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道具屋さん

人の魔石、そいつはね……

作者: あかね

「……変なの来た」


 私は思わず隣の同僚に話しかけた。


「なに?」


「ヒトの魔石」


「あー、君、それ見るの初めて?」


「はじめてですよ! なんですか、魔法実験の産物ですか!」


 わくわくしながら聞いたら、同僚がげんなりした顔をした。無表情がウリの長命種がげんなりした顔するってよっぽどだ。

 特級呪物!

 と思っていたら……。


「尿路結石」


「……は?」


「体内で魔力が固まって、詰まって、排出されたヤツ」


「……いやぁーっ!」


 思わず放り投げた。



 私、イスカル・レーレ。田舎から出てきた錬金技師の卵。生まれ持った鑑定スキルでアルバイト中。

 商品を放り投げたら、もちろん、説教される。はい、悪かったです、反省してます、と繰り返すイキモノになる。


 今の時代、魔石は貴重である。

 魔物からとれる、というのは昔の話で、ちょっと昔の話は動物を養殖して取り、今では動物愛護の観点からそれも禁止されている。

 そのため、日常のものはすでに魔石などは使うこともなく、自前の魔力を使うものか地下に埋蔵されている液化燃料に頼っている。あれも厳密には、石化していない魔石ではあるんだけど、区別されている。純度が違うし、かなり精製してからじゃないと魔石と同等の出力は出せない。その結果、昔使えた道具は使用できなくなり、不便になっているらしい。

 便利な生活を求めて魔物を乱獲するから今困っているじゃないかと古代人に文句を言いたい。

 一応、人造魔石もあるにはあるが、こちらも貴重品かつ基本医療用なので市場に出回ることもほとんどない。医療機関管理で、流出したら担当者が首になる。物理で。


 そう考えると医療機関はヒトの魔石というのも入手しやすいのか。胆石とかもあるし。盲腸も。

 二重にお得?


「まあ、わからなくもないが、そいつも貴重品。

 痛かっただろうなぁ。そのサイズ」


「ですかね……」


 同僚は男なのでよくわかるんだろうか。もしや経験者? 疑惑の眼差しには冷たい視線が帰ってきた。絶対零度だ。おそろしくて聞けない。

 そもそもここの鑑定部署には二人しかいないので、職場環境が激的悪化するか解雇される。ほかにも代わりがいるんだよ、が、ガチである。

 もちろん、私はどちらもお断りである。


 錬金技師というのは金を稼げるが、出費も多い職業だ。魔力を含む素材もお高いし、バイトだからと割引で買えるという良い特典の職場を手放せるわけもない。


「ヒトのほうがこういうのは固まりやすいんだよ。魔力の吸収量を超えた部分が溜まった結果だからね」


「女の人はどこにたまるんですか」


「子宮。腹で子を育むときに魔力が必要になる。だから、女性側の魔力量が子の魔力量に影響があるという話になりがちだな。

 学会が言うには、ある一定量を与えているだけで影響は出ないという話」


「妊娠したかと思ったら石があったって話はそういうことですか」


「そう。魔力症の女性に多いね」


 で、魔力症の男性は尿路結石を患うのだろうか。ないはずの何かが痛む気がしてきた。


「ああいうのは、高額取引されるよ。生命の根幹の石とか言われちゃって。中身は大して変わりはしない」


 同僚は尿路結石、じゃなかった、魔石を大事に箱にしまう。


「金貨一枚と返しておいてくれ」


「へい」


 恭しく箱を受け取って表に出る。


 我がバイト先は素材屋という名のなんでも買う店だ。店主はカウンターで煙草を吹かすイケてるオババ。占い師としては高名なんだけど、素材なんかに関して見る目が節穴と豪語している。それ、素材屋として致命的ではと思うが、この店は死んだ友人の店なので継いだだけらしい。

 採算の取れてなさそうな店ではあるが、あの店に行きゃああるでしょ的な使われ方をしているようで、年間で言えばギリ黒字。節税になっていい感じらしい。


「10万だそうですよ」


 箱をテーブルに置いてお客に話す。交渉決裂ならお持ち帰りいただくからだ。


「おいおい、あんな痛い思いしたのにそのくらいかよ」


「現レートで言えばそうですね。

 金貨なら一枚。都合の良いときに自分で売るなら金貨で受け取ってください」


「ぐぬぬ」


 お客さんは唸りながらも金貨を持って帰っていった。

 この店の支払いは金貨や銀貨が多い。銅貨はもう役に立たないので、死蔵中。これも先代の店主の置き土産で処分したいから、そういう支払いらしい。

 一気に売ると市場がまずくなるという埋蔵量というのは、いかがなものだろうか。


 先代、竜だったの? と聞きたくなる。あるいはミミックか。

 真実は知りたくないので聞かないけども。


「またのお越しをお待ちしております」


「くっ。来ねぇよっ!」


 いやぁ、アレ、癖になるっていうから……。

 後ろでオババがげほげほと咳き込んでいた。


「大丈夫ですか」


「な、なんでもないよ。

 ほら、飴ちゃんあげよう」


「はい?」


 まあ、いただきますけど。

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