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二部第26話 変態、娘大号泣イン遊園地、オワタ

「わー、たかーい! ぱぱー!」

「ああ、そうだな……」


 遊園地を堪能した俺達は最後に定番の観覧車に乗っていた。

 日が沈みゆく美しい光景を眺める俺たちだが……何故か片方に全員座っている。


 トウカは、観覧車に乗りたいと言いながら、途中で怖がって俺に抱きついてきたので膝の上で俺の腕という安全バーに挟まれている。

 そうすると怖くないらしく、外を眺めてきゃっきゃと騒いでいる。

 問題は氷室姉妹である。


 俺の両サイドにいる。

 観覧車の片側に三人withトウカだ。


 いや、おかしくね?


 目の前の席完全に空いてるんだけど。

 え? 誰かお化け屋敷から連れて来ちゃった?


 とはいえ、今日は本当にお世話になった。トウカの為に色々してくれた。

 そういう意味ではなんもいえねえ!

 俺はただひたすらにトウカの楽しそうな姿に視線を集中させる。

 両サイドに視線を送れば、確実に見える。何とは言わないが、確実に見える。

 見せてる何かが見える。あと、胸が当たっている。ちょっとしかない


「ぴ」


 視線で射貫かれる。こわ。

 まあ、普通にトウカがいるから直接攻撃を避けてくれたんだろうけど、それでも、怖すぎなんだが。


「ぱぱー?」


 トウカが俺の様子に不思議に思ったのか。首を傾げてこちらを見てくる。


「ん? どした? トウカ」

「……ん」


 トウカが両手を広げてこっちを見てくる。かわいい。

 俺はトウカの気持ちを察し抱きしめてあげる。ふにっとやわらかいこどもの身体。

 魔力体だからといってなんら変わらないこどもの、いや、子供を抱きしめた事なんてないからわからんが。

 いや、あるか。

 小さい頃はよく秋菜を抱きしめていた。

 小さくて弱くて不安になる子供の身体。秋菜も、トウカも、悲しませたくない。


 トウカがぎゅっともみじのような手で俺の背中を掴む。


「トウカ、たのしかったか?」


 レイがそんなことを聞いてくるとトウカの顔が俺の横でぐるんと動きくすぐったい。


「たのしかった! ありがと、レイ!」

「ぐは!」


 レイがトウカのかわいさにやられた。わかる。


「きゃははははは!」


 トウカが笑っている。こどもって大人のやられたフリに笑うよなあ。

 まあ、実際やられているんだけど。


「トウカちゃん、ぎゅうー」

「ぎゅー」

「ふわああああ!」


 ジュリちゃんが俺の背中に回っていたトウカの手を軽く握るとトウカはジュリちゃんの指をぎゅっと握りしめる。それだけでジュリちゃんはトウカのかわいさにやられ倒れ込む。

 え? ウチの子すごすぎじゃない?


「んふー。ぱぱ、ぎゅー」

「ぐは!」


 トウカが俺をぎゅーしてくる。かわいすぎるんだが?

 俺は、そっと抱きしめ返す。あたたかくてやわらかいトウカを。

 もう景色なんて関係ねえ! トウカがいればどこでも絶景だ!


 そう、トウカがいれば。


 観覧車を降りる。俺と手を繋いだトウカはご機嫌だった。

 日はすっかり沈み、夜になった。遊園地はライトアップされキラキラ輝いている。

 トウカはそれを見ながら目をキラキラさせ、俺の手をぐいぐい引っ張ってくる。

 本当に楽しかったんだろうな。


「よし、トウカ、帰ろう」


 俺がそう言うと、トウカは、さっきまでのキラキラした瞳を曇らせ、


「………………や!」


 顔を思い切り顰めて蹲った。

 まあ、まだ遊びたいという気持ちは分かる。でも。


「……トウカ、でも、もう帰らないと」

「やー!」


 蹲って頭をぶんぶん振って拒否を示すトウカ。

 俺が脇に手を差し込んで起こそうとすると嫌がって逃げて、また蹲る。

 トウカが聞いてくれない。


「トウカ」

「やー!」


 トウカに分かって欲しいんだけど、どうすればいいんだろうか。

 帰らなきゃいけないんだ。

 遊園地はもうしまっちゃうし、氷室さん達をずっと拘束するわけにはいかないし、秋菜も心配だし、明日も訓練があるし、それに、トウカだって狙われている可能性がある。


 だけど、トウカに説明しても分からないだろう。


「トウ「やー!」」


 聞く耳持たず嫌がるトウカ。

 なんで。

 なんで分かってもらえないんだろう。

 トウカは俺の中でいつも眠っていて、なんとなくだけど俺の気持ちとか考えがうつっているって神辺先輩が……。

 でも、分かってくれない。

 分かってもらいたいけど何を言ってもトウカは否定して。

 聞いてほしい。

 俺の言葉を。

 頼むから。

 トウカ。

 トウカ。


「トウカ!」

「……!」


 俺が大声を出した瞬間、トウカはバッと顔をあげ、こちらを驚いた表情で見て。


「う、あ、あ、ぁああああああ~! あああああああああああ~! あああああああ~!」


 泣き出した。

 泣かせてしまった。

 泣かせるつもりはなかった。

 だけど、泣かせた。

 俺が、大声を出したから?

 どうしたら?

 どうしたら、よかった。

 俺が、悪い?

 でも、トウカが聞いてくれなかったから。


「ナツ」


 レイの声で我に返る。そうだ、考えてる場合じゃない。

 こんな所で泣き叫んでいたら、他の人にも迷惑だし。

 トウカだって。


「ナツ、落ち着け。トウカは私が連れていこう。……トウカ、お姉ちゃんと一緒に帰ろう」

「うわあああああ……あ! あ! あああああああ……」


 トウカは、レイには泣きながらも抱きついて大人しくしていた。

 俺には、出来なかった。


「あああああ……ああああああ……」


 トウカが泣いている。

 泣かせるつもりなんてなかったのに。


「あああああああ……あ、ひっく……ひっく……ああああああああ~」


 俺は、どうすればよかったんだろうか。

 ジュリちゃんが心配そうに俺を見てくれているが、今は良い。

 今は一人になりたい。

 反省したい。


 俺は笑って手を振ってレイと一緒にいるよう促す。


 ダンジョン庁の見守り隊も見ていたんだろうか。


 情けねえ。


 レイが抱えたトウカが遠くに見える。


 すっかり暗くなった遊園地のBGMがやけに悲しく聞こえた。


お読みくださりありがとうございます。

また、評価やブックマーク登録してくれた方ありがとうございます。

少しでも面白い、続きが気になると思って頂けたなら有難いです……。

よければ、☆評価や感想で応援していただけると執筆に励む力になりなお有難いです……。


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