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余命二ヶ月、それでも君に恋をした

「片思い」は、誰もが一度は経験する、けれども時に切なく、時に勇気を試される青春の感情。この物語は、16歳の高校生・横井陽菜が、幼馴染である遠野樹への想いと向き合いながら、成長していく姿を描いています。

しかし、好きと伝えた後に訪れる期待と予期せぬ障害、そしてほんの少しの勇気が生み出す奇跡。夏の花火のように鮮やかで儚い恋のはじまりを、一緒に見つめてみませんか?

 プロローグ


「片思い」。きっとどんな学生でも一度は聞いたはあるし、経験した人は多いだろう。そしてその大半は両想いになることを願っている。でもなるためには試練を乗り越えないといけない。

 両思いになるには自分の思いを相手に伝えないといけない。ただ、それには大きなリスクが付き物で、思いを伝えたら主に2つに分かれる。一つ目は相手が自分の思いと同じ思いを抱いていて、次の関係「恋人」に進めることだ。これはきっと片思いの人ならだれでも望んでいる結果だと思う。

 二つ目は相手が自分の思いには答えられず、「ごめん」の三文字で自分の恋はそこでエンドロールが始まってしまうことだ。

 それが出来ずにずるずると引きずってるのはきっと自分だけではないだろう。横井陽菜、16歳。先ほど挙げた二つ目の結果が怖くて、いまだに幼馴染の遠野樹に思いを伝えられずにいる。樹は昔から近所で幼稚園のころから知ってる。


 第一章

 高校に入学してからの初めての初夏、外はセミが鳴き始めてて、窓辺から見える天色の空にはいかにも夏らしい積乱雲が浮かんでいる。プール終わりでへとへとになった私はまだ濡れている髪を少しでもかわいくみえるようにポニーテールにして、厳しい校則の中でも精一杯のおしゃれをしようとしている。

「あー樹とづきあいたい!」

 更衣室から教室に向かう廊下で、私は親友である夏海に本音を漏らす。

「あんたそれ言うの何回目?」

 夏海とは高校に入ってから知り合ったが、今では一番の親友で、私の自由奔放な発言に夏海はいつもいじりながらも、真摯に聞いてくれる。

「だってさー好きなんだもん。」

 答えになってるような、なってないような言葉を夏海に返す。

「だからさ、告っちゃえばいいじゃん。」

 少し呆れた声で、私にアドバイスをくれる。

「だからさ、それが出来たらこんなこと言ってないよ。」

「だってそれしか言いようがないじゃん。」

 ごもっともな回答だ。きっと私が逆の立場でもそう答えるだろう。

「樹でしょ、あんたたち仲いいし、案外いけるかもよ。ってかダメならダメでそれでおわりじゃん。大好きなんでしょ?樹のこと」

 あっけらかんでおおざっぱな性格の夏海らしい答えだ。夏海の答えに自分でも顔が熱くなって、赤くなっていくのが分かる。口にしていても改めて言われるとなんだか気恥ずかしい。言葉を返そうとしたが、生憎というか、救われたというべきか教室に着いてしまった。プール後の授業なんて頭に入るわけもない、これはきっと全学生に言えるべきことだろう。

 とりあえず、席について次の授業である国語の準備をする。この教室はとても眺めがいい。SNSでは「日本一海に近い学校」と言う名前で呼ばれてるほど、人気な学校だ。そんな眺めも無視して私は授業が耳に入れることは1㎜も無く、斜め前に座っている、樹を見つめている。茶髪で少しくせっ毛な髪の毛、プール後で暑いからか乱雑にめくれたワイシャツの袖すら、愛おしく見える。

 睡魔で船を漕ぎながらも授業は終わった。でも、樹よりはましだ。樹に至っては、船を漕ぐどころか、途中から、堂々と突っ伏して眠っていた。当然、先生にはばれ、大目玉を食らって、クラスの笑いものになっていた。

「陽菜―帰りにカフェ行こー!」

 3列隣の席に座っていた夏海が荷物をまとめながら、楽しそうな提案をしてくれた。

「ごめん!今日はお母さんが夜からパートだから、私が晩御飯作らないといけなくて。」

 両手を合わせて、夏海に申し訳ない気持ちを目いっぱい伝える。

「あーあんたも大変だね、いいよ全然。その代わり今度付き合ってね。」

 私の事情を聞いて苦笑しながらも、私が罪悪感を感じないように笑いながら許してくれる。

 いつもは夏海と放課後、遊んだり、カフェに行くので、あまり乗らない時間の電車に乗る。さすが日本一海に近い学校という肩書なだけあって、駅のホームからも青々とした海が広がっていて、水平線を境にまた違う空の淡い青さが広がっている。爽やかな潮風が吹き抜け、肌にまとわりつくような暑さもほんの少し和らげる。

「すずしー」

 吹いてきた潮風の心地よさに揺られながら、そんなことを考えてた。ふと、ホームを見渡してみたら、さっきまでの私の目線を釘付けしていた相手、樹が立っていた。こっちに気づいた樹は学生かばんを左手で持って、乱雑に肩にかけ、高校生にもなっていたずらっ子ぽい笑みを浮かべてこちらに近づいてきた。

「一緒に帰ろうぜ!」

「いいよ。」

 傍から見たら、冷静に返してる私も内心ガッツポーズをして、神様に心から感謝をして。ちょうどホームに滑り込んできた電車に乗り込む。

 下校時間にも関わらず、珍しく空いている車両に共に鞄を膝に抱え込んで、並んで腰かけた。プシューと言う音と録音機から流しているのではないかと思うほど、毎日同じようにしか聞こえない車掌の声に合わせて扉が閉まる。さっきまでの笑みとは裏腹に樹はいつになく真面目な顔をして予想だにしていなかった言葉を言った。

