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精霊たちの箱庭から  作者: Losno
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第2話〈新しい暮らしの場所〉


 書類を埜夢(のむ)に確認してもらい、サインを書いてもらう。


「あっ、そうだ。埜夢ちゃん以外にも、ここに働きに来る精霊が何人かいるの」

「僕と同じような精霊達ですか?」

「そう、埜夢ちゃんと同期……でいいのかな。皆埜夢ちゃんと年はあまり変わらないくらいだから、揃ったら紹介するね」


 (あずさ)が書類を書き終えてふと埜夢の方を見ると、遠目でも分かるくらいに埜夢ががちがちに固まっていて、こわばった体がそのまま床に倒れ込みそうだ。


「あはは、あまり気負いしなくても良いよ。はじめは緊張するかもしれないけど、ゆくゆくは第二の我が家くらいに思ってもらいたいから」

「第二の……我が家?」

「困ったことがあったら頼れる、帰れる場所になってほしいなあって。……これから働く場所をそういう風に呼ぶの、あんまり好きじゃない?」


 梓が少し意地悪そうな表情で聞くと、埜夢は首をぶんぶん横に振って否定した。


「い、いえ! ありがとうございます」



 学舎から少し歩いたところに寮があった。

 学舎の内装がほとんど木だったため、寮も木製なのかと思っていたが、土壁に瓦屋根を載せた木組みの建物だった。

 一階に広場や食堂、二階に各個人の部屋があるといった具合だ。

 壁に手を置くと、特有のザラっとした触り心地が伝わった。

 地の精霊である埜夢にとって、土でできた壁は故郷の家のようでなんだか落ち着く。

 梓によると、ここには色々な精霊が住めるように、木以外の素材を多く使っているのだそうだ。


「これが部屋の鍵。食堂は左側にあるから、そこでお昼をとって」


 部屋の鍵を受け取ると、思い出したかのように埜夢のお腹が鳴った。思えばまだ昼食をとっていなかった。


「私はまだやることがあるから一旦学舎の方に戻るけど、もし何かあったら私か食堂の古雲(こうん)さんに聞いて。夜になったら戻ってくるから」

「分かりました。色々とありがとうございます」


 梓は小走りで去っていった。おっとりした様子で話していたが、きっとまだ仕事が残っているのだろう。

 自分の対応に時間を割いてしまったと思いつつも、明日から自分もそのお手伝いをして梓の負担を減らそう、と改めて心に決めた。


 鍵のチャームにかかれた番号を探し、鍵と同じ番号の部屋の前に立った。

 今日からここで寝泊まりする。不安だったが、同時にワクワクしていた。

 たくさんの仕事をこなし、色んな精霊達に出会って、楽しいと思える新しい生活をはじめられたらいいな。そんな思いで、扉を開けた__!


「ん?」

「うわあぁ!?」


 埜夢は予想だにしなかった出来事に大声をあげて後ずさりした。

 誰もいないと思っていた部屋……の正面に、窓の縁に座っている誰かと目が合った。

 相部屋だとは聞いていないし、部屋にも荷物らしきものは何も置かれていない。

 がらんとした何もない部屋に、青白髪の精霊が立っているだけだ。

 

「だ、誰ですかっ!?」

「あー、ここ、君の部屋なの?」

「そう、だけど……ここの部屋の方ですか……?」

「んにゃ。ごめんね、驚かせて。僕もう帰るね」


 そう言うと、精霊は窓から外へジャンプしたのだ。

 慌てて外へ見やると、地面に落ちたという痕跡はなく、辺りをみても誰もいなかった。


「……な、なんだったんだろ……」


 かなり驚いたが、空き部屋に侵入した不審者という感じはなく、素直に謝ってすぐに部屋を出ていった。

 たまたま空き部屋だったからいた、という雰囲気に近かった。


 だが、酷く緊張していた埜夢は窓を閉めて鍵をかけ、部屋のドアも鍵をかける厳重な防犯体勢をとった。


(い、いきなり帰りたくなってきた……。お兄ちゃん達がいないとやっぱり不安だな……あっ、無事に着いたって報告しなきゃ……)


 埜夢には歳の離れた三人の兄がいる。三人とも埜夢のことが大好きで、埜夢も優しく頼れる兄達が大好きなのである。

 ここへ働きに出ると告白した時も大層心配され、二番目の兄に至っては家族と縁を切りたいからなのかと泣き出された日さえあった。思い返すとかなり過保護であったが。

 埜夢は兄達が大好きだからこそ、自分の得意なやり方で家族を支えられるようにしたいのだと説得したら、今度は埜夢の成長ぶりに感動の涙で咽び泣き、あまりのやかましさに近所の精霊から苦情が来た。


 兄達との思い出に浸っているとだいぶ心も落ち着いてきて、やっと部屋の内装に意識が向くようになってきた。


 埜夢の部屋は木でできた家具が多いのが第一印象だった。白材の机と椅子、ベッドに端材を寄せ集めたチェスト。

おそらく、精霊の気質に合わせて一部屋一部屋違うのだろう。

 どれも綺麗な状態で、新しく作られたものだ。

 壁は外壁と同じ土で、照明は壁にかかったアルコールランタン。

 

 必要最低限のものはそろっており、他に必要なものは実家から送ってもらう。埜夢が持ってきたトランクに入り切らなかった荷物は後日学舎に送られると聞いている。


 トランクをあけて、紙とペンを取り出す。

 兄達へ、寮に着いた報告の手紙を書こうとしていたところ、お腹がぎゅうと鳴る。


「……あ、そうだ、お昼ご飯」



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