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本日の来訪者:本居夕陽さん

 もう、昨日はお騒がせだったんだから! 宇治(うじ)先生、しっかりKを踏んづけていたじゃないか。肝の据わったうちのカミさんでも、あんな仕留め方しないよ。撃退セット持って駆けつけたけど、無駄足だった……。後で夏祭(なつまつり)さんのお重もらえて、るんるん気分に上げたけどね。僕も虫やだよ。殺生(せっしょう)したくないの。体型がゴツいからって、恐れるもの無しじゃないんだからね!

 作業早くに終わったから、お昼にしよう。本日は倭文野プレゼンツ、ロコモコ弁当じゃーい♪

「失礼いたしますぅ」

 ああ、本居(もとおり)さん。おつかれちゃんでーす♡ 大和(やまと)さんは?

「忘れ物したゆうて、一旦帰りましたぁ」

 近場だったわよね。すぐ取りに行けるって、便利だわー。

「そうですよねぇ。うち、遠いのでしてもろたら終わりなんですよぉ」

 あーね、他府県はそこがしんどいよね。泰盤(たいばん)市だったかな。

「はい。乗り換え一回なのですが、電車がなかなか来なくて」

 内嶺(ないれい)行き、陣堂(じんどう)行きとか路線いっぱいあって困るでしょう。(そら)(みつ)終点の電車、少ないもんね。

「急行やったら、ラッキーなんですけれどねぇ。休憩スペースお借りしますね」

 どうぞー、ゆっくりしていってね。僕も食べるわ。

「卒業論文の提出期間が近づいていますよねぇ」

 直前になったら、四回生でごった返すわー。下級生の皆には悪いけど、出入り遠慮してもらうね。

「再来年は、うちも詰めていると思います」

 本居さんは、計画的に進めていけるから自宅でできそうじゃない? 初日で出せそう。ゼミの希望は、やっぱり()(ぶち)先生?

「あ……できるなら、入りたいですねぇ」

 僕、文学で書くのかなって予想していたんだけど、本居さんは国語学でも余裕だね。全時代の講義、「(ゆう)」取れていたら、もうなんでもいけるわよ。

「なんでもは、言い過ぎですよぉ」

 えへへ、いただきまーす。本居さん、オムライスだ。ケチャップアート入りじゃない。にわとり?

「当たりです。オムライスには、にわとりかひよこなんですよ。母が描いてくれました」

 絵心あるお母様ね!

()文野(ずの)さんのお弁当、盛り付けきれいですね。ロコモコて、ふたで黄身がぐちゃってなりやすいやないですかぁ」

 そうなのよー! たっぷり詰めたいところをぐっとガマンして、低めに積むのがポイントかな。ラップでガードするやり方もあるけど、それしたら負けというか、ね。

「自分の中でありますよね、ゆずれない部分が」

 実はそうしたら結果良かったりするけど、許せないのよ。むむ、内線! ごめん先食べていてー。

 はーい、倭文野です。…………こんにちは、真淵先生でいらっしゃいましたか。あの資料、昨日が返却期限でした? すみません、今日までだと勘違いしてました。至急、カウンターまで? 三限では厳しいですか? あ、厳しい。分かりました、返しに伺います! …………そう、ですよ。奥で一緒に。あの、先生怒っていらっしゃいますか? 別に何とも……ですか、ごめんなさい!

 図書館行ってきますね。本居さん、適当に冷蔵庫の取っていいからね。先輩方の差し入れにマカロンあったはず。ジュース適当に飲んでいって。余りがちなのよー。おお、急がねば!

「真淵先生がお怒りに……? そんなことあるんやなぁ」

 オムライスを三分の一食べたあたりで、流し横の冷蔵庫に、矢が刺さった。本居夕陽(ゆうひ)は、おそるおそる見に行くと、紙が結ばれていた。自身に宛てられたものだったため、開封した。本文には「以下の文章を読みあげなさい」とあった。


【師走篇の鍵となる言葉その四:(まじな)い】

 お昼ご飯の途中ですが、説明を始めますね。「(まじな)い」とは、奇跡を叶える術です。本朝では、かつてよう行使されていたそうです。勅令、雨乞い、嫌な人との縁を切る、恋の成就は、「呪い」に含まれます。思想が複雑になってきた現代では、行使できる人がえらい減っている傾向にあります。そうなんや、小中学生の頃に流行っていた「おまじない」て、「呪い」の仲間やったんやねぇ。実は、ある研究機関が、若い子に行使できる才能があるかをこっそり調査していたらしいて? うち、実験台にされてたんやろうか。

 安達(あだ)太良(たら)先生は、「詠唱(えいしょう)」の呪いを行使されていましたね。『萬葉集』の歌を詠みはって、白い(ほむら)を起こしました。詠んだ和歌にちなんだ効果を発揮する力のようですよぉ。安達太良先生だけやなくて、日本文学国語学科の先生方も呪いを使えはるんやったら、びっくりやなぁ。昼は講義、夜は呪いでキャンパスにはびこる悪を倒す! て面白そうやんか。

 呪いには、種類があるんやって。道具を介して、散文を介して、韻文を介して、行使するんやね。中でも最も難しくて高レベルの術があるんか。「(はらえ)」ゆうそうです。神様にゆかりのある呪いなんや……。その神様が、アヅサユミさん! 安達太良先生のご先祖様やわ。世間は意外と狭いんやなぁ。

 もしも、うちが行使できるんやったら……。原稿用紙に書いたことがほんまになる奇跡がえぇなあ。ムードを出すとしたら、万年筆やな。『六法全書』で相手に制限させるてのも、かっこよさそうやない? 父からもろうたのがあるんやけど、鏡の前でやってみよかなぁ。お気に入りのリボンも捨てがたいわぁ……。早速ノートに書き込みや!


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