「お前さ、好きな人とかいるの?」

「いるよ。」

 唐突の言葉に内心パニック状態だったが、反射的に答えてしまった。

「じゃあさ、俺と二ヶ月だけ付き合ってほしい」

「驚愕」の二文字以外表現のしようがない気持ちだった。それでも想いを寄せていた相手からの告白は素直に嬉しかった。どう返そうか迷っていると、ふと樹の姿が目に入った。少し大人ぶろうとしている樹だけど、耳を見れば熟れたリンゴくらい真っ赤で、顔は恥ずかしさからそっぽを向いている。そのおかげだろうか、私の頬は緩んで、張り詰めていた空気がほんの少し、和んだ気がした。

 もちろん、いいえと答えるわけはない。

「いいよ。」

「ほんとに?やったー!」

 さっきまでの真剣な表情はどこへ行ったのやら、電車にいることも忘れて、子犬のように喜びだした。

 こんな素直で愛らしい所も私が樹を好きな理由だ。

 そこからは普段30分以上かかる時間があっという間に降りる駅に着き、共に電車を降りる。いまだ、長年想いを馳せていた相手からの告白を信じられずに心躍っていたが、10分前に比べ少し冷静になった私は浮かんだ一つの疑問を隣で歩いている、樹に問いかけた。

「なんで二ヶ月だけなの?」

 樹は少し言葉を探すようにして、少し間をおいてから答えた。

「あーなんていうか、ほら、これから夏休みじゃん、だから夏休みだけのお試し?みたいな」

 なんてヘラヘラわけの分からない理由を並べる樹に腹が立った。

「はー!?何言ってるの?ばっかじゃないの?あんた乙女の気持ち弄んでいるわけ?サイッテー!」

 見た目こそ少しチャラそうに見える樹だが、本当は誠実な樹からそんな言葉を言われ、弄ばれてるような気がした、私は怒りの言葉をまくし立てて、スクールバッグと想いを樹にぶつけた。

「わりぃーってただ、夏休みの間ダメだったら、お互い気軽に次に行けるじゃん?もちろん俺は夏休み後も付き合うつもりだって。ごめんな、俺舌足らずで、さっそく彼女怒らせちまったな。」

 苦笑しながら申し訳なさそうに必死に早口にその言葉の意図を伝えてきた。そんな、樹を見ていたらなんだか笑けてきて、それに「彼女」という響きが妙にくすぐったくて、気づけば声に出して笑っていた。

「もういいよー、これからよろしくね。彼氏くん。」

 言った側から、言った自分が気恥ずかしくて、顔が赤くなっていくのが分かった。でもそれは、樹も同じようで顔が赤く染まっている。

「樹、顔赤いよ。」

 笑いながら、半心からかいながら伝えると、

「バカ、こ、これは夕日のせいでそう見えるだけだし!」

 と分かりやすく照れていて、ますますおかしくなった。いつしか、日はすっかり傾いていて、二人の影は伸びて、仲良く寄り添っているようにも見えた。そして、そんなことですら今の私にとっては嬉しくて、楽しくて仕方がなかった。

 気づけば、自宅の前についていて、樹に別れを告げた。


 第二章

「陽菜―起きなさい!遅刻するわよ!」

 機械的なスマホのアラームと母親の怒りの声の最悪なハーモニーで目を覚ます。だけど、今の自分は好きだった人と付き合ているという事実を思い出したころには、心はすっかりと踊ってて、朝の最悪な気持ちはとうの昔に消えていた。

 制服に着替えて、心なしかいつもよりヘアセットに時間をかけていたら。LINEの通知とともにスマホが光る。相手は樹からの【おはよー】の一言だった。それはもちろん嬉しいのだが、それと同時に映し出された時間に目玉が飛び出そうになる。

「7時50分?!」

 1時限目が8時30から始まるとしたら、今すぐでないと間に合わない。浮かれてヘアセットに20分もかけた自分がバカだったと自分を恨んでも、もう後の祭り。慌ててスマホと鞄を握りしめて、家を飛び出す。

 なんとか、いつも家を出る時間に家を出たので、私は少しほっとして、樹にLINEを返した。そして、駅に向かっていつも乗る電車に何とか間に合い、胸を完全になでおろしたときに気づいた。

 樹が乗ってない。いつも、この時間の電車に乗っているはずの樹がいない。ひょっとしたら違う車両に乗っているのかもしれないと思って3両編成の短い電車を端から端まで歩く。

