イワシが降る
また次の日、今日は行くと決心した所に、イメージが浮かんできました。
それは小さな魚、イワシです。
特に危険な物では無く胸を撫で下ろしますが、ある疑問が浮かびます。
(なんでイワシ?。)
普通、魚が降って来るなんてそうそうありません。
命が関わらないようなので、緊張すること無くまだ少し働いていない頭で考えます。
確かにここは海が近いですが、だからといって降るなんて事はないです。
ただ、確か竜巻等が海上で起こると、魚が巻き上げられて落ちてくる場合がある、という事を思い出します。
多分そういう事何だろうと、変な物だけど昨日よりはマシと、憂いも無く朝食を食べに行きました。
朝食を食べ終わると、学校の準備です。
昨日行けなかったので、今日の分と入れ替え、制服に着替えて玄関に向かいます。
「じゃあ行ってきます!。」
大きく挨拶をしてドアを開けます。
今日は昨日の雲が嘘のような、晴れ晴れとした天気でした。
学校への道を歩いていると、すぐに美宵と会いました。
「おはよう。」
「おはよう!。昨日は風邪引いてたみたいだったけど、大丈夫だった?。」
「うん。それより昨日は何かあったりした?。」
「別に初日だし、特に何も。強いて言うなら英語の自己紹介が面倒臭かったくらいかな?。後、係決めをもしたね。」
「そうなんだ〜。」
そう言いながらも、心の内では今日でキチンと馴染めるだろうか。と、不安になります。
そんな事を話しながら歩いているといつの間にか学校に到着していました。
靴箱の場所を探すのに少し手間取りましたが、それ以外は無事に教室へ入れました。
小さく深呼吸をした後、
「おはよう。」
「ああ、おはよう。」
流石にまだ全員、クラスの顔と名前を覚えていないのか。
近くの人に挨拶をすると、自然に応対してくれます。
席はドアのすぐ横です。周りを見渡すと、まだ埋まっていない席がちらほらありました。
十分前に来ていたのでそんなもんですかね。
八時十分、ガラッと扉が開いて若い女の先生がやって来ました。
名前は確か、幸生 恵先生だった筈です。
「出席を取ります。相沢 光輝くん。」
「はい!。」
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「降生 理奈さん。」
「はい。」
出席番号順なので、十一月生まれの私はそこそこ後ろの方でした。
それから、何人かの名前が呼ばれて終わりました。
「今日も、五時間授業で……。」
先生の話はしばらく続き、大体八時半頃に終わりました。
「…ではこれで朝の会を終わります。ああ、あと、理奈さんは少し話があるので、後で来てください。」
突然、自分の名前を呼ばれた事で少しびっくりしましたかが。多分、昨日にあった事の話かと納得します。
「恵先生、何の話ですか?。」
朝の会が終わると、すぐに聞きに行きました。
「昨日、理奈さん休んだでしょう?。昨日はもしかしたら聞いてるかもだけど、係決めをしたの。ただ理奈さんは居なかったので、勝手に決めさせてもらったのよ。」
「はい…。」
それはしょうがありません。
「それで黒板消し係になったけど良い?。他に二人いるから交代制になると思うけど。」
毎授業、仕事があるけど他に人がいるなら大丈夫かな?。
「それで大丈夫です。お手数おかけしました。」
「ええ、これで話は終わりだから戻っていいわよ。」
「はい。」
..........................................
「理奈!、先生と話してたけど大丈夫だった?。」
席に戻ると、すぐに美宵に話かけられました。
「うん。係の話してただけだよ。黒板消し係になったみたい。」
「ああそうだ!、言うの忘れてたけど私も黒板消しだったんだよね。」
「そうなの!、他に一人いるみたいだけど知ってる?。」
「あまり知らない男子だったよ。」
「ふーん。」
そんな話をしていると、チャイムが鳴りました。
美宵は前の席なので、向き直すだけで十分でした。
次の授業は数学の筈です。難しいとは聞いていますが、どんな感じ何でしょう?。
.........................
最後のチャイムの音が響きます。
時計は見ると三時を過ぎていました。
帰りの会も終わり、あとは帰るだけになりました。
「美宵!、一緒に帰ろう。」
「うん、いいよ〜。」
色々と学校であった事を話ながら帰っていると。
突然、頭の上でビタンといった音と衝撃が起きました。
(やられた!。)
彼女はそう思いました。
学校の事に夢中になっていたせいで、すっかりイワシが降ってくる事を忘れていたのです。
ついでに、頭から妙に良い匂いがします。どうやらイワシはイワシでも焼き魚だったみたいです。
おそらく周りにあるマンションから落ちてきたのでしょう。
「うわ〜、なにこれ焼き魚?。頭大丈夫、痛くない?。」
「うん…。平気…。」
「しかし理奈って、昔から不幸一杯って感じだったけど、どうやって降って来きたんだろう?。」
それは私も思います。
「痛っ!。」
悲鳴に反応して振り向くと、美宵の頭に黒い何かが被さっていました。
「ニャ〜。」
どうやらそれは、少し太った黒猫のようです。
私が唖然と立ち尽くしていると、いきなりこっちに跳んで来たではありませんか。
咄嗟に頭を下げると、さっき落ちてきたイワシを咥えて私の頭を踏み台にしてさっさっと、逃げていきました。
とりあえず美宵とはその場で離れて家に帰りました。
頭に焼き魚の匂いが付いてしまったので直ぐにお風呂に入って体を洗います。
シャワーを浴びる中、あの猫とは何故か妙な縁がありそうだと感じました。