二部第33話 変態、おとーさまとご対面、オワタ
それはくれくらくらぶ、『狂気の仮面道化様との夏の祝宴』という狂気の宴の帰り道でのことだった。
全然問題ないんだが、東江さんと上田さんと鈴木君が送ってくれることになった。
鈴木君はBチームに所属している縁の下の力持ちって感じの子だ。ちなみに、刀剣マニアで、刀の反りではあはあ興奮できる筋金入りの変態だ。やっぱり変態じゃねえか。
んで。帰りに一度断ったのだが、上田さんから、
『今日の誕生日祝いだと思ってあの子に送らせてあげて』
と言われたのだ。
どうやら、東江さんが送りたかったらしい。
そして、帰り道。
俺は東江さんと雑談をしながら帰っていた。
「夏輝様! 今日の宴に何か至らぬ点はありませんでしたか?」
「ないない。ないですよ。楽しかった。東江さんは心配性だね」
「ああー、家族にもあかりにもよう言われます。弓香は心配性だと」
「ダンジョンでは凄い凛々しいのに」
これは嘘ではない。勿論、普段も凛々しい一面もあるがダンジョン攻略時は本当にキリっとして凛々しい。
「そう、ですね、やっぱりなんかダンジョン暮らしがあったせいかダンジョンってちょっと落ち着くというか……」
「へえ~そういうもんなの?」
「そうですね。なんかダンジョンの方が力みなぎってくる感じがあるんです。魔力元素、魔素のせいかもしれませんが……」
ダンジョンに捨てられ奇跡的に生きていた東江さんだからこその感覚だろうな。神戸先輩が聞いたら身を乗り出して根掘り葉掘り聞いてきそうだ。
それにしても、今日の東江さんはよくしゃべる。特にダンジョンでの事なんて普段本当に話さないのに。
「ダンジョンの頃のことは覚えてないんですけどね。うっすらと覚えているのが、だたっ広い氷に包まれた洞窟くらいで、あとは、本当に……そう、歌。歌くらいですね」
「歌?」
「いえ、あの、歌っぽいものです。なんか覚えているんですよね。謎のメロディーを」
そう言って東江さんは鼻歌を歌いだす。
その音楽はなんだかあったかくて、それでいて、せつなくて……確かに聞いたことのないメロディーだった。それに、なんだろうか、少し体が熱くなってきている気がする。
その時だった。
「弓香!」
俺たちの目の前に現れた男女の二人組。30代前半くらいだろうか。レイよりは年上、父さんたちよりは若く見える。
「弓香! なあ、パパたちのところに戻ってきてくれよ。もう一度チャンスをくれ」
はい、回想終わり。
そして、眉間にしわを作り困り顔で東江さんに迫る男。これが東江さんを捨てたパパさんらしい。そして、ママさん。
東江さんの方を見ると、歌うのをやめ、とんでもなく冷たい目で二人を見据えている。
「……こんな楽しい日に二回も。もう会いたくないし来ないでほしいって言いましたよね」
その光景を見ていると、上田さんが俺の服を小さく引っ張り耳元でささやく。
「あれがさっき言った今日もわざわざ来た弓香捨てた両親です」
そう、上田さんから話は聞いていた。一度、東江さんと上田さんが席を外したのは、あの二人がエントランスにやってきたから追い払うためだったらしい。
テレビでも放映された東江さんの話を見て、自分たちの事だと思い当たってやってきて、色々な証拠や情報で実の親であることは間違いないとのこと。
やり直そうと迫ってくることは何度もあり、氷室さんにも相談しているらしいのだが最近は特にひどいらしく引っ越しも考えてるらしい。
一方的な話ではあるが聞いたところによると、もう一度東江さんを迎え入れて三人で頑張ってやっていきたいとか。
ただ、東江さんは当然そのことを望んではいない。
「だ、だ、だけど! 話くらいちゃんと聞いてくれてもいいじゃないか!?」
「そうよ! だって、あたしたちは」
「実の親、とでも言いたいんですか? 私をダンジョンに捨てた癖に」
そう、彼らは東江さんを捨てた。
彼女にとってその事実がすべてだ。彼らの言い分を聞いた上田さん曰く、『十中八九、単純に子供を育てる余裕がなくて捨てたようだ』という話。
なのに、こうやって迫ってくるとは面の皮、鋼かよ。
「な、なんだ! その言いぐさは、親に向かってそんな言葉は!」
「何度も言っています。私の親はあなた達ではありません」
「DNA鑑定すれば……」
「仮にDNAが一致して、血のつながりがあって、あなたの身体から生まれていたという事実があったとしても、『家族』ではありません。私を一生懸命育ててくれて、家族を教えてくれたのはあなた達じゃないんです!」
最後は悲鳴のように叫ぶ東江さん。そりゃそうだ。
彼女だって高校生だ。まだ、若いんだぞ。なのに、倍近い年の大人が二人がかりで彼らの理屈を押し付けてくるなんて本当に大人かよ、家族かよ、両親かよって話だ。
俺は……東江さんの隣に並ぶ。
「な、なんだ、君は……」
「あ、東江さんのお友達でーす」
いぶかしげに聞いてくる『お父様』に、丁寧なごあいさつをさせていただく。
いやあん、お父様にご挨拶だなんてきんちょうするわー。
いや、お父様じゃねえか。
おっさん対友人A更科夏輝。ほいじゃあ、やりあいましょうか。
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