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☆5

 ミルドを加えた俺たちは、【アルフォード城】に向かって城下町を歩いていた。


 俺はマフラーを深めに纏い、伊達眼鏡とキャップを被っている。すべてミルドの家で借りたものだ。流石にあの異臭を放つボロ切れを身に付けていては、城内に入れないらしい。俺にとっては願ったり叶ったりだ。


「ところでルカ、お前はもう元の姿には戻れないのか?」

 ミルドの部屋で聞いた話が何となく胸に引っかかっていた俺は、頭の上のルカに声を掛けた。


「私の体は保存魔法がかけられて、ちゃんとお城に保管されています。すべてが終わったら、ちゃんと元に戻れるのです」

 

 何故だか分からないが、俺はとりあえずほっとした。


「ところでお前……女なの?」

「はい。それはもう『絶世の美少女』とは私の為にある言葉と思ってしまうくらいの、まさに【アルドラック】のアイドルとも称えられる容姿です。ケンタさんに見せられないのが、残念でしかたありません」

「ふーん。……お城に着いたら、保管されてるお前の顔にヒゲとか書いていい?」

「……なっ! だ、ダメに決まってます! てゆーかケンタさんには絶対に保管場所なんて教えませんから!」

 

そんなたわいもないやり取りをしていると、先導のミルドが急に足を止めた。


「……二人とも、お喋りはここまでだ。城の入り口に着いたぞ」


 いつの間にか、あの大きな城の入り口までたどり着いていた。

 頑丈そうな大きな木製の扉を守る様に屈強な兵士たちが立っていたが、一行の先頭がミルドだとわかると、軽く敬礼をして手早く扉を開いてくれた。


 ……確かに、得体の知れない黄色い物体とどこぞの馬の骨ともわからない俺だけじゃ、城に入る事なんてできっこないだろうな。


 扉をくぐり城内に足を踏み入れると、俺は眩い光の乱射に思わず目を細めた。

 床には鳶色の絨毯が敷き詰められていて、天井から吊るされた精緻を極めた装飾が施された照明が、灰白色の壁を優しく照らしている。まさに豪華絢爛とはこの事を言うのだろう。


 俺はしばらく周りを見渡しその非現実的な世界に見入っていたが、中央の大きな階段に、こちらを見下ろす人影がいる事に気が付いた。

 その影が階段を降りてくると照明の明かりに照らされて、その風貌がゆっくりと浮かび上がっていく。緑がかった短めの髪にベレー帽を乗せ、手には書類を携えた十代後半の女性。そしてその年齢に見合った短めのスカートを靡かせていた。


「ミルド、お待たせ。そして……ルカですわね。姿が変わっても魂の波長でわかるのですわ。……本当、お疲れ様」

「シャーシア! ワタシだってわかってくれるんですね! 合言葉もなしに!」

「ふふふふふ、あんな恥ずかしい合言葉、誰が言うもんですか」


 シャーシアと呼ばれたまだあどけなさが残る清廉な少女は、ころころと笑う。


「えっと…………そちらの方はどなた様ですか?」

 俺は女子会が始まりそうな雰囲気に割って入った。


「彼女はシャーシア。先ほど話した三人の側近のうちの一人だ」


 ミルドの紹介で、シャーシアと呼ばれた少女は俺の方に向き直った。


「ようこそ【アルフォード城】へ。私はシャーシアと言いますわ。王の秘書を務めておりますわ」

 

 シャーシアは両手でスカートを摘み、膝をちょこんと折り曲げて、俺に挨拶をした。


「到着したばかりでお疲れのところ申し訳ないのですが、王がお待ちかねですわ。ささ、どうぞこちらへ」

 

 俺はシャーシアの案内に従って階段を上り、王の間へと続く扉の前に立つ。


「では! 我が王に謁見してもらいます。ケンタさん、心の準備はいいですか?」

 

 頭の上でルカが騒ぎ立てる。……大丈夫だって。準備はできてる。

 

 扉が緩やかに、そして厳かに開いた。

 

