二部第31話『変態、黒歴史ポエム強制解放、オワタ』
ご神体。
東江さんがそう呼ぶ等身大狂気の仮面道化像が目の前にあります!
とにかく、狂気の仮面道化まみれだったこの部屋だが、驚異の進化を遂げている。
もっとクレイジークラウンまみれに。
天井に貼られた狂気の仮面道化のポスターは、壁に足を貼り付け落ちていこうとする瞬間で、今にも飛び出してきそうで怖い。とは本人、狂気の仮面道化の中の人こと、更科夏輝の談。
「今にも私のところに飛んできそうな感じがいっつもどきどきして幸せなんです。そして、飛んできて今日の不甲斐ないアレはなんだとか言って踏まれるんです」
東江さんの従属レベルが上がってて怖いんだが?
っていうかそれだけじゃない。マジで部屋のいたるところがパワーアップしている。
窓辺には間違いなく自作の狂気の仮面道化のアクスタがずらりと並んでいる。
そして、見た事のない語録カレンダーがある。
「ああ、アレは我々くれくらくらぶでお金を出し合って作っているグッズですね」
げぼろっしゃああ。
俺が普通の娯楽品を買っているのにこの子達はこんなの作ってた。
「あ、ちなみに狂気の仮面道化様のイメージソングもありますよ」
げぼろっしゃああああああああああああああああああああああああああああ!
この子達、CD作ってるんですけど! しかもめっちゃかっこいいジャケット!
「歌詞は狂気の仮面道化様が昔、読んでたポエムを元に作りました」
げぼろっしゃああああああああああああああああああああああああああああ!
げぼろっしゃああああああああああああああああああああああああああああ!
げぼろっしゃああああああああああああああああああああああああああああ!
やめてやめてやめて! マジでどこまで俺の黒歴史を掘り返せばいいの!
くれくらくらぶぅうう!
「作詞は、みんなで。作曲は鈩です」
神の子ぉおおおお!
そういや、フェスも行ってたし音楽に明るいのね!
「一枚目のプレス盤は神棚に飾ってあります」
にこにこ笑顔で言う東江さん。
そうここには神棚があって、なんでCDがおかれてるんだろうと思ったらそういうことかい!
そして、神棚には他にも俺があげたものが鎮座している。
しかも、大したものはない。一番良くて〇ョコボールの銀のエンゼ〇だ。あと、ガチャでいらなかったのでほしそうだった東江さんにあげた100円の人形。
なので、申し訳なさがいっぱいすぎる。
俺はそんなあふれ出る気持ちを抑えながら、持ってきた袋に手を入れ、アクセサリーを取り出す。
「紅の仮面道化様」
「いや、いい加減、名前呼んでもらいたいんじゃが」
「で、では、失礼して、夏輝様、これはいったい?」
「えーと、プレゼント」
「プレゼント? どなたに?」
「えーと、あなたに」
「あなたんに? 誰ですか!? あなたんなんて洗礼名を頂いたものは!」
いや、そもそも洗礼名なんて与えてねえんだわ。
首をかしげる東江さんに真っ直ぐ差し出す。
「東江さんへのプレゼントだよ」
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
あれ? 東江さん動かないんじゃが?
「ぎゃふううううううううううううう!」
東江さんが、ふっとんだ。
だが、流石の育成組トップ、ばねをいかしすぐに戻り流れるように傅く。
「こ、こ、これをウチにいただけるんですか!?」
「誕生日って聞いたから」
「……ほ、ほんと、ですかあ?」
いや、マジで大したものではない。
上田さんから頼まれて、その上で好みを聞いて、用意したただのアクセサリーなので、ほとんど上田さんの功績なんだわ。
「ほあああああ……パワーを感じます」
やめてもろて。なんかうさんくさい宗教みたいだから。いや、胡散臭い宗教みたいになってるんだけど、なってるから止めたいのだ。
だけど、こんなに感動した顔で、潤んだ瞳で喜ばれたら……。
「パワーコメトイタカラネ」
「きゃああああああ! うれしいいいいいい!」
乗るしかないじゃないか。
なんでこうなったのか。
決まってる俺の悪乗りがよくなかったんだ。
そして、俺の悪ノリにハマってしまう世代がいたからだ。
中学生なんて。反抗期思春期真っ只中。
そんな中で大人に弓を引き自由に暴れる狂気の仮面道化は痛快でヒーローに見えたのだろう。
誰かを傷つけたりや破壊行為を行ったことはない。自衛以外で。
ただ、ダンジョンに潜って勝手に戦い、動画を撮っていただけだ。
それでも、違法は違法だ。
中学生の頃とはいえ、本当にやらかした。
よい子のみんなはマネしないでねという気持ちでいっぱいだ。
だけど、それがきっと東江さん達の心には刺さったんだろう。
それに人命救助や冒険者の助太刀もしていたからなおそう見えるんだろうな。違法だけど。
守るべきルールがある。それを理解した俺は狂気の仮面道化をやめた。
人知れずやめることができたと思っていたけれど、たぶん色んな大人の力が働いていたんだろうなあと今となっては思う。
それに、大衆の力も。
「な、夏輝様! 皿が空いていますが何か取ってきましょうか?」
東江さんがキラキラした目で俺を見てくる。
「い、いや、誕生日なんだし」
「誕生日だからです! お祝いだと思って、私にお命じください!」
お祝いとは?
「え、えーと、じゃあ……東江さんのうどんを」
「やだああああああああ」
やだああなのおお?
「うれしいいいいいい!」
うれしいなのおおお?
半泣きになりながら東江さんが手打ちうどんを取りに行ってくれた。
お読みくださりありがとうございます。
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