 ところがどこを探しても樹はいない。

「あ、あいつも寝坊したな」

 なんて薄気味悪い笑みを浮かべながら、学校に着いたらいじってやろうと思いながら学校に向かった。

「セーフ!!」

 私がクラスに着いたときに時計の針はちょうど8時30分ちょうどを指した。

「陽菜、また寝坊(笑)」

 夏海がニタニタとからかうような笑みでこちらを見て、からかってきた。

「またーっていつもは夏海の方がギリギリじゃーん」

「まーねー」

 席に着きながら不服をぶつけてみるも、彼女のおおざっぱな性格は間延びした返事で終わった。

 席についてほっと一息つくと、私の視線に物寂しさを感じた。

 樹がいない。

 てっきり遅刻だと思ってたが違うみたいだ。

 その後、2限になっても、3限になっても樹の席は空のままだった。

 授業後、夏海は私のもとにやってきて「とうとう、あいつ来なかったねー」なんて言ってる。

「ほんと、あいつ彼女置いてなにやってんだよーw」と笑い飛ばすも内心は樹大丈夫だろうか?と心配だった。

「まあ、あいつのことだし、明日には来るでしょ。あの健康優良児が二日も学校休むなんてありえねーし」と夏海が呑気にいう。

「そうだね、そうだよね。きっと来るよね、きっと」夏海に返事してる私はまるでどこか自分に言い聞かせてるようだった。

 その後、夏海とともにくだらない話をしながら帰路に着いた。

「じゃーね」

 夏海と別れて、私は携帯を取り出し、LINEを開く、今朝送った返事には「既読」の二文字だけが付いていた。

「なんなのあいつ。彼女が出来て早々に既読無視かよ。もう知らない!」と内心ふてくされて、樹への怒りを感じながら携帯を閉じた。

 その後は、いつも通り家に着き、2階の自分の部屋に入ってカバンを放り投げてベッドに飛び込む。携帯を開き、SNSをスクロール。気づけば、帰って来た時には陽が差し込んでて明るかった部屋は暗くなっていた。

「陽菜―ご飯よー降りてきなさい」

「やばっ」

 宿題もやらず、こんな時間になってることに母の呼ぶ声で初めて気づいた。とりあえず、お腹が空いたので、宿題前の腹ごしらえと言い訳を自分で作り、下に降りる。

「うわーおいしそう!」

「おいしそうじゃなくて、おいしいのよ。ほら、さっさと座りなさい。「

 母が作った食事が机に並んでて、もうすでに、父も座っていた。

「いただきまーす」

 家族3人手を合わせ食卓を囲む。なんてないいつも通りの光景。

「それで、今日学校はどうだったの?」

 食事を頬張ってると向かいに座ってる母がそう聞いてきた。そう言われて、はっと今日はいつもいた樹がいなかったことを思い出した。

「特にーあ、でもあの樹がいなかったー」

 そう答えると私はまた食事に戻ってた。

「樹君が休むなんてめずらしいなー」

「ほんと、樹君大丈夫なの?風邪?」

 私と樹の家族は長に頃から家族ぐるみで付き合ってるから、父も母も樹をよく知ってる。そして、樹が健康優良児でめったに休まないこともよく知ってる。

「さー風邪じゃない?LINEしても既読しかつかないし」

「まー珍しいわね。大丈夫なのかしら?」

 母の心配そうな声に再び私が忘れていた心配がまた心をざわつかせた。「やっぱりおかしいよね」そんなことを内心思いながらも両親には私の内心を悟られたくないから、わざと明るめに答える。

「大丈夫だよーあいつだって人の子なんだから風邪くらい引くって、それに夏海も私も明日には来ると思ってるし。」

「そーね。きっと明日には来るわよね」

 母が安心そうな顔に戻ってすこしほっとした。でも私の心のざわつきは消えないままだった。

「そういえば、陽菜この間やった数学のテストどうだったんだ?」

 ギクッ

 静かに会話を聞いてた、父が痛いところをついてきた。

「そういえば、あんたあの時勉強してない、やばーいとか焦ってたけど、ちゃんと勉強したんでしょうね?」

 話題が突然思ってもいなかった方向に転換して焦る。

「あははーまあそれは置いといて、私宿題終わってないからもう部屋戻るねー美味しかった!ごちそうさま!」

 と半ば逃げるように戻っていった。

「ちょ、陽菜あんた結果は?」

 そんな母の声が聞こえるが言えるわけがない。だってあの日は樹の告白されて浮かれてて勉強どころかテストがある事すら忘れてて案の定惨敗だったからだ。

 とりあえず、机に向かい先程放り投げたカバンから宿題を取り出して机に置く。いやいや、椅子に座り机に向かう。

「はぁー」

 やらなきゃいけないのは、よーくわかってる。でも机に向かうと携帯を開いてしまう。

 相変わらずあいつとのLINEは「既読」で終わっていた。それにもまた溜息を吐いて、携帯を閉じて仕方なく宿題を始める。

 宿題を始めて数時間、スマホの通知が鳴る。それは、樹だった。宿題も忘れてスマホを開くと一言

「わりー風邪ひいて寝てた、こじらせてしばらく行けそうにないかも」と、あの風の子の樹がこじらせて寝込む風邪とはどんな風邪だ?

