。
未だかつて誰も足を踏み込んだことのないその領域を慎重に、それこそ神経をすり減らすように進んで来た。
そこは死に至る罠が悪意を持って待ち構え、一般の王宮兵士程度では相手にならないほど強力な肉体と厄介な《スキル》を有する魔物が跋扈し、それ一つで小さい家が買えてしまうほどの価値のある宝が眠る場所。
数多の者たちが富と名声と力を求め、そして散って行った、自らの命というチップを賭けた大博打の舞台。
冒険者である彼ら5人も先人のそれに倣い、そして自らの力に自信を持って挑んだのだった。
今までの最高到達深度である38階を過ぎ、さらに深く下りていくにつれて彼らの体には新たな傷が増え精神的な疲労が濃くなっていく。
しかし、それに見合うだけの素材や宝、そして力を得ることに成功していた。
思った以上に順調な行軍にある種の油断が生まれ、それが招くだろう危機に考えが至らなかったことを不運と思うべきか。その不運にぎりぎりで気づき、誰の命も落とすことなく切り抜けられたことを幸運と思うべきか。しかし彼らはこのカッツ神代遺跡の予想最高深度である50階を目前にした49階にて、すでに満身創痍の体をしていた。
この日のために新調した鎧はすでに傷だらけボロボロで、彼らの命を守った代償にそこに込められた祝福の輝きは無く血と体液と埃にまみれていた。今までいくら魔物を切っても血脂で曇りもしたことがなかった高名な鍛冶師が作った剣等の武器も、刃が欠け中には半ばから折れてしまったものまであった。魔法を使うための精神力も、ここに来るまでの熾烈な戦いのせいで精神的な疲労がたまり遅々として回復していかない。ポーションなどの魔法薬の在庫は虎の子を残しすでに底をつき、それ以上にまともな食料や水すらここから引き返すには絶対に足りないだろう。
ならばあとは運を天に任せ前に進むしか彼らには道が残されていなかった。
50階まで到達できれば、そこには他の遺跡同様に守護者と財宝、帰還の魔法陣があるはずだ。
厄介な罠にだけ目星をつけ解除し、極力戦闘を回避しながら進む。
守護者との決戦で勝てるか分からないが、ここで無駄に体力を消耗するわけにはいかない。引き返し飢えと渇きにの中、数多の雑魚や罠を潰すことより、守護者を倒し遺跡踏破をすることで帰還することを彼らは選んだのであった。
そこに絶望はない。
彼ら5人が抱えるそれは、尊い誓い、力の渇望、財への執着、名誉の復活、復讐の完遂。
そして、何よりも仲間への信頼。
強い強い絆こそが彼らがここにまで来られた強さであった。
「……見つけた。」
49階も進みはじめてだいぶたったころ、黒い頭巾をかぶり黒いマスクで口元を隠し、黒い装束に身を包んだ小柄な影が仲間のもとへ戻ってくるなりそうつぶやいた。抑揚がなかったがその声音は少女特有の高く澄んだものであった。
「よしっ!」
「ついに来たか。」
「は~、長かったですね~」
「ひひっ!薄暗い穴ぐらともようやくおさらばできますねー、みなさん。ひひっ!」
その報告を聞いた彼らから、大なり小なり喜びの気をはらんだ声が上がる。
「……でも、何かおかしい。」
黒い少女はちょこんと小首を傾げる。
「……扉が、無い。」
「なんだって?」
その言葉に、喜びから困惑へと彼らの表情は変わっていくのであった。
なぜならば、これまでの常識からすると最下層へと続く階の階段の前にはどの遺跡でも必ず大きな扉があった。そこより下へ入った者は最下層の守護者を倒し帰還の魔法陣で入口に戻るか、そこで討たれるかしか選択肢がないのだ。
「50階が最下層じゃないってことなのか?」
「むぅ。」
「そ、そんな……。」
「ひひっ! こいつはピンチってやつですかねぇ? ひひっ!」
