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8:二班

季節は湿った空気が漂う月。世間はジメジメと戦う季節だが、魔法術対策機関には関係ない。今日も満干の平和を守るために会議が行われていた。本部長で創設者遊馬(あすま) 冬至(とうじ)、第一班 班長 星々(ほしぼし)琉聖(りゅうせい)、第二班 班長 天々望(てんてんぼう)四夜華(しよか)第三班 班長 熱翔原(ねっしょうはら)一心(いっしん)は机を囲み会議をしていた。


「んで、例の子どうしてるの?」


回答はどうでもよさそうに天々望は前髪をいじりながら琉聖に質問を投げかける。視線を集めた琉聖は少し考えながらも返答をする。


「一応、班員の一人が同じ高校に通っていることもあってその子に監視役をしています。今のところ何も異常な行動なないですね。とりあえず、一週間様子をみて何もなければ監視を外そうかなと考えてます。」


「なるほどね。」


天々望やはりどうでもよいと言わんばかりにめんどくさそうに机に突っ伏した。そして、向かいに座る熱翔原は煙草の火を消して琉聖を睨む。


「お前、何か今回の事案軽んじてるんじゃないか?始末書にも書かれてたが、一般人に魔導兵器並みの物を持たせたままなんだよな?回収してないんだったらその一般人はその石とやらをこれからも使うだろ?そこんとこはどうなんだ?」


「決して軽んじてはいないですよ。僕だって、回収はしたいんですが、彼の親の形見ということもあって今すぐにというわけにはいかないんですよ。」


貧乏ゆすりをする熱翔原は琉聖をさらに睨みながら、煙草に火をつけた。匂いと煙が不快なのか、天々望は机に突っ伏したままくさーいと言い放つ。その言葉を聞いて熱翔原は再び煙草の火を消した。


「とりあえず、俺がその一般人を見つけたらすぐにその石とやらを回収してやる。」


その発言に琉聖は思わず椅子を立ち上がり身を乗り出してしまう。


「何だよ……?」


「いえ……何でもないです……」


「けっ、若造が……」


会話が終わると、冬至が口を開いた。


「とりあえず、今少年のことは星々くんに一任する。他の班長は決して手を出してはいけないよ。わかったね。」

天々望は突っ伏したままくぐもった声ではーいとやる気のない返事をして、熱翔原は無言でそっぽを向く。そして、会議の内容は天々望へ視点を置かれる。


「さて、次は天々望くんだね。君には任務の話だね。」


「ホイホイ~なんでしょーか。」


「君にやってもらうのは、いつも通り護衛任務なんだが、護衛対象が芸能関係でね…皆、知ってる人もいるかと思うが、第二班の護衛任務の護衛対象は、アイドルの美船(みふね)(あおい)だ。今日から頼みたいと依頼が来ているので会議が終わり次第二班全員で指定のダンス教室へ向かってくれ。」


会議室が静まり返ると天々望は顔を上げて返事をする。


「了解しまっした~」


「……本日の会議はこれまでとする。では解散。」


挨拶をすると三人の班長は会議室をそれぞれ出ていく。冬至は琉聖の肩に手を乗せる。


「それでは、引き続き少年の監視を頼む。」


「了解しました。」


琉聖は、爽やかに返事をすると会議室を出た。残りの二人も続いて会議室を出る。そして、冬至だけが残った会議室は静まり返る。冬至は窓へ向かい外の景色を見る。


「もう、いいだろう……」


冬至が誰かに声をかけると、暗がりから仮面を装着した人影が現れる。室内だというのに、仮面にローブを着ており、人か魔族かも分からない存在になっている。仮面の男はしゃべり始めるが、その声は音声変換によりノイズ交じりになっている。


「ありがとうございます。」


「いや、巻き込んだのは我々の方だ……」


「いえ、もともとあの石を渡した私の責任なので、冬至さんは気負わないでください。」


仮面の男は冬至に向けてそういうと では、と一言を残しながら影に溶けて消えた。仮面の人物がいなくなり本格的に一人になった冬至は窓に向かってため息をついた。


「本当にすまないね、大介くん……」


冬至は仮面の男のいた位置に窓越しに目線を配り謝罪する。


────────────


例の廃校の戦闘から一週間と数日が経とうとしている。晴山 優吾も監視生活に慣れてきたのか、彩虹寺を行動を共にするほどに満喫していた。今も、屋上で一緒に昼食を摂っている。曇り空を見上げながら、優吾は総菜パンを一口かじりながらつぶやく。


