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二部第30話『変態、夏の祝祭に呼ばれ黒歴史再び、オワタ』

『うえりえるしあらさし』

『ねしるねしるねしね』


意味の分からない言葉を吐きながら、ふわりと浮かんだ半透明のモンスターたちが襲い掛かる。

相手は紅の鎧を身に着けた男。

男は、構え拳を鋭く突きさすが、半透明のモンスター達、通称【浮霊】と呼ばれるモンスターは綿毛のように突き出した拳の風によって流れ躱されてしまう。

浮霊は、おかしそうにけたけたと笑っている。

と、そこで、紅の男が振り返り、喋りだす。といっても、顔は仮面に覆われているので口の動きは見えない。


『お分かりいただけただろうか……? 浮霊には……物理攻撃が通じないということを……!』


ドヤアという感じの声でたっぷり溜めて言い放つ紅の男に、浮霊達は急に腹を立て始め、青白く光る炎を纏い飛び掛かってくる。それでも、紅の男は、カメラに向かって話し続ける。


『おわかりいただけただろうか……? ヤツらが怒っている、ということを……!』


なおも止まらぬドヤ声。浮霊の攻撃を躱しながら紅の男はカメラから視線は外さず話し続ける。


『そして、おわかりいただけただろうか……? もうすでにヤツらは、私の術中に嵌まっているということを!』


三度目のドヤ声。それを合図に紅の男の身体中に現れた穴から水が噴き出る。その水を浴びた浮霊達は、まるで硫酸をあびたかのようにじゅうじゅうと解け始め空中でのたうち回る。


『はっはっは! きいたようだね! ということで、この水は海水。実は! 浮霊は海水が苦手だということが判明したのだ! この為に色々実験してみた、くれくら浮霊撃退チャレンジ弱点見つけるまで帰れませんっていう動画もあるので概要欄をチェックしてくれよな! じゃあ、フィナーレと行くとするかあ!』


そう言って紅の男、狂気の仮面道化(クレイジークラウン)は、カメラを置き、暴れる浮霊達の元へ跳んでいく。そして、手のひらから海水を吹き出しながら回転し、浮霊達に浴びせていく。

その際にカメラにも水がかかりほとんど映像は見えていないが、紅の仮面道化は気づく様子もなく、


『あっはっはっはっは! 駆逐だ! すべて駆逐してやろう!』


楽しそうに笑いながら浮雲に海水を浴びせ消していく狂気の仮面道化。

そして、すべてが終わるとカメラに近づき、


『あ』


と間抜けな声を出す。ほんと間抜け。

だが、何事もなかったかのように、水をふき取りカメラに顔を向ける。


『ということで、いいかい、冒険者諸君。浮霊はこうやって倒すんだ。参考にしてみてれくよな。人は誰しも仮面を被って生きている。私はその代弁者だ! ということで、狂気の仮面道化でした。バイ』


そこで、映像は終わっていた……。


ひ、


ひ、


ひぃいいいいいいいいいいいいいいいい!


怖すぎるヤバすぎる痛すぎるぅうううううううううう!

俺、更科夏輝は、超絶黒歴史戦士、狂気の仮面道化(クレイジークラウン)の過去動画を見て悶えていた。


現在更科夏輝は狂気の仮面道化ファンクラブ、くれくらくらぶの夏の祝祭にお邪魔している。なんだよ、夏の祝祭って。ミッ○サマー?

今回、みんなで見ているのは、【千花井戸】と呼ばれるダンジョンの攻略動画だ。

【千花井戸】はその地元では有名な心霊話を元につけられたダンジョン名なんだけど、入り口はマンホールで、これでもかってほどのゴースト系のモンスターが登場する。【変態】に目覚め、動画を始めた頃の最初の夏休みに、父さんの実家の方まで一人旅をするという事があった。父さんたちの仕事の関係で、父さんたちは3日遅れで出発することになっていたのだが、俺は『やってみたい』と言い出し、先に一人で行くことにしたのだ。

冬輝は羨ましがっていたけど友達との約束があって父さんたちと一緒に行くことになった。姉さんは学校の用事、秋菜はついてきたがっていたけど流石に危ないという事で、俺は一人旅で父さんの実家に向かった。

目的は、もちろんただの一人旅ではない。

狂気の仮面道化の動画の為にダンジョンに潜るためだ。


当時の冒険者動画の流行で、『モンスターの弱点を探すまで帰れません』というジャンルが流行った。


俺もそれをやってみたくて、まだ攻略法が見つけられていない【浮霊】のいる【千花井戸】に潜った。勿論、違法潜入だったのでほんとに当時はやばいことをしてた。反省はしてる。

