二部第20話 変態、どろどろ餓鬼とキラキラ狂人戦闘、オワタ
地餓鬼。
皮膚の一部と額の角が岩、そして、それ以外はどろっどろの泥状の何か。
主に洞窟などに生息するが、上級種なので数が少ない上に、隠れ家を作りそこで戦力を整える為に、討伐数も少ない。
今回も、エマが見つけなければ、こうやって岩で隠した棲家の中からこっそり冒険者を襲い、命や魔力を奪い、手勢を増やしていたのだろう。
「グギィイ……!」
自分の策が破られて悔しそうに鳴いている。いや、だけど、十分だろ。地餓鬼の後ろには大量の魔物が生まれている。恐らくどれも地餓鬼によって増やされたものなんだろう。どろどろした皮膚を持った泥巨人や泥蝙蝠、泥粘獣などがひしめいている。
その異常な光景を目にして震える秋菜。それと対照的なのはエマ。
ニヤリと笑い、
「さあてと、どうしよっか? ナツキ?」
そう言った。
は?
「……おいぃいい! なんも考えなしだったのかよ!?」
「いや、だって、ここがヤバげだったからさ、来ただけで」
流石、クレイジープリンセスだ。来てみただけだった。
まあ、ぶっちゃけそんな気はしてたからね! 考えてはいましたよ!
「俺が前衛、チクワさんはフォロー、特に岩餓鬼の動きをけん制しててください。秋菜は、後方支援だ! もし生き残りが居たら念動力系で一体ずつ確実に潰してくれればいい!」
「了解デス」
「……わ、かった!」
俺は狂気の仮面道化のフル装備に変態しながら、指示を出していく。向こうもギャースカギャースカ岩餓鬼がなんか言ってる。戦闘準備を整えているようだ。
「ナツキ! アタシは!?」
「お前が指示なんか聞けるわけねえだろ! ……好きに暴れろ!」
「イエッスゥウウ! それじゃ、レディーファイっ!」
エマが一直線に岩餓鬼の元へ駆けていく!
慌てて防御陣形を取らせる岩餓鬼だけど、エマは突如地面に向かってブレスを吐き岩餓鬼達の群れを飛び越える。
そして、大きく息を吸い、
「あああ、馬鹿! 【赤変態】風鬼の腕×【青変態】突風! 〈嵐壁〉!」
エマが超高音ボイスをぶちかます直前に俺は自分たちの前に分厚い風の壁を作り出す。
エマが空気を超振動させる声をぶちかますと、魔物達は細かく震えながら溶け魔力に戻っていく。
「はっはっは! 〈青狗鳴〉! きいたでしょ!」
エマが勝ち誇りながら笑う。が、中央にいきなり生まれた岩のドームを見て眉をひそめる。
ガラガラと崩れる岩のドームの中には岩餓鬼を中心とした4体のゴブリン達と、何体かの瀕死の魔物達。
4体のゴブリンは恐らく同じ系統なのだろう岩餓鬼よりも小さいが、それぞれが岩と泥の肌を持っている。
エマのさっきの技を耐え抜いた時点で強敵だ。
「エマ! 飛ぶぞ! 当たるなよ!」
「あーい」
「ディメンションホッパー!」
俺は紅蜥蜴飛蝗の足を膨らませ、洞窟の中を蹴り、縦横無尽に跳ねまくり、時に、岩餓鬼共と瀕死の魔物達を攻撃する。
岩餓鬼共も無差別攻撃と即座に理解し防御に切り替えている。だけど、構うものか。
俺の仕事は、
「てめえらの岩、全部剝ぐことだからよ!」
とにかく飛んで跳ねて蹴って踏んで岩を砕き続ける。
岩餓鬼もとにかく防御に徹しているようだ。まあ、無差別攻撃だしただただ丸くなる事しか出来てないけど。
「え、エマさん! 危ない!」
秋菜が叫んでいる。なんだかんだでアイツも優しい。エマの心配をするなんて。
エマはさっきの技の反動で、ふらついている。だが、ふらつきながらもしっかり俺の攻撃は躱し笑っている。
「な、なんで……?」
秋菜が驚いている。そっか。秋菜は海外の冒険者の情報なんて知らないか。正直、知らなくても困ることはないし。
アイツの固有スキルを知らないなら危ないと叫んで当然だ。だが、知っている人間からすれば、だ丈夫なやり方。
まあ、俺程無茶な事をするのはいないだろうけど。アイツにもお灸は必要だ。ギリギリを攻めてやる。だから、チクワさん、あんま俺を睨まないで!
そして、俺のディメンションホッパーの地面を蹴る音に合わせながら、エマが歌い始める。かなり激しめのロックだ。
どんどんどんどんテンポが上がっていくその歌に合わせるかのように俺のディメンションホッパーも加速していく。そして、サビに入り、そこからは叩きつけるようなシャウト、俺も敵を踏みつぶしていく。
四回目のシャウトでゴブリンを踏みぬいた時、頭上に岩餓鬼の岩の大斧が振り下ろされようとする!
「ここかよ!」
俺は腕の手錠を差し出し、鎖で塞ぐ。だが、大斧を受け止めたもののここまでの諸々で弱っていた鎖は千切れそうだ。俺は、ぴし、という音が聞こえた瞬間後ろに飛ぶ。そして、エマが歌いながら投げつけていたガントレットを腕にはめ、足に来る衝撃に耐える。
「星の導きよ! 紡げ最高のフィナーレへ!」
歌い終わったエマが叫ぶと同時に放ったブレス。
それを変態した足で受け止め、再び岩餓鬼の元へ飛んでいく。
岩の大斧を地面に突き刺してしまった岩餓鬼が驚愕の表情を浮かべている。
そりゃそうだ。こんな展開、魔物でも人間でも普通の思考なら分からない。
だって、この戦闘に関しては俺が好き勝手やっているだけなんだから、それをエマが合わせている。
いや、運命を信じて適当にやっていた。
彼女には見えるから、星の導きが。
俺はガントレットを一度ガチンとぶつけ合わせ、岩餓鬼に向かって思い切り殴りかかる。
俺にぴったりのサイズのガントレット。エマには大きすぎただろうな。
アメリカの一流冒険者チーム【HEROES】の一人、エマ・ゴールドバーグ。
彼女には見える。星の導きが。
だけど、それはピカっと輝きが見えるスキルらしい。
彼女はその輝きの理由を瞬時に推察、妄想し、この後の展開を、次の輝きを見つけながら紡いでいく。
それは星座の神話のように。
俺にも見える。一個だけ。
岩餓鬼の額を、ぶん殴れと、エマのブレスが語っている。
「残念だったな! お前らの小賢しい物語は、あの馬鹿の妄想に砕かれるんだよ!」
俺が放ったガントレットの一撃は、岩餓鬼の角を砕き、そのまま頭をぶち抜く。
そして、その場には泥と魔物の血だけの部屋が広がる。
「イエッス! ナイスナツキ!」
金髪グラマラス美女、エマ。
固有スキル【StarGazer】。【空想家】の狂人は今日も星の導きに従って適当に生き抜いていた。
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