02
赤いレンガと屋台に並べられた野菜、そして明るい服を着た子供達が走り回ることで、この町は色づいているように感じる。
町の中心に設けられた小さな噴水と、それに腰掛け音を奏でる吟遊詩人。
人は集まっていないものの町全体がその調べに耳を傾けているようだった。
僕の町、『ロロ』は今日も平和だ。
詩人の歌に足を弾ませるように屋台並びを進む。途中で顔なじみの八百屋のおばちゃんからりんごを一つもらう、相変わらずすっぱい。
しかし嬉しそうなおばちゃんを見ると、美味しいと言わざるを得ない。あの人は品質ではなく人柄で繁盛しているのだ。
いつもの抜け道である、建物と建物の間をスイスイと通り抜け、目的の場所へと向かう。
ちょうどりんごを食べ終わる頃には店に着き、残った芯を空へと投げると鳥がさらって行った。
入店する前に風で乱れた髪を少し直す。
『ラウラのごはん』惣菜屋だ。
惣菜屋らしくない、カフェのようなアンティーク調の小洒落たドアを開ける。
「こんにちはー。」
「あ、トトさん、今日も来てくれたんですね!」
そこには、栗毛色の短い髪の毛の上に、きれいな花のブローチをつけ、エプロンが似合う美少女がいた。
「やぁロアちゃん、今日もいつもの料理辛さ100倍でお願いするね。」
僕が微笑みながら言うと、
「はい、承りました!でも相変わらずですねぇ…トトさんのお師匠様は。」
少々苦笑い気味で言う。
ロアちゃんは来るのが分かっていたかのように奥から注文の品をとってくると、僕に渡す。
「はい、トトさん!いつもの……ぁっ……。」
受け取るときに手が触れてしまった。
ロアちゃんはすごい勢いで赤面し、眉を寄せる。
恐らくではあるが、彼女は僕のことが好きだ。
自惚れとかじゃなくて、その、なんていうか……、このこ僕のこと好きだな?っていうのは割とわかるものだと思う。
そしてロアちゃんは美少女!
なんだこの優越感は、美少女が自分のことを好いているとを知っているだけで、ここまで人生が潤うのか!!
美少女恐るべし!!
もちろん表にそんなことは出さずに、
「おっとごめんね?」
狡猾なまでに爽やかに少し屈んでロアちゃんに言う。
ロアちゃんは近づいてきた僕を意識するように体を硬直させ、蚊の鳴くような声で「はぃ…。」と返事をする。かわいい。
それを拭うかのようにロアちゃんが、
「そ、そういえば!!トトさんは吟遊詩人の方をお見かけしましたか??」
道中噴水に座り込んで演奏したいた彼のことだろう。
「あぁ、道中噴水で見たかな。どうして?」
僕が聞くと、
「どうもあの方、エルフ族のようで、何やら聞いたことのない昔話をしてくれるそうですよ。なんだっけな……ええっと…あ、そうそう!『囚われの姫と凡夫』です!」
表情をコロコロ変え、最終的に満面の笑みでロアちゃんは僕に言う。
それにしても『囚われの姫と凡夫』か…。
聞いたこともないな。
「へぇー。ロアちゃんは聞いたの?」
「はい!友達伝いではあるんですけど。」
おそらく子供向けお伽噺話のような気もするが一応聞く。
「どんな話なの?」
するとロアちゃんは急に厳しい顔になって
「だめです!この話はネタバレしちゃわない方がきっと楽しいです!!!」
顔の前でバッテンを作って押し付けてくる。
そういうロアちゃんだって友達伝いだろうに。
「そっかそっか。んじゃあ帰りにでも聞いてみるよ、ありがとうね、ロアちゃん。」
「はい!またお願いします♪」