ドリルでダンジョン探索することを夢見る俺、99%が能力者の世界で無能力者やってます
「ドリルでダンジョン探索できるんだったら、死んだっていい!」
今から約20年前、世界各地にダンジョンと呼ばれる謎の建造物や洞窟が出現した。
ダンジョンの中にはゲームに登場するスライムなどのモンスターが生息しており、それらは外には出て来ないものの、人間側もダンジョン内に兵器や武器を持ち込むことができない。
しかし、ダンジョン内のものは一部外に持ち出すことができる。
その中には、人々の生活を豊かにしてくれるような資源も存在する。
だが武器を持ち込むことができなければ、モンスターと戦うこともできず、資源の調達は困難だろう。
しかし、ダンジョンの内に入ると99%の人間はスキルといった特殊な力を手にすることが分かった。
そして「スキルを持つ者は、ダンジョン探索をすることができる」といった法律が生まれた。
やったね!
って、やったね! じゃねぇ!
そう、俺は1%側の人間なのだ。
俺はダンジョンに入ってもスキルが発現しなかったのだ。
昔からドリルが好きな俺は、ダンジョンであればアニメにあるようなデカイドリルで戦ったり穴を掘ったりすることができるかもしれないと考えて、テンション上がっていたのだが、これにはがっかりするしかなかった。
しかもダンジョン探索は学生を中心に大人気で、1%側の人間は話の輪に入っていくことが難しい。
入って行けたとしても、自分だけできないので、まるでゲームを買って貰えない小学生のような気分になる。
「はぁ……ダンジョン行きてぇ……」
実は俺は今年大学を卒業して入社した新入社員なのだが、同期の輪には入っていけなかった。
皆ダンジョンのことばかりしか話さなく、なんと同期同士の交流会もダンジョン内で行われたのだ。
◇
俺はアパートの自室を出てしばらく歩くと、とある洞窟の前に立つ。
そう、これがダンジョンだ。
スキル検査の為にダンジョンの中に入ったことがあったのだが、その中はまるでゲームの中に来たみたいでテンションが上がった。
その後、スキルがないことを知ってテンション下がったんだけどね。
「あの!」
「え?」
俺は黒髪セミロングヘアの女の子に話しかけられた。
小学生か今年入学した中学生といった所か。
迷子かな?
「今からスキル検査をしたいんですけど、同行お願いしてもいいですか?」
「え!?」
スキル検査とは、どんなスキルが発現しているのかを検査することを指す。
手順は簡単だ。
ダンジョンに入って、メニューを開いて、ステータスオープンすればいい。
だが条件がある。
18歳以上の人間が同行することだ。
ちなみにスキルが発現していない者でも、この時だけはダンジョンに入ることを許される。
「いいの!?」
「こちらこそ大丈夫ですか? 今からダンジョンで何か予定があったりとあるかなと思いまして」
「そういうことか」
ダンジョン探索は大人気で、社会人でも休日はダンジョン探索をしているという者が多い。
要するに現代のもう1つのSNSのようなポジションなのだ。
「俺スキル持ってないからダンジョン入れないんだよね! だから、予定とかは大丈夫! よっしゃあっ! 久しぶりのダンジョンだぜ! テンション上がるな~!」
「スキルがない!?」
しまった。
これでは怪しい人だ。
そう、99%の人はスキルを持っている時代だ。
つまり俺は少数派ということになる。
しかもこのSNS時代、無能力者の肩身は狭い。
『ダンチューバー (ダンジョン内の様子を動画や生放送で配信する人のこと)に向けて誹謗中傷をしている人間は、9割が無能力者だと言われています。やっぱり嫉妬しちゃうんだろうね。無能力者は周りと同じことができないから、悔しくて性格が歪んじゃうんだろうね。かわいそうだと思うよ、僕は』
なんて意見もあるくらいだ。
ちなみにこのデータのソースは不明だ。
普通に傷ついた。
「なんだか申し訳ないですね……」
女の子は申し訳なさそうな表情をする。
優しい子だった。
「気にしなくていいって! さ、入ろう!」
俺はダンジョン内に足を踏み入れた。
「最高だ……」
俺は思わずダンジョン内を見渡して、つぶやいた。
土や岩だらけの景色でも、俺にとっては最高の景色だった。
「ささっ! メニュー画面を開いてスキルを確認してみようぜ! どんなスキルが出るか楽しみだな!」
「いいんですか? もうちょっと探索してからでもいいんじゃないかな……なんて」
優しすぎる!