 しかも、この時間まで寝てるってと、右上には20:53とあるこの時間まで寝てたとは相当しんどいんだろ。

「そっかーきつそうだね、お大事に」

 知らなかった樹があんなことになってたなんて。


 第三章

 あれから、数日学校に来ずとうとう夏休みになってしまった。LINEは時折やり取りしてるがあの日以来会えていない、なんやかんやもう2週間もたつのに。

「あーデート行きたい!!!」

「だから行けって言ってんじゃん」

「だって、樹ずっと体調悪いんだもん」

 暑い夏私は夏海の部屋のミニテーブルにうなだれておしゃべり兼愚痴ってた。

「さすがに2週間も風邪っておかしいでしょ?あ、まさか浮気とか?」

 夏海がニタニタしながらからかってくる。

「そんなわけない、、、もん」声が徐々に小さくなってく、なぜならあの日言われた「二ヶ月だけ」という言葉に軽さが含まれていたからだ。

「なに、まさか心当たりでもあんの?うわーごめん冗談のつもりだった」

「ううん、ただ」

「ただ?」

 あの時、樹「二ヶ月だけ」って言ってたから。なんか信用できないようなさー

「なにそれ?怪しさムンムンなんですけど」

「でもさ、樹ってそんあやつではないんよな、ふざけるけど根は誠実だし。」

「まあ、言われてみればそうよなーおかしいな」

 夏海も含め私たち三人は幼馴染だ。だからこそ、あいつの性格は夏海はもちろん熟知している。

「あ、じゃあさ突ろうよ!樹の家ここからすぐじゃん!」

「え、なんで?さすがにまずいよー」と私は怖気づくが、さすが男気ある夏海は思い立ったら即行動。ってなわけで半強制的に樹の家に向かった。

 樹の家の前に着くと、迷わず夏海がインターホンを押す。

「ちょ、ちょっと待って心の準備が!!」

 なんて言ってると少しやせた?ように見える樹が出てきた。

「おう、陽菜、夏海どうしたんだよ、いきなり来るなら言えよなー」

 私は何といえばいいかわからず、夏海の陰に隠れるが夏海が口を開く。

「あんたが彼女ほっぽって、2週間も会ってないっていうから、浮気調査―」

「ちょ、バカ、夏海ストーレートすぎ!」

 樹は何も言わず夏海の陰に隠れてる私を見てくる。

「わりー不安にさせて、お袋がさ安静安静ってうるさくてさ」と苦笑いを浮かべる樹はいつもの樹だった。

「ううん、こちらこそごめん急に、ってか樹少し痩せた?」

 夏海の陰から徐々に顔を出して、尋ねる。

「うん?あー少しな。いや、ほらさ、彼女出来たから少しかっこよくなりたくてさ?」とニヤッと笑い、力こぶを作り見せてくる。

「なにーあんたらアツアツじゃん、失礼しました、じゃあ私はこれで、バイバーイ」と夏海が駆けてく。

 すこし玄関にて気まずい時間が流れるが、私は改めて力こぶを見せ作る樹に思わず突っ込んでしまった。

「なにーいうてないじゃん?ってかむしろ前より減ってね?」

「なにいうんだよーこれでも、あー痩せて筋肉落ちたわ」といつものアホさ丸出しの樹に空気が和む。

「もう、バーカ筋トレしないとだめだよ」

「ハハハ、そうだな、まあ上がれよ、特に何もないけど話でもしようぜ」

 と家に招いてくれる樹、「おじゃましまーす」と上がるといつも明るい樹のお母さんが今日はダイニングテーブルで悲しそうにしてた。

 とはいえ、勝手に聞くのは失礼にもほどがあるので、何も聞かず樹とともに2回の樹の部屋に上がる。

 ドアが閉まると、思わず口が先走った。

「樹、お母さん大丈夫?なんか悲しそう」

 しまった、言ってから聞かなければよかったと思った、が出した言葉はもう戻せない。樹は少し気まずそうにしながら。

「あーなんか借金?系らしい俺もあんま詳しくなくてさ」と目が泳いでるがこれ以上深く詮索しなかった。

 その後樹の部屋の床でずっと喋った、他愛もない話を延々と、すこしすると樹が動いた。

「なーベッドこない?」とベッドにのって行ってくる。

「ば、ばか、何考えてるの?!」

 当然そう考える、だって恋人とベッドなんて。

「ち、ちげーよ疲れたから横にならねーってことだよ。あ、今お前変な想像しただろスケベ」

 と慌てて訂正しつつも樹はからかってくる。

「ち、違うし。そういうことだってわかってたし」

「ふーん、あ、そうまあ来いよ」

 お言葉に甘えて樹の横に横になる。樹は少し疲れてたみたいで横になると少しぐったりしてる。本当に疲れてたみたいだ、横になると話すつもりだったのに、樹はスヤスヤと眠ってしまった。起こすのも気の毒だしまだ病み上がりだからかなって思い少し寝かせて待つ。1時間もすると起きてきた。

「わりー寝てた。」

「いいの、疲れてたんでしょ」パタンと本を閉じてそう声をかける。

「まーな病み上がりだからかな?」

「そうだと思うよ、無理しないで」

 次の瞬間、寝たせいかさっきとは打って変わって元気になった樹ははしゃぎだす。

「なーこの夏はいーっぱいデートしようぜ!花火大会、夏祭り、海、カフェ、水族館、ピクニック、あとそれからー」

「ストップ、ストップ!詰め込めすぎじゃない?水族館とかは夏休み後でもいいじゃん、時間はたっぷりあるんだし」

 あまりのまくしたてに思わず止めてしまった。

「いや、だってさ俺たち二ヶ月しかないじゃん!二ヶ月」となぜか妙に二ヶ月を強調させてくる。

「なんで、そんなに二ヶ月を気にするの、そんなに私と別れたいの?、付き合う気無いの??」

「いや、まあ、ほらさ、あれだよ」

「もう、知らない!」とプイっとへそを曲げてしまう。

「わりーって、ただ二ヶ月のお試し期間にいっぱーい色々やってみてさ合うか知りたいんだけなんだって」

「もう、いい、わかった」怒りもあったけど、本当は半分は嬉しかった。幼馴染のせいなのか思考回路が似てるのか同じようなデートプランを考えてからだ。

「じゃあ、目一杯遊んで二ヶ月以降も付き合いたいって思わせるんだから!」と素直に気持ちを伝えられず、くどい言い方で伝えてしまう。

「わかった!ありがとう!ごめんな!じゃあさまず来週の7月7日の花火大会行こうぜ!」とスマホでサイトを見せてくるそれは全国的に有名な、約40,000発も上がる花火大会だ。

「いいよ、わたしも行きたかった!」さっきまでの怒りはどこへやら、すっかり乗り気になってウキウキと乗ってしまう。

「ほんと!?やったーじゃあ当日6時に駅まで集合な!」

「わかった!」この時私の頭の中は、何色の浴衣を着ようとか樹、喜ぶかなでいっぱいだった。

「浴衣、楽しみにしてるぞ!」と樹がニタッと笑って言ってくる。

「なんで、私の頭の中読んでるのよ!あ、」思わず考えてたことを図星で当てられて思ってたことそのまま口走ってしまう。同時にしまったと思って口を押さえる、自分でも顔が赤くなっていくのが分かる。

