二部第34話「変態、キレる大人と口喧嘩、オワタ」
友人A、更科夏輝は、東江さんを捨てた男と向き合った! ででん!
さあ、口バトルしようぜ!
そんな男は、俺を無視して東江さんと話をしようとする。
おい、大人。目を合わせて口バトルしようぜ。
「君と話すことは何もない。俺たちは弓香と……」
「だから、嫌がってんじゃないですか。そもそも、正攻法でうまくいきそうにないからこんな通り魔みたいなやり方やってんでしょ」
言葉に詰まる『お父様』。やっぱりな。
もし、本当にちゃんと親権を主張したいなら、方法だけなら正式な手続きを踏んだ方が早いはずだ。だけど、それをしないのは、後ろ暗いところがあるからだろう。東江さんが冒険者として優秀で育成組に入り将来が安泰であることを知ってやってきたんじゃなかろうか。
「お、俺たちは……困っているんだ。だから、弓香に助けてほしいんだ」
どうせそんなことだろうと思った。
東江さんはわかっていてもショックだろう、悲しそうな表情を浮かべている。そんな親の血を引いてるだなんて。
生まれる親は選べない。
そして、その両親の遺伝子や血は生きてる限り存在し続ける。
「自分たちで頑張るっていう選択肢はないんすかね?」
「もちろん俺たちも頑張る。だけど、弓香が一緒ならもっと頑張……」
「一回、ちゃんと頑張ってるところ見せて、きれいな体になってきてからチャンス貰ったらどうですか?」
「な……なんなんだよ! お前は! さっきから何にも知らない子供のくせに!」
声を荒げる『大人様』。本当に大人か。
確かに俺は子供だ。色んなことが分かってない。色んな事が分かってないからダンジョンに違法に潜ったりして、迷惑もかけた。
だけど、子供だからってなんにもわからないわけじゃない。少なくとも。
今、後ろで泣きそうになっている女の子を見捨てるのはサイテーだってことははっきりわかる!
「あんたは、東江さんの、弓香の、誕生日は知ってるのかよ」
「あ? ああ、誕生日は四か月前の……」
「そっちじゃねえよ。ちゃんと公式情報でも出てる拾われた日、東江弓香の誕生日だよ。おめでとうの一言でもいったかよ」
「そ、それは……だって、本当の誕生日じゃ……」
「東江さんの、弓香の、好きな食べ物は? 嫌いな食べ物は? 趣味は? 好きな音楽は? どんなアクセサリーが欲しがってるとか知りたいと思ったことはあるのかよ」
「はあ!?」
「つながりがあるっていう物理的な証拠だけ並べて偉そうに親名乗ってんじゃねえよ……! こんだけの有名人、調べればいくらでも状況知れるだろうが、もっと子供のことをしってやれよ」
「さっきからべらべらべらべら偉そうに! 大人ってのはな、大変なんだ!」
自称大人が子供みたいにわめき始める。キレる若者ならぬ、キレる大人。
「そう! 大変なんだよ! 大人は生きるのに! だから、子供を育てるってのはな、お前らが考えているよりも大変なんだよ!」
「そうですか。俺は子供なんでその辺はわかりませんが、捨てられた子供が生きるってのがどれだけ大変かってのはなんとなくわかります。それより大変ですか?」
「ああー! うっぜえ! お前は弓香のなんなんだよ! 彼氏気取りか!?」
もう自分の感情がコントロールできないんだろうどんどん荒い口調になっていくおっさんに向かって俺は言う。俺は、
「俺は、彼女の友達です」
「ともだちぃい? 友達如きが口出してんじゃ……」
「あんたたちより彼女の事が大好きで、彼女の事を大切に思ってて、絆を持ってる友達だよ! あんたたちよりよっぽど家族だよ! だから、こいつ泣かせるような困らせるような奴は絶対に許さねえかんな!」
東江さんは本当にすごい。あんなに辛い生い立ちでも腐ることなく一生懸命生き続けた。
努力し続けた。
話していれば、仲良くなれば、いや、少しでも彼女のことを知ればわかる。
彼女の一生懸命さや心の美しさ、あとは、怖いくらいの真っ直ぐさが。
そして、子供だって考えてる感じてる思ってる。色んな事を。