「はぁ、監視も明日で終わりだなぁ」


「そうだな……だが、だからと言って君が明日以降戦っていいということにはならないからな。」


「わかってるって。それにこの一週間はこいつから流れてくる映像もないしな。」


首からぶら下がっている石を見つめ、優吾はさらにつぶやく。黒い雲がだんだんと厚くなるのを感じた優吾は食べ終わったゴミを適当に結んでポケットに入れる。


「よし……行こうぜ、雨が降る。」


「あぁ、そうだな。」


ふたりが立ち上がると同時に丁度、雨が降り始める。


その一滴。


周りの景色を映しながら、優吾の胸の石へと落下する。


その一滴。


それは優吾の脳裏に映像を映し出した。


またもや誰かの目線。目の前には、テレビで見たことのある少女。少女を追いかける視線なのか、少女はとても恐怖に慄いており腰が抜けている。周りは人気のない路地裏で、特徴的な英語のタギングが映っており、周りにはゴミ袋が散乱している。目線は移り、今度は目の前に魚のような魔族がこちらに近づいてくる様子が見える。限界まで近づいてきた魚魔族の手のひらで映像は途切れた。


「晴山?」


声に反応すると雨の音が耳に入ってくる。空を見上げると、雷が蠢き呻る黒い雲からは激しく雨が落ちてくる。その雨を優吾は一身に受けていた。ずぶ濡れの優吾は悲しそうに彩虹寺を見つめる。


「なぁ、彩虹寺……今、俺が隊長悪いって言って加えて一人で帰りたいって言ったらお前は返してくれるか?」


彩虹寺は何か察したように優吾を見つめる。


「もちろんついて行く。私は君の監視役だからな。」


「そうだよな……」

優吾は彩虹寺に気づかれないように横目に屋上のフェンスを見る。そして、ため息をつきながら、そのフェンスへ歩きもたれかかる。本当に体調が悪いのかと彩虹寺は心配で優吾へ駆け寄ろうとしたその時、優吾は石を握りながらフェンスを飛び越えた。ちなみに優吾の学校のフェンスだが、落下防止のためのヘリがなくフェンスを飛び越えるとすぐに落下してしまう作りになっている。


「晴山!!!」


彩虹寺が叫んだが優吾はすでに着地を済ませており校門を一歩で飛び越えていた。雨のせいで生徒や教師には見えなかったが、彩虹寺はその姿をしっかりと目で追った。そして、急いで第一班全体への通信をつないだ。


「緊急事態!!監視対象晴山 優吾が校内より東へ逃亡しました!」


繰り返し同じことを二回言うと、彩虹寺は通信を切り急いで校内の階段を降りる。途中、担任に会うと慌てた様子で説明する。


「先生!!すみません!!早退します!!」


担任は呆気にとられ、ポカンとしながら おう、と取ってつけたように言うともういいか、と言いながら職員室へ消えていった。彩虹寺は汚れるのも気にせず、ただグラウンドをずぶ濡れになりながら校門へ向かう。


「晴山、どうしたんだ。」


校門を抜けると、琉聖から通信が入った。


『綾那ちゃん!聞いた!ごめん!東のどこら辺まで行ったか分かるかい?』


「すみません。東にいったこと以外は……ただ、彼は姿を晦ます前に鎧をまとっていたのでおそらく目立つかと……」


『了解!綾那ちゃん!すまないけど、引き続き優吾くんを追ってくれ。僕らも後から追いつくから。』


「了解!!私は晴山を追います!!」


彩虹寺は通信を切ると、優吾の後を追うように学校から東のブロックへと向かった。


────────────


雨の町中、人が少ないのもあってその異様な者の走る姿は目立っていた。少ないながらも視線を集めるその者は白い狼を模した鎧を身にまとい、音を立てながら町中を走る。晴山 優吾は視線を気にすることなく、頭に流れていた映像の路地を探す。暗がりを見つめ、違うと判断するとすぐに次の路地へと急ぐ。


「どこだ……」


すると、路地裏へ急いで入っていく人影が見えた。その姿は映像で見た少女と同じ姿をしており、優吾はその姿を見るや否や少女の後を追い路地裏へと駆け込んでいった。


「ここか……」


暗く長い路地裏で白い壁のタンギングを見つける。これも映像と同じタンギングだと確認すると優吾はさらに奥へと入っていった。最奥へたどり着くと優吾は己の目を疑った。路地裏の最奥は行き止まりで人が簡単に超えて向こう側まで行けるようにはなっていなかったのだ。