「さては、もうすでに考えてたとか?じゃあ楽しみにしてるぜ!」

「バ、バカ、ち、ちがうし、、、」と声が小さくなっていく、やっぱりこいつに嘘はつけないみたいだ。

 その日はもう日が傾いてきて、さすがに家に帰ることにした。でも、やっとデートの約束ができてうれしかった。本当に嬉しかった。好きなラブソングを口ずさみながら帰った。

 当日、朝の10時。

「お母さん、私の浴衣はー?」「帯どこー?」「おかあさん?」

 と朝からドタバタだった。慣れない化粧と浴衣に合う髪型を精一杯ネットで調べながらする。

 お母さんに着付けをしてもらい、「いってきまーす!」結局約束の時間ギリギリに家を飛び出る。

 慣れない下駄で慣れた道をかけてく。

 結局約束の時間5分前について、当然、樹は着いていた。

 背の高い樹は多くの人がいる駅までも一目でわかる。

「樹―」駆けて樹のもとに向かう。それがいけなかった。慣れない下駄で駆けたせいで樹の手前でつまずいてしまった。世界がスローモーションになる。私はこけて痛いとか血が出るより、あ、汚れたら樹とデートがとデートと浴衣の心配していた。

 こけると思って目を閉じるといつまで経っても堅いコンクリートや痛みを感じない。恐る恐る目を開けると私は温かくてそれでいて男性特有のがっちりとした腕の中にいた。

「あぶねー気をつけろよ」

 樹は私を抱きとめてそう伝えてくる。

「あ、ありがと」思わぬ状況に照れと情けなさから顔が赤くなってくのが自分でも分かる。

「いいって、それより行くぞ遅れるから」とこけた私が恥ずかしい思いしてるのを感じ取ったのか。あえて、触れずに電車に乗り花火大会に向かう。

 電車気が動転して乗るとさっきはこけた恥ずかしさと気が動転して見れなかったが、私の前に立つ樹の浴衣姿は思わずドキッとしてしまう。こんいろの淡い色生地に白い縦線が入った、落ち着いた雰囲気の浴衣には目が引かれるものがあったが、その気持ちを伝える余裕すらなく、十五分程揺られ、会場に着いた。さすが、日本一と謳われるだけある、花火大会とあって多くの人が会場に行き来している。

「なーまず何したい?」

 樹がそう語りかけてくる。久々の夏祭りと花火大会に思わず浮かれて、子供のようにはしゃいでしまう。

「じゃあ、まずは金魚すくいいこ!」と金魚すくいの屋台を指さし樹に言う。樹はクスッと笑い

「いいぜ、行こうぜ」と二人で金魚すくいをしに行く。

「おっちゃん、ポイ二つ」

 樹が注文してさりげなく二人分の料金を払ってくれる。

「ちょっと、いいよ自分で払うって」焦ってそう伝えると

「いいって、これくらい彼女の前だと少しはかっこつけたいじゃん」

 と樹は自分でいいながら恥ずかしくなったのか、顔が目に見えて赤くなってく。

「ふふふ、分かった、ありがと。」

 樹とともに並んで屈み、いつ以来かわからない金魚すくいをする。

「あ、逃げられた!ってかもう敗れたんだけど(笑)」と笑う樹は早々に金魚に逃げられて結局一匹も捕まえることもなく逃げられたらしい。

 私はというと

「陽菜、やっぱうめーな」

 そう私たちは幼いころ何度か夏祭りに出かけててその度に私が樹に勝ってた。けっきょく、 私は十六匹捕まえて、捕まえてもかわいそうだからといい全匹返した。その後も樹とともに綿あめを食べたり、射的をしたりして花火が始まる時間まで楽しい時間を過ごした。

「やべっ、花にもう始まる、行くぞ陽菜」

「ちょ、待ってよ」

 樹と違って背が低い私は人混みの中はぐれそうになってしまう。その時手首に温かく、大きい手がつかんでくるのを感じた。

「はぐれるからな、ほら行くぞ。とっておきの場所行こうぜ」

 樹はサラッと私の手を引いてとっておきの場所という場所に向かっていく。手を引かれ着いた場所は、人気がない林の先にある、人気のない丘だった。

 私の手首に樹の手は掴まれたままだった。うるさくて、聞こえそうな心臓の鼓動が聞こえそうで、それでも冷静を装いながら。

「よ、よく知ってるねこんな場所」

 あーバカ何冷静って言ってどもってるのよと自分の頭の中で自分に怒りながら返事を待つ。

「ま、まーな」

 樹の声もどもってて、パッと手を離される。その様子に思わず吹き出してしまう。なんだかんだ言って樹も同じなんだって少しほっとした。

「な、なに笑ってるんだよ!」と焦って返す樹がかわいかった。

 ドーン!