当時はまだ紅の蜥蜴飛蝗クリムゾンリザードホッパーを覚えていなかったので、最強形態ではなかったのだが、それでもそれなりの強さだったため、浮霊は相手にならず、全然苦戦もせず実験に専念できた。その結果、色々試し、海水が弱点という事が分かった。

色んな攻撃を試していたが、まさか海水がと思っていなかったのだろう。この時ばかりは中学生の自由研究レベルの発想が功を奏し、見事弱点発見。

そして、意外とゴースト系に苦戦する冒険者が多かった為、この動画はかなりバズった。

とはいえ、もっと編集とかうまい配信者が改めて分かりやすく面白い動画で広めていたので一瞬で消えたけど。あの時はマジで腹が立った。パクってんじゃねーよ、と。

だけど、その後、狂気の仮面道化を引退して本当に感謝してた。あの動画を広めないでくれてありがとう、と。思っていたのに……!


なんで、あるのよおおおおお!


この動画はかなり初期のもので、一回削除してムキになってアップし直したらその有名配信者のパクりって言われたので、心折れて消したので忘れ去られたものだと思っていたけど、恐るべしくれくらくらぶ!

みんなの顔を見るとマジでギンギンにキマった目で画面を食い入るようにみている。ヤバすぎる! 見せられないよ!


「ふ、震えるうううう!」


俺がな! 俺が震えているよ! 昔の俺サムすぎるだろ!


「やばい、泣けてきた」


俺がね! 何この羞恥プレイマジでやめてほしいんだが。


いや、こんな怖い動画見てないで心霊系の動画とか見ようよ。マジで。


興奮冷めやらぬくれくらくらぶ、紅の仮面道化狂信者共の群れから離れ、俺は料理の乗ったテーブルへと避難する。

テーブルにはおいしそうなお料理がいっぱい。ねえ、みんな食べようよー。


もし死んだら俺の守護霊、背後霊として復活しそうなレベルで狂信的だよね!

ちなみに、心霊系は俺は全然平気だ。

お化けよりも人間が怖いからな! 変態どものほうが!

例えば、今俺の右隣にいる妖怪モノトリー。黒髪ロングで美しい女だが、俺の皿や箸やをすぐに交換していく。あと、紙ナプキンで拭きすぎ。正直もう皮膚までもっていかれるんじゃないかというレベルだ。姉です。

そして、左隣にいるのが妖怪シャシントリーだ。ツートーンツインテールでまるでフランス人形のようなかわいさだが、ずうっとじいっと俺の写真を無言で撮り続けている。いや、はあはあはしているこわいよう。妹です。


だけど。

最近秋菜は元気を取り戻し、こういった場にも参加するようになった。

それが何よりうれしい。

俺が秋菜の方を見ると、秋菜は固まってしまう。


「あ、あ、ああ、兄さん……」

「ん?」


俺が出来るだけ穏やかに微笑み首をかしげると


「ぎゃふううううううううううううう!」


妹が吹っ飛んだ。お、俺は何もしてねえよ! 勝手にふっとんだんだよ!

いや、マジで。

そんなことを考えていると慣れた様子で姉さんが、


「大丈夫よ。夏輝の笑顔で吹っ飛んだだけ。私に任せて」


だけって安心できないんじゃが?

だけど、まあ、姉さんは変態を除けばハイスペックだし任せておけばいいだろう。


「ありがと、姉さん」

「ぎゃふううううううううううううう!」


姉さんも吹っ飛んだ。もう気にしないようにしよう。

さて、まともな人間なんているはずないので出来るだけまともな人間を探す。

と、そこにさっきまで宅配便か何かの対応をしていたらしい東江さんと上田さんがやってくる。手には何も持ってないけどなんだったんだろうか。


「東江さん」

「は!」


流れるように傅くじゃあん……。

なので、俺も同じように膝をつき聞いてみる。


「さっきの宅配便とかじゃなかったの?」

「ああ、大丈夫です。なんか怪しげな勧誘だったんで断りました。それより! 狂気の仮面道化様! これ、いかがですか!?」

「ぎゃふううううううううううううう!」


そういう東江さんの手が指し示す方向のブツを見て俺は吹っ飛ぶ。

そう、今回一番気になっていたものがある。

赤いゴツい外殻を身に守った仮面の戦士。


「えへへ、作ってもらっちゃいました」


狂気の仮面道化(等身大)がそこにいた。

東江さんの部屋のど真ん中に等身大狂気の仮面道化(クレイジークラウン)が設置されている。


「ご神体です!」


ご神体らしい。

もう死んでもいいか?

死んで神に俺はなる!

お読みくださりありがとうございます。


ハイファンタジー短編を書きました! こちらも是非……!

英雄たちのアシナガおじさんが冴えない私なので言い出せない

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また、作者お気に入り登録も是非!

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