魔術師ポコのクール修行
僕の名前はポコ、王立アカデミーの魔術科に籍を置く男子学生だ。
魔術師というのは気合いや体力よりも頭脳や魔力が必要な仕事なんだ。だからオラオラ系マッチョが多い戦士科の人たちと比べて、中性的な性格や身なりをした人が多い。
それは決して悪い事じゃ無いんだけど、僕は今『もっと男らしくなりたい』と思っている。
理由?恋だよ、恋。
僕は過日、芸能科のメリッサって女の子と仲良くさせてもらっていた。
共通科目で一緒になる事が多い彼女、明るくて『オタクに優しいギャル』って感じで誰にでも気さくに話かける人だったから、ちょっと根暗で女性経験に乏しい僕でも自然と仲良くなれた感じだ。
そんなの、普通に好きになっちゃうじゃん。
で近いうちに告白しようと思っていた矢先に、彼女が友人と話しているのを偶然きいてしまったんだ。
「おいおいメリッサ〜、最近ポコ君と仲良さそうじゃん。彼のこと、好きなん?ラブなん?」
「ぜ、全然そんなんじゃないって……」
「にひひ、私は男らしいクールな人が好きだ、って前に言ってたもんねぇ〜」
で、それを僕がきいてしまったことを、彼女達に気づかれた。
「あ、えっと今のは言葉のアヤというか……」
メリッサは焦っていたが彼女に非はない。
そこで僕はこう言ったんだ。
「つまり、今の僕は恋愛対象外ってことだよね。わかった……僕は、男らしさとクールさを磨いてくる!それでもし、君の眼鏡に適う様になれたら、その時は指輪を受け取って欲しい」
告白をすっ飛ばしてプロポーズみたいになっちゃったけど、何故かメリッサはコクコクと頷いてくれたので、僕もやったるぜって気になった。
ただ当初、どうすれば男らしくクールになれるのかはよく分からなかった。誰かに聞こうにも魔術師科の学友は皆華奢で中性的なタイプばかりだったから。
そこで、差し当たり色んな文献をあたってみることにした。
え?その行動が既に女々しい?
僕もそれ、今、それちょっと思った。
ただ、古い文献に『精霊』についての記載があった。
精霊はランプとかに封印されていて、封印を解けば『じゃじゃじゃじゃーん!』みたいな感じで飛び出してきて、お礼に願いを叶えたり叡智を授けたりしてくれるという。
それで僕は男らしくクールになる方法を教示してもらうため学園を休学し、封印されし精霊を探す旅に出かけたんだ。
いやー、なかなか大変な旅だったよ。
極寒の未踏峰を踏破したり、単身で砂漠を越えたり、大海原で海賊と戦ったりね。
で、とうとう崩壊寸前の古代遺跡で精霊が入っていると思われる封印具を見つけた。
古文書によるとこれは『臼』という強力なオーパーツでさらに幸先が良い事に『クールを司る精霊』が封印されているらしい。
気持ちを逸らせつつ早速、精霊を解放してみた。
「わっせ!わっせ!わっせ!」
うお、予想以上に男らしいのが出てきた。
スキンヘッドに鉢巻、厚い胸板に胸毛、そして腹巻き!……これは期待が持てる。
「俺を解放してくれたのは君か」
「そ、そうです」
「よーしィ、お礼に男らしさについて教えてやろう」
凄い!話が早い!
そしてなんて男らしいんだ!
「どうすればいいんですか?」
「よしお前の普段の行動をいってみろ。それで男らしくないところがあれば修正してやる。それをそのまま復唱しろ」
「はい、分かりました」
間違いをすぐ修正し、その場で復唱して定着してさせる……なんて合理的なんだ。信頼がおける。
「まずお前、こんな遺跡の深部までどうやって来たんだ?」
「えっと、魔法の絨毯に乗ってですけど」
「なーニィ!?やっちまったな!」
目をカッと見開く精霊。
えっ魔法の絨毯、ダメなんですか?正解は何?
「漢は黙って『竹』!」
「お、漢は黙って『竹』!」
竹箒ですら無いんだ……
でも、確かに男らしい……かも?
「次、お前今、何背負ってるんだ?」
「えっと、バックパックですけど」
「なーニィ!?やっちまったな!」
目をカッと見開く精霊。
バックパック、ダメなんですか?正解は何?