 部屋の中央に伸びる群青色の絨毯は、その脇に剣士や魔道士を形どった彫刻を従えて、玉座まで続く道を守護していた。壁には陽が取り入れやすそうな大きな窓と、数枚の肖像画が掛けられている。

 俺はゆっくりとその道標に沿って、玉座へと近付いていく。

 道標の絨毯が途切れ、そこが終着点だと教えてくれた。王のすぐ側までたどり着いたのだ。五段ほど高い場所にある玉座を見上げると……。

 

 そこには俺がいた。


『よくきてくれた、ケンタ殿。本当に礼を言う』


 王、と呼ばれる男は俺と瓜二つの顔で、宝石をあしらった杖を持ち、金の装飾品を身に纏い小さな王冠を頂いていた。よく見ると若干眉毛が俺よりも下がり気味だが、それ以外は17年間見続けた自分の顔そのもの。違う箇所を探す方が難しい。


「……まいったね。こりゃ双子って言ってもわからないくらいにそっくりだ」

 俺は思わず独りごちた。


『余は【アルドラック】の王、ケンタール・ラック。詳しい事情はルカたちから聞き及んでる事と思う。不可抗力とは言え、其方には本当に迷惑をかけてすまないと思っている』

「あー。気にしないでください。別にアンタが悪いってわけじゃないんですからね」

 

 …………案外まともな王様なんだな。

 

 ミルドが申し訳なさそうな顔を、俺に向けた。

「黙っていて悪かった……どうやら【ツインソウル】で繋がる人間は、姿形も非常に類似するらしいのだ。……私もケンタ殿をこの目で見るまでは、到底信じられなかったのだがな」

「それで、顔を必死に隠そうとしたんだな。しかし、一国の王様の顔がそんな世間に広まっているものなのか?」

 

 ルカはパタパタと宙に浮かびながら、俺の問いに答えた。


「【アルドラック】では王の顔を知らない者は、誰一人としていません! 街の露店では隠し撮りされた王のプロマイドが飛ぶ様に売れるほど、大人気なのです!」

 

 アイドルかよ! それに隠し撮りされちゃう護衛ってのも考えものだよね?

 腑に落ちない俺の顔を窺う様に、ケンタール王が尋ねてきた。


『ケンタ殿、どうだろう。もし其方さえよければ、この【アルドラック】で暮らさないか? もちろん不自由のない生活を余が保証しよう』

「そうだな…………ひとつ世話になりますか」

 俺は快く承諾した。


『まことか! いや余は嬉しい。実は【ツインソウル】のことを聞き其方の事を知ってから、余は何かただならぬ縁を感じていてな。できれば兄弟の様に付き合えればと、そんな事を思っていたのだ。……これから其方の事を【ケンタ】と呼んでもよいだろうか?』

「……ええ、別に構わないっすよ。俺もアナタの事を【ケンタール】って呼んでいいですか?」

「「「……なっ! それはあまりにも……」」」

 

 側近三人が色めく姿に、ケンタール王はそっと手を前に出した。

『よいよい。兄弟に左様な遠慮は無用というもの。何か困った事があったら、気兼ねなく申してくれ』


 俺は「わかりました」と答え軽く頭を下げると、それとは気付かれない様にニヤリと笑った。


『いや! 今日はなんと良い日だろうか! シャーシア、早速ケンタに住みやすい住居を用意するのだ』

「はい、我が王よ。仰せのままに」

『……それと、ルカ。約束通り其方には2000万ギルを褒美として授ける』


 その言葉に、いつの間にか床に降り立っていたルカが仰々しい身振りでお辞儀をする。


「はっ! ありがたき幸せです!」


 …………このクソ鳥め、結局金が目当てだったのか!

何とか5話まで終わりました。

この先も、週2〜3ペースで更新できればと思います。


もし縁あってこの作品をご覧になり、少しでも「続きが読みたいな」と感じたら評価やブックマークをして頂けると、私のモチベーションがアップして、この先ちょびっとだけ、面白いお話が誕生する可能性が上がります。


アドバイス、批評などでもこの先の糧にさせて頂くので、どうぞご遠慮なくお寄せください。




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