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喜劇的な出会い

なんだよ、これは・・・


目の前で繰り広げられる殺し合いに俺はただ茫然と見ていることしかできなかった。怖かったからではない、見とれてしまったのだ。可憐な金髪の少女が美しく人を殺していく様に。


これは喜劇と呼ぶにはあまりにも残酷で、しかし彼女、”シャーロット”の喜劇に欠かせない始まりの時である。


さて幕を開きましょう。ライトをつけて。一瞬も見逃すことのないようお気を付けください。


時は30分ほどさかのぼる。俺は暗い夜道で息を殺しながら隠れていた。


「いたぞ!あそこだ!!」

「はあ、はあ、くそ!見つかった!」


俺は約10時間、ずっと何者かに追われている。もちろん身に覚えのないことだ。誰にも喧嘩を売ったことはない!真面目に生きてきただけだ!どうして俺なんだよ!!せめて訳を聞かせてくれ!!


そう何度も思ったが、相手に聞く耳などない。流石に俺にも限界がきている。ろくに飲み食いせず逃げまっわていればそうなる。こんなところで死ぬなんてまっぴらごめんだ。戦争も終わって10年。ようやく俺みたいな若者がやりたいことできる時代になったんだ!俺は自分の夢を追いたい!!


ここは・・・

逃げた先に二階建ての小さな民家を見つけた。ドアが開いている。中の電気はきえているのでもう寝たのだろうか。仕方ない・・・この家で少し休憩させてもらおう。


おそるおそる家に入ってみる。


「あ」

「あらま」


いた。普通に座ってた。金髪でかわいらしい少女だ。背丈から考えるに15歳くらいだろうか。


「こんな時間にお客さん?随分息を切らしているようだけれど大丈夫かしら?」


冷静になれよ、俺。ここは一旦撤退だ。家を間違えたことにして一度外に・・・


「ようやく見つけたぞ!犯罪者!!」


大男とその子分らしき4名に家中で捕まってしまった。もう追いつかれた。くそ・・・ここまでか・・・


「ちょっと待ってくれ!人違いだ!!俺は何もしていない!!信じてくれ!!」

「何を言うかと思えば、今更命乞いか?逃げくれした癖にな!!」


大男が声を荒げる。どうせ聞く耳など持たなかっただろうが。


「・・・じゃあ聞くが。俺はなぜ追われていたんだ?」

「それはお前が俺の財布を盗んだからだろうが!!」


財布・・・?


「は??財布??そんなもの盗んでない!!」

「お前がやったとそこのが言ったんだそうだよな!!」

「はい!俺がみてやした!」


俺の腕をつかんでいる子分の一人がそう答える。適当言いやがって!!

やはり完全な冤罪だ。こんなばかげたことで殺されるわけにはいかない!!


「俺は別に殺しが好きなわけじゃない。おいそこのガキ!!こっちに来い!!」

「あら。私のことかしら?」

「そうだ。こんなことで俺も自らの手を汚すってのもなあ。ほらこの銃でそいつをやれ。」


金髪の少女は大男のそばに立ち、銃を受け取るとこう言い放つ。


「ところでこの喜劇はいつ終わるのでしょうか??」


まさかの言葉に場がしんと静まり返る。


「最近は押しかけで喜劇をやるようになったんですか?こういう急なのも案外悪くないですね。でも残念です。演技力は図晴らしいですが、肝心の脚本が点でダメですわ。もっと笑えるポイントを作ってくださらない?」


