第3章「白の地」 第1部〜アルケス〜I
その瞬間地面は消え、僕の身体はバランスを崩した。
必死に何か掴めるものがないか探すが、手は空を切った。
僕の身体はまるで何かに飲み込まれるように、その空間に吸い込まれていった。
落ちているような浮かんでいるような不安定な感覚の中、それはまるで飛ばされているような感覚だった。
天と地が反転するほど激しい動きと、腹部に受ける空気の抵抗から生まれる吐き気と激しい目眩に耐えながら、僕はぎゅっと目をつぶりひたすら耐えていた。
耳に届く風を切る音が、その速さを物語っていた。
やがて僕は風以外にも音がすることに気づいた。
それは楽器のような耳鳴りのような、動物の鳴き声のような不思議な音だった。
音は時々僕の耳すれすれを通り過ぎ、離れ、また近づいてくる。
僕は目を開けようとした。
風の抵抗を受けて瞼は痙攣しながらも少しだけ開く。
真っ暗な空間の中で、いくつもの色の球のような何かが飛び交っていた。
赤、青、緑、白、黒、そして透明、あの四角い扉と同じ色だ。
球はまるで生き物のようにあたりを飛び回っていた。
耳をすませると、球はそれぞれ少しずつ違う音を出していた。
球のあまりの眩しさと、目に受ける風の強さに、僕はもう一度目を閉じた。
やがて球の音がだんだんと大きくなる。
僕は球の音の中に、人の声があることに気づいた。
くぐもった男の声、凛とした女性の声、幼い少女の声、地響きのような声。
他の音と混ざっているためか、何を言っているかは聞き取れない。
ただどの声からも強い感情が感じられた。
悔しさ、苦痛、悲しみ、だろうか。
なんとなく僕はそう感じた。
ぐるぐると回る頭で、僕は声を聞き取ろうと耳をすませていた。
瞬間、聞き覚えのある言葉が僕の耳に届いた。
「シュカ」
僕は名前を呼ばれてハッとする。
目を開けようとするも、先ほどよりも強い風の抵抗でなかなか開けられない。
「シュカ」
もう一度声がする。
返事をしようにも息が整わずうめき声を上げるだけで精一杯だった。
僕は必死に手を伸ばした。
手が何かに触れた。
僕はそれを必死に掴み、身体の引き寄せた。
その瞬間、僕は目覚めた。