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二部第27話 変態、鋼の勇者トレーニング、オワタ

「はあ……」

「おいおいおい、ため息デカいな。おっさんかよ」


【鋼の勇者】である三井さんが、鋼の拳で連打を放ちながら笑って聞いてくる。


「三井さんって、子供いませんよね……じゃあ、分かんないですよ」


俺は、そう言いながら、連打を躱し続ける。


「あー! てめえ! そういう口を師匠に聞くのか! そんなヤツにはこうだ!」


三井さんは、鋼化による重心移動を巧みに使いながら、蹴りも織り交ぜ立体的に攻撃し始める。


「師匠は師匠でも、そっちでは師匠じゃないでしょ! 大体、遊園地に連れて行ってくれなかったってキレたデカい子供じゃねえか!」


俺は、風鬼の風でうまくいなしながら三井さんの攻撃を躱し続けた。

そう、俺が遊園地の話したら、オレも行きたかったとキレた。


「おおーい、キミたち~! そういうトレーニングなのは分かるけど、もう少し周りに聞こえてもいいような内容にしようか~」


小泉さんが笑顔の圧力をかましながらこっちを見ている。


「「は~い、すみませ~ん」」


そう言いながら俺達は戦闘を続ける。

今日は、三井さん、もとい、師匠との訓練日だ。

今は、またダンジョンが沈静化してるみたいで、三日間ダンジョンアタックは休みにしているらしく、珍しく一日休みを挟んでだが二連続のトレーニングとなった。だから、どっちにしろあの日は休みじゃなかったのに遊園地行きたかったとキレた。ほんとこどもよねー、男子って。


「なんか腹立つこと考えてるだろ!」

「ほんとこどもよねー、師匠って」

「こんにゃろ!」


今、やっているのは、敵の攻撃を躱しながら息を整え、会話をするという並行思考&回復トレーニングだ。

高ランクのダンジョン内では、いくつもの行動を同時に求められる場合がある。その時に対応できるよう身体と頭を慣らすトレーニング。スピードラーニングの戦闘版? いや、違うか。とにかく平時戦闘モードでも色んな事が出来るようになっておく為のトレーニングだ。

さっきまではガチ戦闘で、ボッコボコにされた。

最近、師匠は俺の【変態】スキルを見て、手足の指を鋼化させてスパイクのようにして地面に刺し急停止や回転技を使うというのを身につけ、さらに強くなってしまった。


『お前の技はトリッキーだから面白くてやりたくなる』


それで応用できるんだから勇者ってのはほんとにすごい。

午前中のトレーニングメニューを終え、昼休憩。


「で? 子育てに苦労してんのか?」


三井さんが遠慮なく聞いてくる。三井さんと小泉さんには状況の説明はしてあるので、話は早いし、それに何よりこの二人の好奇心が凄い。


「そう、ですね……今も俺の中でいじけてます」


あの日、泣きつかれたトウカは、寝ぼけたような状態で俺の中に還っていった。

それでよかった。

多分、意識があれば俺の中に入ることも拒否しただろうから。

俺も何も出来ないまま、ただ、ゆっくりとトウカが入っていくところを見ることしか出来なかった。

今日で三日目だけど、明日出て来てくれるのかどうか分からない……。

なんとなくだけど、腹が重い。

トウカがぐずっている気がするのだ。


「そっかあ……大変だねえ。子育てはトレーニングするっていうのも難しいもんね。まあ、そういうトレーニングの教室ってあるにはあるけど」

「え? 小泉さん行ってるんですか?」

「は!? いや、ないない! でも、なんかさ、ちょっとはそういうのって気になるから、ついね」


三井さんと小泉さんはいつ結婚するんだろうか。

二人が恋人同士なのは誰もが知っているのだが、確かこの二人もう7,8年の付き合いなんじゃ……。俺がちらっとそういう事を聞くと、小泉さんは困ったように笑い、


「まあ……この人も勇者なんかやってるしね。そんな余裕ないよー」


言いたいことは分かる。でも、それでいいんだろうか。


「ま。色んな形があるんだよ。それよりさ、確かに俺はお前の子育ての師匠にはなれないけど、そっちは俺よりもぴったりな師匠がいるだろ?」


三井さんはそう言いながら、小泉さんからサンドイッチを受け取る。このサンドイッチうめえ。素晴らしいよ、小泉さん。なんで俺の周りにはダークマター製造機と、家庭的料理の作れる破壊願望マシマシ幼馴染というアンバランスな女子しかいないのか。


「小泉さん、師匠と呼んでいいですか?」

「いや、だから、あたしはそういうのじゃなくて!」

「でも、俺の周りのまともな人間なんて小泉さんくらいしか」

「おい、さり気にオレをディスってくんな。それに、コイツだって……」

「お? 今、何言おうとしてる?」


小泉さんから何かオーラが漏れ出し、三井さんが動きを止める。

な、なにが起きているんだ? 勇者が勇気を失っているんだが。


「まままままままあ、とにかく。聞いてみろよ。お前を育ててくれた師匠によ」


三井さんはそう言いながら立ち上がり、笑った。

逃げたな。

けど、そうか……聞くだけ、聞いてみるか。


翌日。


「なななななななななつきが、父さんに聞きたいことがあるって!? なななななななんだなんだ!? 今まで出会った一番きもちよか……攻撃力の高かった魔物の話か? それとも、強烈な罠の……それとも、もぐ、ぎゃひー! 母さんのこの真っ赤な父さん専用の檄激辛辛そうめんつゆサイコー!」


流しそうめんを我が家で楽しむどM変態パピーに、話を聞くことにした。一応。


お読みくださりありがとうございます。


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英雄たちのアシナガおじさんが冴えない私なので言い出せない

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