 そうこうしてるうちに一つ目のピンクと黄色とオレンジのの大きな花火が打ちあがる。

「あ、始まったな」二人で花火を眺める。

 少しすると、途中で手に温もりを感じた。手を見ると樹の手が繋がれてた。心臓の鼓動が再びうるさくなる。

 でも、それはうるさい花火のせいにして聞こえないふりをした。温かい手、目の間に広がるきれいな大きい花火。何もかもが、新鮮でうれしさで一杯だった。

 花火も後半に差し掛かると次々と赤や、オレンジ、青や紫と色鮮やかな花火がとめどなく上がっていく。

 次の瞬間手が離れ、

「陽菜」

 名前が呼ばれ振り返ると、唇に樹の柔らかく温かい唇が優しく重なる。後ろでは最後の特段と大きい花火が上がっていて、花火に負けないくらい大きい鼓動がかき消されていた。

 唇が離れて何が起こったかいまだに分かってないが、鼓動がまだうるさいことだけ、そして初めて樹とキスをしたという現実だけが頭の中でグルグルしていた。しばらく、お互い言葉が言えず静かな空気が流れていたが、先に口を開いたのは樹だった。

「は、花火綺麗だったな」樹も同様が隠せないのだろう。その声に動揺が表れている、まるで告白してくれたあの日のようだ。私はまたもあの時のように吹き出してしまう。

「ふふふ、そうだね綺麗だったね」

 それで樹も少し和んだのか、落ち着きを取り戻して何事もなかったかのように

「そうだな、遅いし帰るか」とともに駆けて上がってきた丘を再び降りてく、自然と樹が手を津直井出来てそのまま駅まで手をつないだままだった。


 第四章


 花火大会後の駅はやっぱり混んでいた。なんとか電車に乗り、共に並んで電車の座席に座った。と胸の鼓動が乱れるようなことと人ごみのせいですっかり疲れてしまい。気づけば、左にいる樹の方にもたれていたみたいだ。着いた頃には、樹の声で目が覚め、パッと見ると樹の方にもたれていた。

「ごめん、寝てた!」と慌てて起きて樹の肩から離れる。

「いいって、疲れたしな、なにより陽菜可愛かったし」と少し照れ、頬を指でポリポリとかきながら言ってくる。

「え、樹起きてたの、てっきり寝てたかと」と慌てて声がどもる。

「起きてたよ、両方寝て寝過ごしたらやばいだろ?」

「そ、そうだけど」

 ごもっともすぎて何も言えない。これで樹も寝てたらばれずに済んだのにと願っていたのだがまさか起きていたとは。

「まあ、いいってかわいい彼女の寝顔をも見れたことだし」

 とお得意のニタッとした笑みを浮かべて言ってくる。そしてその響きは照れ臭いものだが、嬉しかった。

「あ、ありがと。」

「じゃあさ、家まで送ってくよ、暗いしさ」

「いいよ、そんな遠くないし。申し訳ないよ」

 と伝えるが

「いいって、それにまだ陽菜といたいし。」

 恐らく、樹のことだから無意識にこうやって気持ちを伝えてくれんだろう。キスだって、手を握ることだって全部樹からだ。自分からは素直になれてない。

 暗い道を互いに手をつなぎながら歩いて帰る。

「痛っ、」

「ん?どうした?」

「下駄、慣れないせいで足が痛くて」

 ふと、足を見ると鼻緒のところがすれて真っ赤になってる。自分でいうのもあれだが見るからに痛そうだ。

「仕方ねぇな、ほら」

 樹はそう言って、私の前に屈み背中を見せる。それはおぶってやるということなんだと分かった。

「い、いいよ、樹疲れてるし。それに私重いよ。」後半はごにょごにょッと言ってしまったが、残念ながらこれも事実だ。彼氏ができたんだからダイエットくらいしとけばよかったと心から後悔する。

「いいって、家あと五分くらいだろ?それに、言ったろ、俺筋トレしてるって。なにより、その足だと歩くのきついだろ?ほら」と手をひょいひょいと揺らし乗れと合図してくる。

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 と恐る恐る乗る。

「重っ」

「え、う、うそごめん降りるね!」と慌てていると樹が吹いた。

「冗談だって、軽いよ。陽菜が可愛いからちょっとからかっただけ。」

「も、もうー」

「ハハハ、わりーって、ゲホッ、ゴホッ。」

 突然樹が咳をした。

「樹大丈夫?」

 しばらく呼吸を落ち着かせて樹は言う。

「ゲホッ、わりぃ唾が変なとこ入った」

「もう、心配して損したー。」と冗談と半分で怒る。

「え、心配してくれたの嬉しいなー可愛い彼女が心配してくれて。」

 そういって笑うから何も言い返さくなってしまった。

 その後数分何も言えずにお互いる。でも、樹の背中は思ったより大きくて、温かくて、何よりたよっ利害があった。今日、気づけば樹に伝えてもらってばっかりだ。私は照れて何も伝えられてない。だから、「よし」と心で覚悟を決めて樹の耳元に顔を寄せて言った。

「樹の浴衣ぶっちゃけかっこよかった。」

 恥ずかしくて、少し小声になってしまったが言えたからひとまずは良しとしよう。

 そう伝えた瞬間、樹の足が止まる。

「ちょ、急に何言うんだよ、寝ぼけてんのか?」

 樹は思いっきり動揺してる。そんな樹が可愛かったからか、それとも一度伝えてハードルが下がったのか、言葉を続けた。

「ほんとだよ、今日伝えてもらってばっかだったし、それに樹のキスも手を繋いだことも嬉しかったし、正直ドキドキしたんだからね。でもありがとう。」

 自分でもなんでこんな正直に想いが伝えられたのか分からない。でも、正直に想いを伝えてくれる樹といるとそんな気持ちにしてくれた。

「こ、こっちこそありがとな。」

 照れた樹は可愛かった。

「ふふふ、こちらこそ」

 今日の自分は少しおかしい、でも大切な人に正直に気持ちを伝えるって大切だなと改めて感じた。

 なんだかんだで家について、私を降ろしてくれた。

「じゃあな、帰ったら連絡する!」と手を振りながら帰ってく樹の背中を見つめながら手を振って

「ありがとーじゃあね」

 でも、連絡は来なかった。まあ、着替えて疲れて寝てしまったんだろうと気にしなかった。しかし、一週間も連絡は来なかった。それでも、あいつのことだからめんどくさいんだろと思って、気にしないふりをして過ごした。

