二部24話 変態、嗅ぎ嗅ぎ狼女とお化け屋敷、オワタ
さあて、今日のジュリちゃんの恰好は!
爽やかな白Tに薄手の水色パーカー、かわいいポーチ、そして、ショートパンツ!
もとい、
ベリーショートパンツ!
嘘みたいに短いショートパンツを履いていらっしゃる。
それで、俺の目の前でよく物を落として拾うんだぜ。
おっちょこちょいさん。
俺はその度に、暗黒蝙蝠の魔力しか見えない目に変態してるんだ。えらいだろ?
えろくはない。えらい。
まあ、トウカが後ろにいる時はしないからTPOは弁えているらしい。
弁えてるか?
そんなジュリちゃんと俺はお化け屋敷の中にいる。
トウカが『おもしろそー!』とガイドブックを見ながら言っていたのに直前で怖がって行かないと言い出した。じゃあ、中止かと思ったが、お化け屋敷にワクワクしていたジュリちゃん、しっぽが見える位しょんぼりしてたので、俺と一緒に入ることになった。
そんなわけで、ジュリちゃんとのお化け屋敷。
ジュリちゃんは震えながら俺にしがみついている。かわいい。
こうなってくると、ちょっと抱きつかれている腕に意識がと思ってしまうが大丈夫。ジュリちゃんのはかわい
「ぴ」
絡んでいた腕が一瞬でほどけ、鼻先を狼爪が通り過ぎる。
抱きついてくるジュリちゃんにとってもドキドキしながら進むお化け屋敷。
この遊園地のお化け屋敷は今年の夏は洋館仕様だ。なので、出てくるお化けも洋風。
ミイラとかドラキュラが飛び出してくる。
「きゃあああああああああ!」
叫びながら俺にしがみ付くジュリちゃん。かわいい。
よほど怖かったのか、俺にしがみついて顔をおしつけてずっとぶるぶるしてる。
ぶるぶるしてる。
ぶるぶるしてる。
ん?
違うな、これ。
ジュリちゃん、ぶるぶるしてるけど、はあはあしてる。
「匂い……よすぎる……はあはあ」
引きはがす。ジュリちゃんの顔、真っ赤。ナツキちゃんの顔、真っ青。
『見せられないよ!』の顔をしている。
しかも、今気づいたんだが、
「うがああ「きゃあああああああ!」あああああ……」
食い気味でジュリちゃん驚いて俺に顔を押し付けている。
なので、お化けの人も勘のいい人は感づいて居た堪れない顔で去って行く。
人によっては、『りあじゅうばくはしろ……』と呪いの言葉を吐いて去って行く。
【獣化】の固有スキルを持つジュリちゃんは、そのスキルのせいか嗅覚が発達しているようで、しかも、俺の匂いが好みときたもんだ!
だけど、この遊園地もジュリちゃんがいてくれるお陰でトウカがとても楽しそうだ。なので、ある程度までされるがままになる。涎が垂れ始めたら剥がす。
剥がしとしてはかなり優良なのではないだろうか。アイドルなんて秒で剥がすからな。
ジュリちゃんの匂い堪能タイムが終わると漸く歩き出せるので、かなりゆっくりペースで進む俺達。ぶっちゃけ、お化けとお化けの間ではジュリちゃん普通。全然ビビッてないんだが。
なので、普通に話をしたりなんかする。
「いやあ、それにしても洋風お化け屋敷とかになるなんてなあ」
「なつきさんは来た事あるんですか?」
「うん、あるある。家族で昔は良く来てたなあ」
「最近は来てないんです?」
「冬輝の事があってからは来てないんだ」
「あ、すみま」
「謝らなくていいよ。大丈夫大丈夫」
冬輝がいなくなってからは、家族みんなで楽しむことに罪悪感があったんだろう。こういう所に行ったりだとか旅行をしなくなった。
まあ、いっても1,2年の話だけど。
それまではよくここも来ていた。活発な姉さん・冬輝組と大人しい俺と秋菜で別れることが多かった。
「秋菜はこういうのがほんとダメなんだけど、姉さんや冬輝が楽しそうに話をしてるのが悔しかったのか、毎回泣きながら挑戦してさ。俺の手を握ってぶるぶる震えながら一生懸命耐えてたなあ。行かなきゃいいのに『おにいちゃんと手を繋いでなら行く』って」
秋菜は結構負けず嫌いだ。ああいうこともすぐにむきになる。
そんなことを考えてると自然と笑えてくる。
なのに、今の秋菜は……。
ふと横を見るとジュリちゃんがじっと俺の顔を見ていた。そして、ふわりと笑うと。
「もしかしたら、あきなちゃんは別の意味で行きたかったのかもしれませんよ」
「え?」
そう言ってジュリちゃんは俺の手を取って握ってくる。
「こうやって、なつきさんと手を繋ぎたかったから頑張っていたのかもしれません」
ジュリちゃんの手は秋菜みたいに小さくてあったかくて、
「なつきさんの手ってなんだか安心しますから。多分いっぱいいっぱい色んな人にやさしくしてきた手だからだと思います」
そう言ってジュリちゃんは俺の手を引いて前へと進んでいく。
秋菜を引っ張る俺のように、俺を気遣いながら前へ。
「うらぎりものがぁあああ! ばくはしろぉ「キタァアアアアア!」おおおおん!」
フライング気味で俺に抱きついてくるジュリちゃん。後半ゴースト泣いてなかった?