少女は得意げに話している。その場の全員が言葉の意味を理解できていなかった。


「しかし私、この喜劇のオチは読めてしまってるんです。あなた、実は財布もってるでしょ??」


大男の方を指さしそう告げる。すごいドヤ顔をしている。


「あ」


大男がポケットをあさると、そう言った。まさか財布を自分でずっと持ってたのか??馬鹿らしくなってきたな・・・


「ボス・・・ま、まさか持ってたんですか??」


子分がそう聞くと、大男は顔を真っ赤にし始める。まじかよ。


「ふふふ・・・いいリアクションですね。50点差し上げます。」


笑いながら金髪の少女は評価している。すると大男の顔がさらに真っ赤になる。


「ふざけるなあああ!!!俺をバカにしやがって!!!おい子分ども!!俺をバカにした罪で二人ともころせえ!!!!」

「あら。バカになどしていないのに。短気な人だわ。」



ナイフを手に取った4人が一斉に少女はに襲い掛かる。素早い動きで全員の攻撃をかわし、持っていた銃のグリップ部で一人一人の背後に回り込み確実に気絶させていった。


近くの家具は倒れ、飲んでいた途中のガラスコップが落ちて割れた。


目の前でまさに殺し合いが起こっているというのに、美しく戦う少女の姿にひかれている俺がいた。


気づけばそこに立っているのは大男だけになっていた。あの少女は何者なんだ。只者じゃない。


すると大男がもう一つの銃を手に取り、少女へ向ける。


「何者だ。ガキみてえな見た目して、とんだ怪物だなお前は。」

「レディになんて物言いするのかしら?礼儀のなってない人です。紳士になることは笑いへの第一歩ですよ。お分かりですか?」

「怖くねえのか?これが」


大男は近づいて少女の眉間に銃口を突き付ける。


「はい。別に死んでも構いません。もし、あなたが喜劇的に面白くしてくれるなら、ですけどね?」


一ミリも恐怖心を抱いていない・・・。


少女が放つプレッシャーに、俺と大男は一瞬体が強張った。その瞬間を少女は見逃さなかった。


「でも、あなたには荷が重すぎるかもしれませんね。」


そういうと彼女は、額に当てられた銃を片手でつかみ、そのまま握りつぶした。

そして、大男を蹴飛ばした。ドアの方へと転がっていった。


「いってえ!!なんて蹴りしやがる・・・!!」


少女は俺の方へ近づき、持っていた銃を俺に差し出す。


「あなた、何もしていないのに追いかけられていたんでしょう?怒りがたまっていませんか?」


いろいろあって忘れていたが、おれは意味もなく追われ続けていたんだ。思い出すと、怒りがどんどん込みあげてくる。俺は銃を受け取り、一歩前へ。


「俺は・・・演劇の脚本家になりてえんだよ。あなたを笑わせられるおもしろい劇はまだ書けそうにないが、いつか思いっきり笑わせてやるからよ!この喜劇のオチは俺がつける!!」


本当に夢がかなうかわからない。でもこの少女のような強い信念があればなんだってできる気がした。


小さいはずの背中が大きく見えたんだ。俺もいつかこんな風になりたい!!


俺は一度深く深呼吸し、目の前で今立ち上がった大男に向かって走りだす。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


一歩踏みだしたところで近くに転がっていた椅子に足をぶつけ思いっきりこけた。


まずい!・・・いや、このまま突っ込めえええ!!


その勢いのまま大男にダイビングヘッドした。大男のどこかって?股間です。


「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!」


大男はすさまじい悲鳴を上げてそのまま気絶した。


「いてて」


俺はなんとか無事だった。顔を上げると大男は倒れていた。


「や、やったああ!勝ったあああ!!」


そう腕を上げると、後ろで少女が噴き出した


「ぷっ!・・・あーはっはっはっはっは!ちょっと待って!ずるいわよそんなの!あーはっはっはっはっは!」


ん?なんか俺面白いことしたのか?

・・・まあいっか。楽しそうだし。

そのあとも長いこと笑っていた。


その後警察に大男たちの身柄を引き取ってもらい。ひと段落した。家の片付けも終わり静かになった部屋の中で改めて少女にお礼を言った。そろそろ帰らないとだし。


「本当にありがとうございました。俺、近くの大学の学生で、セオといいます。」

「セオ君・・・あなた脚本作家目指してるのよね?」

「はい!いつか必ずあなたを笑わせられる演劇を届けます!」

「なら、私が主人公の喜劇を作ってくれない?」

「え?それってどういう・・・」

「私、なってみたかったの喜劇の主人公!」


目をキラキラ輝かせ、少女は笑う。


「自己紹介がまだだったわね。私の名前はシャーロットよ。」


「そして最後は、あなたの手で私を殺して?」


こうして俺とシャーロットは出会った。


ここから喜劇「シャーロット」は幕を開けるのである。

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