 一週間後、自分のベッドでゴロゴロしてるとLINEの通知が鳴った。樹からだ。

「わりーあの日の後寝てて、なんやかんやめんどくさくて連絡してなかった」

 なんだそれと、思わず吹き出してしまった。でも、何事も無くてよかったと安心した。

「ううん、そんなとこだろって思ってた、何事もなかったみたいでよかった」と返信した。

 すると、すぐ返事が来て

「わりー、それでさ明後日からまたでーとしね?」と誘って来た。

「もちろん」その四文字だけ返すと眠ってしまった。その後も夏休みの間様々なデートをした、ピクニックで樹がサンドイッチ落としたり、、線香花火をしたり、映画を見に行ったりといろいろしてるうちに夏が終わった。夏休みの最後の日樹と水族館に行った。見た水槽はどれもきれいだった。そして、なぜかその日い樹はクラゲの水槽の前に止まってこんなことを言った。

「クラゲってさ最後は溶けて死ぬんだって、だから何も覚えてないし、痛くもないんだって」

 何でそんなことを言ったか分からない、でも、その樹の横顔はどこか儚かった。

 そして、帰り道またいつものように家まで送ってもらうと、樹はすぐに帰らずこう言った。

「陽菜、愛してる。」

「な、なに急に?どうしたの?」

「別に、陽菜、前線香花火してた時言ってくれたろ?正直に大切な人に思いを伝えるって大切だって。」

「そ、そうだけど。急だからびっくりして」

「なに?俺がかっこよすぎて動揺してる」

 としたからのぞき込んできてニタッと子供のように笑い、からかってくる。

「ち、ちがうし!でも嬉しかった。ありがとう」

 照れて目を見れなかったがそう伝えた。

「明日で約束二ヶ月だな。返事明日学校で聞かせろよな。」

「うん」

 そして、樹は背を向け帰って行く。

「い、樹!」

 呼び止めた。そして、思い切り深呼吸して伝えた。

「私も愛してる!また明日ね!」

 震える声で必死にそう伝えた。

 樹は聞くとニコッと微笑み

「おう、ありがとうな、じゃあまた明日!」

 こうして約束してた二ヶ月は経っていた。


 第五章


「おはよー!」

 夏海の声が教室に響く。夏休みが明け、二学期が始まった。

 でも、いつもの席に樹の姿はない。

「なに、あいつまた来てないのー遅刻かよ」

 と夏海が私の前の席にドカッとかけて話してくる。

「うん、たぶんねー」

「あいつ。最近多いなー最近って言うかここ数ヶ月か」

 数ヶ月、その言葉に少しドキッとした。なぜだかわからないけど変な予感が一瞬した。でも、気のせいだと思い頭の中で必死に流した。

「授業始めるぞー席つけー」

 先生の声が響き各々自分の席について、授業が始まる。

 結局その日は樹は来なかった。

 授業後、私が心配そうな顔を浮かべて下駄箱で立ってると、後ろから夏海が肩を組んできて

「大丈夫だって、そんな心配するなってどうせ寝坊か風邪だろ?」

 と心配してる私の不安を拭い去ってくれる。

「うん、そうだよね、ありがとう夏海。」

「いいって、なんもしてないしさ、それより最近彼氏と遊んでばっかで付き合ってくれないし、一緒にカフェでも行こうぜ。」

「ちょ、ちょっと、ごめんって!」

「ハハハ、じょうーだん、ほら、行こう!」

 と私の手を引いていつものカフェに向かってカフェで数時間ほど他愛もないお喋りをした。帰る頃には私の不安は完全に消えていて。そして、すっかり日が暮れてきていた。並んで、共に駅に向かい帰路に着く。

 電車に乗ると共に座ってまたお喋りの続きをする。

「明日には来るって」

「そうだよねー」

 と笑いながら話しながら電車に揺られ、途中まで歩き、分かれ道で別れた。

 でも、その次の日も次の日も樹は来なかった。

 そして、またあの日のように夏海とともに夏海の提案で樹の家に向かった。インターホンを相変わらず躊躇なく鳴らす夏海。

「ちょ、ちょっと待ってて」

 心の準備ができる前に、ドアが開いたでも出てきたのは樹じゃなくて、樹のお母さんだった。

「ご、ごめんなさい!樹居ますか?」

 樹のお母さんはなぜか複雑そうな顔をして私たちを家に上げた。そして、あの日樹のお母さんが悲しそうにしてたダイニングテールに座るよう言われた。

「あ、あのー樹は」

 と私が口を開いた。お母さんは顔を両手で隠して震える声で言った。

「樹はね、死んだの、昨日」

「え、うそ、嘘ですよね?だって子に間まであんなに、、、」

 樹のお母さんは泣きながら首を横に振る

「ううん、ほんとうなの。」

 とうとう、樹のお母さんは声を上げて泣き出してしまった。

 なんて、言えばいいか分からなかった。樹が死んだ?嘘だと言ってほしい、悪い夢なら覚めてほしい。

 手の甲をつねったが当然痛かった。同時に、強い駆深い悲しみが押し寄せてきた。

「ウッ、ウッ」

 私と夏海は肩を寄せて泣き合った。三人で泣いて、三十分程経った頃だろうか?ようやく全員少し落ち着いてきて、話をの詳細を聞き始めた。

「あれは、夏に入るすこし前くらいかしら、樹はね、具合が悪くてね、ある日倒れて、病院で検査したら。余命二ヶ月だって言われたの。」

 信じられなかった、あんな元気だった奴が、余命二ヶ月と宣告されていたなんて。

 その時頭で色々と繋がった。そして、樹のお母さんは口元を押さえて再び泣きそう人ありながら震える声でこう続けた。

「あの子ね、それ以来すごく塞ぎ込んでたの。でもね、あの子ずーっと陽菜ちゃんのことが好きだったの。だから、絶対、どうしても想いを伝えたいって。でもね、余命二ヶ月しかないやつが付き合っても辛い思いするだけって、なかなか踏ん切りがつかなかったの。」

