プロローグ
凍えるような寒さだ。体がぶるりと震えるかと身構えたが動かなかった。
ここは夢の中だろうか。
先ほどから目を開いているはずなのに、辺りは真っ暗で上下左右の感覚がうまく掴めない。
手や足を動かそうとするが、それは結果には現れず、ただ私は茫然と立ち尽くしている。または、寝ている状態だった。
意識だけが機能していて、私の体はその命令をすべて拒んでいるようだった。
寒い、あぁ寒い。
なんてつまらない夢なんだろうと思った。どうせなら、もっと楽しい思いをさせてくれてもいいじゃないか。
好きな物を好きなだけ食べるとか、上限なく買い物に走り回るとか――。夢なんだからどんなことでもできるだろう。
それなのに、寒くて体がまったく動かないだけなど、ただの拷問でしかない。
私はすぐに飽きてしまい、早く夢よ覚めろと命令した。
――ふと、頬に生暖かい感触があった。
優しい温もりだった。
ぼんやりとした感覚のなかに現れた、ただ一つの刺激。私はそれがとても心地良くて、集中することにした。
すると、少しずつ夜が明けるかのように辺りが白んできた。
温もりはまだ離れない。
明るくなるにつれ、段々と心臓が熱を帯びていった。どくん、どくんとその存在を主張し始める。
熱はかなりの温度になった。まるで沸騰したやかんを胸に抱いている気分だ。
もう我慢ができないぞと思った瞬間、熱は流れ星のようにすっと全身に行き渡っていった。
自然と、夢から覚めることが分かった。
その後私が記憶したものは、甘い薔薇の香りと、美しく輝く灰色だった。