でも……
「ダンジョンは危ないから、早く出た方がいい」
俺としてはダンジョンを探索したい。
でも、俺はこの子を守ることができない。
「分かりました!」
俺の言いたいことを分かってくれたようで、女の子はメニュー画面を開こうとする。
その時だった。
4m程の大きな赤鬼が突然現れたのだ。
あれは確か、レッドオーガ!?
「きゃあああああああっ!」
レッドオーガは女の子を連れて、奥に進んでいく。
「待て!」
俺は必死になって追いかける。
「グオオオオオオオ!」
レッドオーガはダンジョンの壁を壊し、その先へと進んでいく。
「って、どうすりゃいいんだ!?」
行き止まりだった。
レッドオーガは女の子をその場に捨てるように俺の方に放つと、俺達と見てジュルリとよだれをたらした。
「俺って、どんな味がするんだろうな?」
「諦めるの早くないですか!? って、あれは!!」
女の子は宝箱を指で差して、叫んだ。
確かダンジョン内にある宝箱は、ゲームみたいにアイテムとか武器とか入っているんだよな。
「俺ってこんな味かぁ……」
俺はレッドオーガの気分になって、現実逃避をする。
数秒後の俺は食われているだろうからな。
「私、しっかりお礼をしたいんです! だから生きてください!」
女の子は宝箱から鉄の塊を取り出し、俺にひょいっと投げる。
彼女の目にはどこか希望の光が見えているようで、俺に言う。
「私画像でなら見たことがあります! それは聖武器の種です! それがあればもしかすると、勝てるかもしれません!」
「聖武器の種だって!?」
聖武器の種。
それは、聖武器の元となるアイテムだ。
それは持ち主によって、姿を変える。
例えば聖剣、聖弓、聖槍など、様々な姿となる。
といっても、それを所有する者は数える程しかしないのだが。
だからこそ、今俺の腕に抱かれている鉄の塊がそれだと確信するのは難しい。
でも、やるしかねぇよなぁ!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
俺は叫ぶと、鉄の塊は青白い光を放った。
そして……
「これが俺の聖武器だああああああああああああああああ!!」
「やりました! 聖槍です!」
光が収まると、俺の右手に持っているのは槍ではなく……
「ドリル!?」
女の子は驚きの声をあげた。
「聖剣とか出て来るんじゃねぇのか!?」
しかし、不思議と負ける気はしない。
「グオオオオオオ!」
レッドオーガは、俺達に向かって鉄のハンマーを振り降ろす。
「おらああああああああああああああああっ!!」
俺が叫ぶと、ドリルが回転したので、そのドリルで敵のハンマーを砕いた。
「グオオオオオオオオオ!?」
「す……凄いです!」
「はは……やっぱドリルだよなぁ!」
武器を失ったレッドオーガは口から火を吐いて来た。
けどな!
ギュイイイイイイイイイイイイイイイイイイイインッ!
「効かねぇんだよ!」
ドリルの回転により、こちらに飛んで来た火全てが周囲に散らばる。
「グオオオオオオッ!!」
レッドオーガの全身が燃え、俺達に向かって拳を振るう。
その拳に、俺は全力のドリルをぶつける!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「グオオオオオオオオオオオオオ!?」
レッドオーガの体は削れ、おそらく体力が0になったのだろう。
光の粒子となって消滅した。
◇
「本当にありがとうございました!!」
ダンジョンを出ると、女の子は俺に頭を下げてきた。
「いやいや! むしろ俺はあの時諦めかけていた! 君のおかげで俺は勝つことができた!」
あの時、聖武器の種がなければ負けていただろう。
「それに、夢が叶って良かった!」
ダンジョン内でドリルを振るいたい。
そんな夢を叶えることができた。
勿論少しの間だけだったけど、楽しかった。
本当はあのドリルで、ダンジョンのお宝を発掘したりしたかったけど、法律で決まっているのだから仕方がない。
1日探索者、本当に楽しかった!
「じゃあ、ドリルのことよろしくな!」
俺は彼女にドリルを託した。
きっとこの子はいい探索者になる!
俺のカンがそう言っている!
俺は俺で掘り進めるさ!
この先の人生を!