 知らなかった、樹が、あんなに明るく振舞ってたやつがそんな重たいものをか一人抱え込んでたなんて。そして、樹のお母さんは相引き続き震える声でこう言った。

「でもね、あの子ね、ある日から突然明るくなったの。なんでかって聞いたら、陽菜ちゃんに告白してOK貰えったって。でも夢を壊したくなかったんだけど、余命で悲しませるっていうのはどうしたのって聞いたら。あの子、口元の人差し指を当てていつもみたいにニタッと笑って「まあ期限付きの恋的な?」って笑って言ったの。意味が分からなかったけど、でもこの子が幸せならいいかって深く詮索しなかったの。」

 だからだったんだ、私は再び泣きそうになった、全部が完全に繋がった。

 そして、樹のお母さんに伝えなきゃ、樹の考えを、想いを、と思って震える声で伝えた。

「樹、だからか。樹二ヶ月だけ付き合ってくれって言われたんです。理由を聞いたら、「夏休みだけのお試し的なってなんか会わなかったらすぐ次行けるように」って?ふざけてるなって思って、怒ったんですけど、でも私嬉しくてOKしたんです。」

 スカートに涙がぽたぽたとこぼれてきたが言葉を紡いだ。

「だから、あいつ私を悲しませないように二ヶ月だけの恋って。」

 伝え終わると、私はまた顔を隠して泣き出してしまった。

「そう、あの子ったら、ウッ、そうだったのね。」

 そういうと、樹のお母さんも泣き出した。樹の想いを伝えられてよかった。

「それから二週間くらい入院したの。ほら、二週間くらい休んだことあったでしょ?夏休みの前に?」

 そうして、いろいろ聞いた。泣きながら、言葉を絞り出すように教えてくれた。

「花火大会の日も本当は具合が悪かったのあの子、先生にも止められてね。ウッ、でも、どうしても行きたいって言って、薬を多めに使ってね。帰ってきたら、限界だったみたいで、倒れてねそこから一週間入院したの。」

 やっぱり、と話の流れ的に察してはいた。

 そして、この間の水族館の事を聞いた、そう、私が最後に樹に会った時だ。

「樹はね、あの日も病院から水族館に向かったの強めの薬いれてもらってね、先生に本気で止められたんだけど、「俺行かないと、彼女待ってるんで」ってニコッと笑って向かったの、でもその後病院戻ったら急変してね、意識不明になっちゃって、学校にも当然いけなくて、とうとう昨日そのまま。」

 樹のお母さんの目はもう真っ赤だった。それでもまだ、声を上げて泣き続けた。話を聞き終わると、また三人で大号泣した。

 しばらくすると、樹のお母さんがこう言った。

「あの子、最後まで「陽菜」ってか細い声で呼んでたの。」

「樹」

 それを聞いて泣いてしまった、最後まで私の事を想っててくれたなんて、なんで気づけなかったんだろと自分を責めた。

 次の瞬間、樹のお母さんが私の手を握って涙ながらに言った。

「陽菜ちゃん。あの子あんたと付き合ってるときは本当に幸せそうだった。ありがとうあの子に希望をくれて。」

「いいえ、こちらこそ、ありがとうございます。」

 互いに手を繋いだまま泣いた。

「今晩、お通夜なの、陽菜ちゃん、夏海ちゃん、来てもらえる?」

 彼のお母さんは目元をハンカチで拭いながら、そう聞いてきた。

「もちろんです。」

 二人の声はそろった。一度お互い家に帰りお通夜の服を取りに帰る。

 お父さんとお母さんに事情を話したらお母さんは泣いていた。お父さんも腕で目元を隠し声を押し殺しながら自分の部屋に戻っていた。

 そして、夜、樹の家に向かう。同級生出来てたのは私と夏海の二人だけだった。後は樹のお父さんとお母さんと親族だけだった。通常は知人も来るそうだが、まだ伝えていないので樹の友達は当然来なかった。

 まずは親御さんからお焼香をして、棺の中の樹を見て泣いていた。

 次に席順的に夏海が向かう、普段気丈な夏海が子供のように樹の顔を見ながら泣いていた。

 最後に、私がご焼香をして、五木の顔見るとまるで眠ってるようだった。そして、ご両親が気を使って私と樹を二人きりにして下さった。

 樹の棺の側に行き、座り、棺に腕を乗せて棺ごと彼を温かく抱きしめるように最後に泣きながら言葉をかける。

「樹、信じられないよ、言ってよ。ねえ、なんで抱え込むのさ。だから二ヶ月だったんだね、だから、最後に愛してるっていってくれたんだよね?」

 当然返事はない。でも、震える声で涙を片手で拭いながら言葉を紡ぐ。

「ありがとう、私に大切な人に思いを正直伝えるってことを教えてくれて。ありがとう。愛してるよ、樹」


最後までお読みいただき、ありがとうございました。初めてで拙い文章ですが、人の心の機微を描きたいと思いながら書かせていただきました。

読んでくださった皆さまの日々にも、小さな幸せや勇気が訪れますように。これからもどうぞよろしくお願いします。

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