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ゴブリンの子  作者: 汗牡蠣
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はじまり

 ――ハンス暦1517年 ヨルマ国フォレス領カルシロ村フォレス邸


「フィユ、お誕生日おめでとう!」


 母・ソフィの言葉と共にパーティーが始まった。

 この日、フィユは誕生日を迎え16歳になり立派な青年になった。誕生日と言っても正確な誕生日は誰も知らない為フィユがフォレス家に来た日を誕生日としている。

 この世界では16歳から大人として扱われる。そのため、盛大にパーティーが開かれていた。


「ありがとう、皆んな。おかげでここまで成長する事ができたよ。特にサリーずっと僕の世話をしてくれてありがとう」


 サリーとは、フィユをヴィーネから預かった時に腰を抜かしたメイドだ。

フィユは他の人とは異なる見た目の為、幼い頃は人目につく場所は控え屋敷の中や裏庭で過ごす事が日常であった。そんなフィユにずっとついて16年間世話をしてきた。


「そう言ってくださると私も大変嬉しいです」


サリーは泣きながらフィユを抱きしめた。

 フィユは明日、本当の母であるヴィーネを探す旅に出る事にしていた。『必ず迎えにくる』と言っていたと聞かされてずっと待っていた。しかし何年経っても連絡の一つもない。だったら、こっちから会いに行こうとそういう考えだ。


「お兄ちゃん、本当に行っちゃうの?」


 妹のネイベルが涙ながらに問う。

フィユはそんなネイベルの顔を見て、罪悪感でいっぱいになり心臓に槍が四方八方から刺さる様に痛い。

フィユは少々…いや、かなりのシスコンだ。もしネイベルが『将来、お兄ちゃんと結婚する!』などと言えば本気にするだろう。


「ごめんな。でも、絶対にこの家に帰ってくるからそれまでお利口にしているんだぞ?」


 ネイベルは涙を拭い、笑顔になった。


「うん!私、将来はお兄ちゃんと結婚するんだから!お利口さんにしてるから、ちゃんと帰ってきてね!」


 フィユがネイベルを抱き上げる。


「勿論!結婚しような」


 ほらね。

割とガチな目をして言っているのが、怖い…

 後ろから弟のロイがフィユの肩を叩く。


「相変わらずキモいよ兄さん。まぁ今日は最後の晩餐だ、楽しむといいよ」


 ロイはフィユにコップ一杯の水を渡した。


「ありがとう。でも今日ぐらいはジュースが良かったな…」


 そう言いながら一口飲んで、少々渋い顔をした。

だんだんフィユの顔が赤くなってきた。


「なんだこれ…水じゃない」


 ロイは笑い転げた。ロイがフィユに渡したのは酒だった。パックの酒棚から勝手に持ってきていた。


「でも、結構美味しいな」


  フィユはコップ一杯飲み干した。この酒は『日本酒』と言う、この世界で割と最近出回り始めた人気の酒だ。


「フィユも日本酒の良さが分かるか!もう酒を飲める歳になった訳だし父さんと飲もう!」


 ――数時間後……


 一升瓶が数本転がっており、パックは瓶と一緒に寝転がっていた。そこら中にパックがゲロを吐きまわってメイド達が一生懸命それを片している。一方、フィユは顔が真っ赤になっているがまだいけそうな表情だ。

 もう1人顔を真っ赤にしている人がいる。ソフィだ。


「バッカじゃない!?いくらなんでも呑みすぎよ!」


 寝ているパックの顔面をヒールで何度も踏みつける。

それをロイは面白がって写真を撮っている。

フィユもだんだん瞼を閉じてきて、寝てしまった。

 誕生日パーティーは終わった。



 ――翌日 早朝


 朝日が顔を覗かせる頃にフィユは腰に短剣を差し、変装魔法で黒髪で黒い瞳の人間の姿となり出発の準備を済ませ玄関に降りると両親と使用人達が集まっている。ロイとネイベルはまだ起きていないようだ。


「ブィユ、わしゅれもにょはにゃいか?」


 昨日の事で顔がボコボコに腫れているパック。喋りにくそう。


「大丈夫だよ父さん。そんな事より母さんに治して貰いなよ」


「ダメよ。バカみたいに酒を呑んで吐きまわってディームやメイド達に迷惑かけて、罰よ」


 ソフィは腕を組み、そっぽを向いて吐き捨てた。

ディームとはこの屋敷の執事である。先代の領主の時からこの屋敷にいる。


「分かってあげて下さい奥様。男にとって我が子と酒を交わす事がどれほど嬉しい事か。我々は迷惑だなんて思っておりませんよ」


 そう言いながら、ディームはパックに治癒魔法をかけた。少しずつ腫れが引いていく。


「奥様程の治癒は出来ませんがお許しください」


「いや、ありがとう。昨日はごめんな…」


 パックはディームやメイド達に頭を下げた。

突然の事にみんな戸惑っていた。主人に頭を下げられたら誰でもそうなる。


「それじゃ、解決した事だし行くね。ロイとネイベルにもよろしく言っといてよ」


 荷物を背負い、扉を開け、差し込む朝日に迎えられ旅の一歩を踏み出し歩いていく。後ろから見送りの声が聞こえてくるが、それもだんだんと小さくなっていった。


 ここからフィユの冒険が始まる。


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