っていうか、アホの声が聞こえた気がしたけどまあ気のせいだろう。
バイト頑張れよ、アホ。
「おおおおん……! 遊ぶ金は親父くれないぃいい」
頑張れよ、アホ。
そして、そんなガッカリアホお化けを通り過ぎた所で、ジュリちゃんもガッカリし始める。
「あと、嗅ぎポイントが三か所しかない……」
うん、嗅ぎポイントではないよね。お化けのびっくりポイントだよね。
嗅ぎポイントっていうのやめようね。っていうか、予習すみなのかな? かな?
そして、ひとつふたつと嗅がれポイン……もとい、お化け登場ポイントを通り過ぎる度にジュリちゃんの俯き角度が偉い事になっていく。
「あ、あの……ジュリちゃん……?」
俺が声を掛けるとびくりと肩を震わせる。いや、別に何もするつもりはないよおお!
と叫びたくなるくらい、小柄でかわいらしい美少女ジュリちゃん。
そんなジュリちゃんが意を決したように顔をあげ、両手で持っている何かを差し出してくる。
やめて! 防犯ブザーだけはぁあああああ!
そんな気にさせる偽ょうじょジュリちゃんが持っていたのは防犯ブザーではなく。
「お守り……?」
水色のかわいらしいお守りだった。
「は、はい。あの、わたしが作ったお守りです……。最近、たいへんだと聞いたので少しでも良い方向に向かうようにと……あの、心を込めて作りました。よかったら!」
そう言って差し出してくれたお守りは、フェルトで作られた可愛らしいもので……。
そして、それを持つジュリちゃんの手はよく見ると傷なんかもあって……。
「ありがとう。貰う。嬉しいよ」
思いのこもったお守りを受け取る。
「あの、怖いですよね。わたしも、昔、ずっとつきまとわれていることがあってすごくすごく怖かった。でも……その時、助けてくれて……! だから、今は怖くてもそれでもそれより守りたいものがあるから、わたしはがんばりますから……! 力になりますから、まもります、から……!」
気付けば俺はジュリちゃんの頭を撫でていた。
「ふえええええ!? な、なつきしゃん……!」
怖いものはいっぱいだ。幽霊よりも人間の方がマジで怖い。
それでも一緒にいてくれる人がいるから頑張ろう。手を繋いで、この暗闇を越えていこう。
狼少女化して、俺の手首をクンクン嗅いでしっぽをぶんぶんさせている女の子を見ながら、そう、思った。
「あああああの! ちょっと、ちょっと、聞いてみるんですが……そそその、お守りからなんか臭いとかしませんよね……?」
「……ん?」
「いいいいや、何もしないならいいんです! 無事を祈るお守り大切にしてくださいね」
お守り。
そう言えば、おばあちゃんから聞いたことがある。
昔の人は、恋人へ贈るお守りに毛を入れると。
どこの毛なのかは察して欲しい。
そう言えば、動物番組で聞いたことがある。
わんちゃんはマーキングをすると。
何でするのかは察して欲しい。
どっちだ?
ジュリちゃんが顔を真っ赤にして去って行く。
俺は汗をだらだら流して追いかける。
ねえ! このお守りの中身なんなの!? ねえ!
にょうなの!? もうなの!? どうなの!?
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