本日の来訪者:夏祭華火さん
卒業しても、土御門先生の手となり足となっている僕って、どうよ? カップ麺補充とお弁当お届け、僕が動けるデブだからこそこなせるのであってですね。なして僕なんだべ? 「王朝文学講読会」の現役生がいるじゃないか。留学生のドナルドくん。あの子の方が、かなり気が利きますよ。日本語堪能で、ネイティブの僕が恥ずかしく思うぐらいの本朝通だもの。箸の持ち方がきれい! ドナルドくん、卒業したら覚悟した方がいいですよ。一度土御門先生の下についたら、最期までお仕えしないとならないということを……。
「よっ、だてまき!」
いらっしゃーい。二〇三教室の鍵かな。
「今日は奥で食べるんだっ。空いてるか?」
うん、いないよ。どうぞごゆっくり、夏祭さん。
「本の紹介貼ってるんだな。書いてるの日文生?」
そうよー。先生も他学科の人も可にしているから、夏祭さんもぜひやってみてね。
「大学生つっても、フツーにライトノベル読んでんのか。新書ばっかだと思ってた」
文学部だからね、たまには本気出して難しいのにチャレンジしたいところだけど。僕、あんまり純文学ふれてないよ。漱石と鴎外まともに読んだためしがないの。同級生に、近現代の小説はほぼおさえたけど『源氏物語』は一巻も目を通したことないって子もいたわ。
「聞風喪胆っ、日本文学勉強してんのに?」
うん、期待を裏切っちゃったね。これが現状なのよ……。お、夏祭さん、おっきい風呂敷じゃない。まさか、重箱?
「おうよっ、受験勉強は体力勝負らしいかんなっ。母ちゃんとおめんとおようが作ってくれたんだ!」
おめんさんと、おようさん。えーと、きょうだい?
「住み込みで働いてくれてる女中だけど」
マジ? 夏祭さんのお家、豪邸なの?
「フツーの家よりちょいとデカいだけだぞ。別に珍しいこたねえだろ」
いえいえ、めちゃ珍しいわよ。……おかず、少し分けてもらってもよろしい? 今日奥さん寝坊したから、白米オンリーなの。
「いーぞっ。あたしひとりじゃ休み終わっちまうからよ。どれでも食べろいっ!」
感謝! 感激! 雨! あられ! 迷うなあ。高級料亭みたいなラインナップだー。とりあえず煮物を…………え、こんな時に内線!? 勘弁してちょんまげー。
はい、倭文野ですー! 宇治先生!? はい、うそ、Kがいる!? スプレーかけましょうよ。できないからSOS出している、と……。はい……了解でーす。
「K? Gじゃねえのかよ?」
夏祭さん、食事中よ! 緊急事態だから、急ぐわ。
「ひろこ、虫ニガテだったのか。天下無敵なカンジなのになっ」
乙女なのよ。それじゃ!
赤いスプレー缶と、ほうき、ちりとりをつかんで事務助手は勇んで扉を開けた。塩こんぶむすびをほおばる夏祭華火の頭上すれすれに、吸盤つきの矢が止まった。お茶を流し込んでから、華火は矢を抜く。「夏祭華火殿」と毛筆書きされた文を見つけ、広げてみた。
【師走篇の鍵となる言葉その三:グレートヒロインズ!】
あんだ、コレを読めってのか? いーぞっ。しっかし、グレープフルーツみてえな名前だなっ。ってか、あたしらのパクりじゃねえかよ。あたし、この大学で「日本文学課外研究部隊」っつーサークル入ってるんだけど、愛称が「スーパーヒロインズ!」なんだよなっ! 顧問のまゆみが考えたんだ。グレートヒロインズ! か、パクってる時点で、睚眥之怨だなっ。
んで、グレートヒロインズ! は、女子五人組だって? あたしらと同じじゃねえかっ! 「博士」と呼ばれている司令官がいる、か。姉ちゃんみてえに、メカ作って戦闘を有利に進めんのか? 博士って何者だろうな、あたし、博士っつーと、頭のてっぺんつるっパゲで、両横に白くてもじゃもじゃした毛あって、メガネ、鼻の下にひげ、を想像しちまうんだ。怪しげな液体が入ったフラスコを持ってよ、「大発見なのじゃ!」とか言ってよ。
こんだけマネしてんだから、変身してバトるんだよなっ? 現在確認できているのは、墨色のセーラー服姿であること。赤、青、緑、黄、桃っぽい襟をそれぞれつけていた、と。対抗意識ありスギだろっ。まさか、あたしらと一対一で勝負すんじゃねえよな? にせ緑のやつの顔を見てみたいもんだっ。
グレートヒロインズ! は、あたしらのライバルっぽいようだっ。いつ鉢合わせすんだろ、あたしはいつでも受けて立つかんなっ! よっしゃ、いっぱい食べて力つけるぞっ。ごぼうの牛肉巻きからいくかっ! だてまきの分、ちょいととってやろうっと。