ショートショートI「あなたの預金を増やします」
本当に色々なアプリがあるなぁ。と思いながら僕は画面をぼんやりと眺めていった。操作にもなれ、そろそろアプリを落とそうかと思い始めたのである。
「あなたの預金を増やします」というアプリを見つけ、僕は苦笑した。胡散臭さを絵に書いたようだ。どうせ有料なんだろう。そして、お金を集めるだけ集めて作ったヤツは消えちまう。インターネットに限らず、この手の詐欺はあるんだなぁ。でもアプリの値段を見てみると無料と書かれている。これなら話のネタにちょうどいい。
翌日アプリのことなんてすっかり忘れて、銀行に行くと僕は目を疑った。残高が二倍になっていたのである。次の日にはまた二倍……。お金を増やすアプリからちゃんと振り込まれていたのである。
なにかがおかしい、と思いながらも強引に自分に言い聞かせた。まず、六本木あたりに引っ越して、毎日銀座で上手い寿司を食べて……、と妄想を膨らませながらバーに入る。前祝いにぱーっとやろう!
酒を何本空けたか解らない。大虎になって、会計を済ませようと一万円札を取り出そうとする。
「お客様、申し訳ありません」
それを見て、バイト店員が頭を下げた。
「なに? お釣りないの? そしたらお釣りは全部やるよ。何せ今から僕は大金持ちだ。一万円なんてあっという間に……」
人生の中で一回は言ってみたかった台詞である。ささやかな優越感に浸りながら次の店員の答えを待っている。バイト店員はもじもじしながら、
「いえ、違うんです」
と言うと、今にも消え入りそうな声で言った。
「もう一万円札はただの紙切れになったんです。今はいくら積み上げてもチロルチョコ一つ買えませんよ……」