ここまで奮闘して来た彼らも、その事実は大いに衝撃的であった。彼らの脳内には、これ以上探索を伸ばすことができるのかという不安が生まれ始めていた。さすがに、これ以上先も見えない探索を続けるのは物理的にも、精神的にも厳しいものが出てくるだろう。
「……わからない。……でも、下の階はもっとおかしかった。」
「おかしい?」
「……うん。」
彼女いわく、彼女自身もこの先が最下層ではないのか? という疑問を持ち、少しだけ先を確認するために眼前にあった階段を下りて行ったそうだ。そしてそこでとあるものを見つけた。
「光る部屋?」
「……うん。……ぴかぴかだった。」
黒い少女がそこで見つけたのは、奇妙な部屋であった。
階段を下りてすぐ正面に、例の扉がでんと構える区画が発見できたのだが、それ以上に彼女の視線を釘づけにしてならなかったのが右手にあったその”光る部屋”らしい。階段を下りはじめて、すぐにしたから明かりがもれていることに気付いたそうだ。しかし、それは遺跡などでよくみられる永遠に燃え続ける古代の魔法がかけられた松明や、何かしらの魔力光の類いだと思っていた。歩みを進め下りていくごとに、その明りの強さに疑問がわき始める。そして降り切った先でそれを見つけたのだった。
「……部屋から、すごいぴかぴかみえた。」
「いったい、なんなんでしょう?」
「ひひっ! ですが、最下層への扉はあったわけですし、その部屋が危いものであったら無視して先に進めばいいのでは? ひひっ!」
「確かに。」
「そうだな、ここでとどまっていてもまたいつ魔物が来るかもしれない。いったん扉の前まで行ってからどうするか決めよう。」
彼らは意を決してその歩みを進めた。
階段までの道のりで、数回戦闘をこなしたが無事乗り切り階下へ降りていく。
そして、眼前の光景に言葉を失った。
帝国でしか製法が確立していないといわれる透明な板、しかもその透明度は比べ物にならないほどであり、部屋の壁の一部は全面をそれで作られていた。そこから漏れる光の強さは、松明など比べ物にならないほどで、遺跡の暗闇の中を進んで来た彼らにとっては目にも眩むものであった。
知らず知らずのうちに彼らは部屋へと近づいて行った。
警戒や疑問などすでに頭からすぽん!と抜けきっていた。冒険者としてはあるまじき行為だ。
ある程度近づいたところで、透明な壁の一部が音もせずに開いていく。どうやらそこが入口のようだ。
一歩中に踏み込んだ彼らのうち、一人がつぶやく。
「……ここは、いったい?」
テンテンテンテンテンテン~テンテンテンテンテ~ン~♪
「ラッシャッセー。」
そこにいた男のやる気のなさそうな声が聞こえたが、彼らはあまりの事態に呆然としていた。
まるで太陽を閉じ込めたかのように明るい光を放つ天井。
凹凸のない、均一で透明度の高い巨大な透明な1枚の板でできた勝手に開く扉。
涼やかな音色の不思議な楽曲が、どこからともなく耳朶をたたき。
その部屋の中遺跡の中の澱んだ様なものとは違うとても澄んだ空気をしており、気温も丁度良く心地よい。
塵一つ落ちておらず、天井からの光を受けつやつやと輝く石ではない不思議な素材で張られた床。
まるで鏡にうつしたかのように、同じつくりの棚には見たこともない商品が並び。
店番らしき男が着る服は、見たことがないしつらえだがその生地は王族でも持っていないような素晴らしいものに見える。
「……ここは、いったい?」
「ん?」
冒険者が思わず同じ言葉を口にしたのが聞こえたのか、男はいぶかしげに彼らを見た。しかし、とりあえずスルーして笑みを浮かべて言った。
「あー、えっと。ラッシャッセー。ニコニコマート、カッツ神代遺跡店へようこそー。」
これは、とある世界に覇を唱えることなど放り投げて、とりあえず生きるために頑張るとあるダンジョンマスター(と書いて、コンビニ店長と読む)の物語である!
ということで、主人公はダンジョンマスター、もといコンビニ店長(仮)