トウカがウチに来て分かった。子供が何もわかってないなんて傲慢だ。自分の思い通りにしたほうがいいなんて幻想だ。
このおっさんがやっていることはただの押し付けであり、支配であり、搾取だ。
俺の友達にそんな親はいらない。
「こ、の……!」
俺の方をきつく睨みつけながら暴力で訴えかけようとしているのか腕を振り上げてくるおっさん。だが、俺とおっさんの間に東江さんが割って入り、
「ゆ、弓香……」
「あなた達よりも、この人のほうが私を救ってくれました。何度も何度も勇気をくれました。今も。この人は、私の……! これ以上付きまとうようであれば警察を頼ります」
「な……! お前! 親不孝だとは思わないのか!?」
「そうよ! それに困っている人を助けようとか思わないの?!」
「困っている? であれば、まず、国を頼って相談してください。子供に頼るべき話ではないと思います」
正論パーンチ。俺が言えば多少勝手な言い分だったかもしれないが東江さんが言った時点でもう完全に反論できない。彼女自身もそれを望んでいるんだから。
なら、もうダメ押しをしておくか。
「今後、東江さんに近づいたらどうなるか知りませんよ。勇者候補、更科夏輝。そして、」
「黒の魔女、更科春菜」
「桃の魔女、更科秋菜」
ずっと状況を見守ってくれた……まあ、っていうか、俺に迫った時にヤバい攻撃をかまそうとしていた二人が俺の傍で名乗ってくれる。いや、マジお前命拾いしたよほんと……。
「な……お前、変態勇者かよ……!」
「まあ、というわけで、大人であったとしても、力づくでは絶対に無理だという事を理解されたら、お帰りください」
はい、口バトル俺達の勝ちー! まあ、最終的には脅しバトルだったけど。
二人は恨めしそうにこっちを見ながらも去っていく。
ああー、ほんと疲れた……。
「すみません、あいつらは、私がお父さんお母さんの元を離れたのをチャンスだと思って近づいてくるんです。私を捨てた癖に、話題になって、自分たちの子だと主張し始めて……本当に恥ずかしい……」
東江さんは強く唇をかみしめうつむく。
東江さんが望むのであれば、心を、意識を【変態】させることも俺なら出来る。
だけど、
「東江さん、本当に辛かったら、記憶を薄れさせることくらいなら俺なら出来るとは思う。だけど、記憶は連なりだから、どこにどんな影響を与えるかわからない。だから、辛い思い出かもしれないけど、そのつらい思い出の分、俺たちと一緒に楽しい思い出を作ろう。もし、俺に出来ることがあれば相談して、力になるから」
俺に出来るのはこれくらいだ。
血も遺伝子も過去も避けては通れない。俺も固有スキルも。
だったらこれからどう向き合って、うまく付き合っていくかを考えていくしかないんだと思う。
俺がそう言うと、東江さんはきょとんと俺の顔を見つめ、少しずつ顔を赤くし始め、震えだす。
「ででででででであれば、あの、出来れば。『弓香は私の配下の中でも素晴らしい存在だ』と言っていただけませんか?」
これである。
なぜこうなった?
でも、こうなったのも、ある意味運命なのかもしれない。
親に頼ることをやめようとした俺と、最初の親に裏切られた東江さん。
違うところはあれど、共感できる部分もあったのではないだろうか。
俺は、東江さんの肩に手を置き、精いっぱいの気持ちを込めて告げる。
「弓香は、私の配下の中でも素晴らしい存在だ」
応えてあげるのが、正解なんだろう。
「は、はわわわ……いいいいいくらでもご命令ください。クレイジークラウン様……」
東江さんが鼻血を流しながら倒れた。
……うん、やっぱ間違いだったかもしんない。
くそ真面目配下系友達、東江弓香の情けない姿、いや、かわいらしい姿に俺は笑った。
そして、彼女の力にもなろうと心に決めたのだった。
そして、背後にいる姉妹よ、言って欲しい台詞の準備をするんじゃない。
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