「漢は黙って『風呂敷』!」
「お、漢は黙って『風呂敷』!」
風呂敷って何ですかときいたら、唐草模様の布を渡された。成程、確かに男らしい……かも?
「どんどん行くぞ、ついてこい!」
「ハイ!」
「返事はヘイ!」
「ヘ、ヘイ!」
今までの常識が崩れていくのを感じる。こうして僕は男らしさについて学び、そして実践していったんだ。そしてーー
「よく頑張ったな、お前はもう一人前の漢だ!」
「ヘイ、ありがとうございます親分!」
起床は自力、洗顔は粗塩で洗髪は滝。時間感覚は腹時計で食事は握り飯という生活に違和感を感じなくなった頃、俺は遂に男らしくなったとお墨付きをもらえた。
「後は彼女に渡す指輪を用意するだけだな。素材のアテはあるのか?」
「ヘイ、海に素潜りして自分で用意しようと思いやす」
「いい心がけだ、海への行き方は大丈夫か?」
「ヘイ、バッチリでさ!」
漢は黙って、勘!
***
ポコが休学して半年後、メリッサは彼の帰りを一日千秋の思いで待っていた。
「早く帰ってくるといいねぇ」
「うん……」
まず大前提として、女性の望む「男らしさ」というのは筋肉や乱暴さではない。
その本質は覚悟や責任、安定感や自制心といった成熟した人格的要素である。
理知的な優等生であったポコ、そういった意味では半年前から女性の望む男らしさが備わっておりメリッサは既に彼に対して好意を持っていた。
友人に言われた際否定したのは、単純に照れ臭かったからである。
「はあ、私なんであんなこと言っちゃったんだろう。彼に悪い事しちゃったな……」
「まーまー、ポコ君にとってもメリッサに告白するいいきっかけになったわけじゃん?それよりさ、どんな指輪を持ってきてくれるか想像してワクワクする方が有意義だよ。メリッサはさ、理想のシチュエーションとかあるの?」
「理想のシチュエーション、かぁ……」
言われてメリッサは夢想する。
指輪につける宝石は、誕生石の真珠がいいな、彼が私の誕生日を覚えてくれていた証になるし。で、その真珠は彼が自分でとってきてくれたりしたらなおエモいな……なんてことを。
そうして彼女の顔が緩んできたその時
「ただいま、メリッサ!」
何と、丁度ポコが帰ってきたのである。何だか以前のインテリ系とは打って変わり冒険者っぽいワイルドな外見になっていたが、間違いなく彼であった。
「男らしさを磨いてきたよ。で、海から素材を調達してリングにしたんだ。君に受け取って欲しい」
サッと箱を差し出すポコ。
え、夢想したシチュ、実現したの?
真珠の結婚リング、本当にきちゃった?
一瞬惚けた顔をした後、そんな感じでジワジワと頬が赤くなっていくメリッサ。
そして箱をパコっと開けるポコ。
中から現れたのは、それはもう大きく立派なーー
イカリングであった。
真珠の指輪ではない
ペアリングでもない
イカリングである。
求婚の品としては、あまりにも男らしすぎる贈り物であった。
ちなみにメリッサ、明るくて器の広いアサーティブな女であるが、この世でどうしても許せないものが二つだけあった。
一つは必要物品の高額転売。
もう一つは、プロポーズの場で指輪でなくイカリングを渡してくる男である。
***
「そうか、メリッサ嬢にはフラれちまったか」
「ヘイ」
100年の恋も覚めた顔で断りの返事を受けたポコ。彼女達が去った後、つーっと一筋の涙を流した彼は、しかしすぐに師匠への報告に向かっていた。男は恩人への義理を大切にする生き物だからである。
「まあ、全力尽くしてもダメな事もあるわな」
むしろ全力を尽くしすぎたばかりにダメだったというか、男らしさを教えた恩人というよりいらん事を吹き込んだ戦犯なのだが、クールの精霊とポコがそれに気づくことはなかった。
が、それはそれとして、世界は続いていく。
「仕方ねぇ、そういう時は次だ次!次いくぞ!」
「……ヘイ!」
全知全能たる神とは程遠い矮小なる人間にできるのは、次のチャンスを掴める様に研鑽し備えることだけなのだ。
大好きな彼女にフラれ、ウジウジしている男がいたとすればこの二人はきっと、こうアドバイスする事だろう。
「男は黙って、次の恋!」
「男は黙って、次の恋!」