「は?」


優吾がその光景に気を取られている間に背後から攻撃が仕掛けられる。水の槍、風の弾丸、岩の礫、その全てをまともに受け、優吾は行き止まりの壁へと打ち付けられる。


「あ?」


そして、最後に仕上げと言わんばかりにワイヤーでその場に吊るされた。優吾は訳が分からずに、攻撃された方向へ目を向ける。そこには見覚えのある黒を基調とした制服を着た少年少女が立っていた。真ん中のメガネの少年が前へ出てきて怒りの視線を向ける。


「このゲスが……」


優吾は何か勘違いしていることに気づき、自ら弁明しようと口早にしゃべる。


「お前らは何か勘違いしてる。俺はここに少女が入っていくのを目撃して入っただけだ。」


メガネの右にいた金髪の三つ編みの人相の悪い少年が口を開く。


「で、少女を目撃して入ってそのあとは?」


「いや……なんか心配だな~って思って……」


その時、風の弾丸が頬を掠める。メガネの左隣にいる少女が目を合わせるとおどおどしながら口を開く。


「ほ、本当は襲うためにお、追っていたんじゃないんですか……?」


「ち、違う!!俺は、人間でこの姿は形見の石で変身した姿で……」


そう言おうと慌てるが、ワイヤーが強く食い込む。上を見上げると、中世的な顔立ちで右耳にオレンジの石の装飾をした人がこちらを見下ろしながら問い詰める。


「で、それを証明する方法は?」


そういわれた優吾は急いで魔装を解き、人間になった姿を見せて証明する。


「ほら、俺は人間だ。」


その光景を見た金髪の三つ編みはギザギザの歯を見せながらニヤリと口角を上げる。


「バカだなお前。人間に戻ったら余計に魔族の容疑を駆けられるのは目に見えてわかることだろ?それをやるなんて本当にバカだな~」


優吾はあっ…と声を上げるが、体はだんだんと下がり地面に降ろされる。しかし、まだ自由でないからにわずらわしさを感じながら、近づいてくる四人の顔色をうかがう。そして、ワイヤーを使っているピアスが優吾を見ながら三人に伝える。


「いや、この子は魔族じゃない。人間だ。」


三人のうちメガネは理解を示し、オドオドした少女は頭の上にクエスチョンマークが浮かび、金髪の三つ編みはばつが悪そうにそっぽを向く。


「確かに魔力が感じられないです。でも、あの姿は?」


「魔力がないのに何で魔術を?」


「けっ!外れかよ…」


三者三様のリアクションに、ピアスは優吾の胸をまさぐり石を取り出す。


「これだね。これから凄まじい魔力と魔力以外の何かを感じる……これ、何?」


「親父の形見ってこと以外は分からないです。」


形見、石、鎧の戦士、少年というピースをつなげたピアスは頭を抱えた。


「あ~……君か~……」


ピアスのその態度に優吾は改めて四人の制服を見て完全に思いだす。そう、黒を基調とした制服……魔法術対策機関の制服以外で間違いなかった。


「やべっ……」


同時に、医師が突然まばゆく光り出し、その場の優吾以外の全員は目を覆った。


『さぁ、今だ、そこの水たまりに飛び込め……』


石の声だが、また、新しい声だった。最初に聞いた中世的な声、蜘蛛男戦の時の男の声とは別の女性の声。優吾はその声に従い、ピアスの側の水たまりへと飛び込んだ。光が弱くなり、四人は優吾のいた場所へ目を向けると影も形もなくなっていることに驚愕する。


「……班長、確かに魔力は感じられなかったんですよね?」


メガネに班長と呼ばれたピアスはワイヤーの先を見つめながらつぶやく。


「あぁ……確かに彼からは魔力を感じられなかった……」


金髪の三つ編みがピアスのワイヤーを見て冗談か何かだと半信半疑で目元を引きつらせる。


「冗談だろ?俺の知っている人間はワイヤーは引きちぎるほどの腕力はなかったと記憶してんだが?」


オドオドした少女はメガネの影に隠れながらひぃと怯えた声を上げる。四人の視線の先には先ほど少年の捕縛していたワイヤーなのだが、そのワイヤーは破かれた紙のように真っ二つに引きちぎられていた……


「琉聖っち……全く面倒な子と出会ったもんだね……」


四人は急いでその場の状況をまとめて魔法術対策機関本部へと戻ったのだった……


8:了

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