11.謙士の視点 3
そうしていれば、にわかに仕事が忙しくなり。なかなか店に寄れない日々が続いた。
お陰で文人を家に招待しようとしていた計画も思うように進められない。
軽いノリで誘ったふうを装ったが、実際はかなり緊張していた。文人を誘ったのは、決して軽い気持ちではなく。
同性が対象となる文人を誘うとは、どう言う事か。
あの時はまだ元カノの件もなく、気持ちがはっきりとはしていなかったとは言え、きちんと理解した上で誘ったのだ。
文人を知りたい。
その一心だった。
そして、今ははっきりと自分の気持ちを自覚している。
そんな中、文人からその招待を断る連絡を受けたのだ。俺は仕事中で。ふと着信を知らせに目を向け、端末を握り締めたまま固まる。
どう答えていいのか、分からなかった。
だって、楽しみにしていたのだ。文人が家に来るのを。
『わかりました。じゃあ、またの機会で──』
そう事務的に返せば良かったのだろう。
けれど、できなかった。
そう答えれば、大人の社交辞令となってしまう。波風立てずこちら側から身を引く時の常套句。次はないのだと了解したのも同然。
文人が何を思って断りを入れてきたのかわからない今、無理を突き通すわけにも行かない。
そんな事をすれば、文人は一層、距離を取ろうとするだろう。
もっとプライベートで、文人と二人きりの時間を過ごしたい──。
が、そう思った矢先、急に海外出張を言い渡され。行くはずだった同僚が他の案件で動けなくなり、その代わりだ。
あまりに急で、言われたその日の午後に海外出張となる。
あり得ない!
慌ただしく空港へ向かいながら、心の中でそう叫んでいた。
文人の気持ちを確認したい。けれど、きちんと会って話したかった。
普段から要件があるとき以外、連絡アプリを使わない。直接話すのが好きで、メール関係はいつも事務的なことにしか使っていなかった。
ことに、大事な事は顔を合わせて話したい。顔の見えないメッセージのやり取りだけで、確認したくなかった。
なぜ、断ったのか。
自分は、なにかを間違えたのかもしれない。それを、会って確かめたかった。
◇
しかし、その機会が訪れたのは、ひと月も経った頃。
海外をあちこち飛び回り、日本に帰ってきたその日、ようやく文人の顔を見ることができた。そのあともまた海外出張が待っている。
ヨレヨレボロボロになって店まで辿り着き、久しぶりに文人を見て、やはり自分の気持ちは本物だと確信した。
文人と、切れない関係を作りたい。
そう思った。
だから、誰とも付き合わないで欲しいなどと、とんでもない要求が口から飛び出したのだ。
もしかして、自分のいない間に誰かいい人を作ってしまうかもしれない。
告白もしていないのに、ふられるのはごめんだ。文人は驚いた表情でその言葉を聞いていた。
あとは怖くて顔を見られず、ただ飛び出すようにそこを後にして。
でも、後悔はまったくなかった。
そして、その日が訪れた。
空港に着いてすぐ、タクシーを飛ばし店を訪れる。
雨が降っていたその日、いつかのように傘立てを出していた文人を軒下にみつけた。もう、それだけで甘く苦しい思いが胸に生まれる。
会いたかった。──とても。
お土産を押し付けられて、若干困ったようにこちらを見上げた文人を、間近に見下ろした途端。思わずキスしていた。
もう、気持ちを抑えられなかったのだ。
もっと、触れたい…。
キスして、抱き締めて、そのさきも文人がどんな顔をするのか、確かめたかった。
文人が好きだ──。
誰にも渡したくない。そう思えた。




