☆3
「【アルドラック】へようこそ! ケンタさん!」
俺は空間にポッカリ開いたトンネルから、地上に降りた。
……出口くらい工夫しろ! オリジナリティを見せてみろ!
軽く心の中でツッコミをいれてみる。
俺は左右にキョロキョロと周りを見渡す。緑の多い森の様な場所。そしてその目の前には、中世を思わせる高い城が聳え建っていた。
口をポカンと開けて眺める俺に、ルカは得意そうに言う。
「あれが【アルドラック】の国王がおわす【アルフォード城】です。今この場所は、お城の裏にある森なのです。ケンタさんの姿を誰かに見られたら、大変……ごにょごにょ……何でもないです」
何か言いかけたルカをとりあえず無視して、俺は眼前の城をまじまじと眺めた。先鋭の赤い塔がいくつも建ち並ぶ大きな城は、それは立派なものだった。
城に見惚れている俺を気にする事なく、ルカは近くの茂みに顔を突っ込み何やらゴソゴソやっている。しばらくすると何かを取り出して、俺の方に近付いてきた。
「それでは! お城に入る前にこれを身に纏ってください」
ルカが、ボロ切れの様なものを俺に差し出してきた。
「…………何だ、これは」
「はい、ただのボロ切れです。これで顔を隠してください」
本当に失礼なやつだ。
怒れる気持ちを押し殺して、俺は一応ルカの言い分を聞いてみた。
「…………なんで?」
「……な、何でって、知らない人が城内に入ったら、不審がられるかと思って…………てへっ」
ちっっっっとも可愛くない。むしろ殺意が募る一方だ。
こんなボロ切を纏った人間が城内に入ったら、そっちの方が不審じゃないのか?
「おい、本当にそれだけか?」
「…………へっ? や、やだなあダンナ。本当にそれだけでゲスよ」
お前、何人だ?
…………まあいい。仕方ないが、ここは言うことを聞いておこう。
俺は事の成り行きに半ば諦めを覚え、そのボロ切れをターバンの様に顔の周りに巻き付けた。
…………く、臭え!!! もっとマシなタオルや布きれだってあったろうに……!
俺はちょこっと涙目になりながら、心に固く誓った。
……あとできっと、殴ってやる。
「はい! OKです! 完璧に顔、隠れてますね。それとこれをお持ちください」
そう言うとルカは、一枚の紙切れを俺に手渡した。
「これは【アルフォード城】への入城許可書です。城門でこれを見せれば、ちゃんと中に入れてもらえます」
俺はその許可書をポケットに突っ込んだ。
「それでは参りましょう!」
ルカは短い羽の様な手をバタつかせ、フラフラと飛びながら俺を先導した。
————そして、その30秒後。
「……はぁはぁ、ふぅふぅ。この体は飛ぶのには適してないですね……」
そりゃそうだろう。どう見たってスマートに羽ばたく体型じゃないと思うよ?
鳥と言うよりはドッジボールの様な体型なのだから。
そしてルカはフラフラと俺の頭に着地すると、そこで寛ぎ始めた。
「……すいませんが、ここに乗っかっていてもよろしいでしょうか? ここからちゃんと案内しますんで」
…………もう好きにするがいい。後でヘディングシュートでもかましてやろう。
「では、そこの木を左に行って…………。そうそう、そのまままっすぐ行くと、正門に出ますから」
俺は屈辱に耐えつつも、何とか理性を保ったまま正門にたどり着くことができた。
城の周りを囲っている堀には大きな跳ね橋がかかっていて、その脇には城兵が立っている。城兵は俺と目を合わせると、警戒の色をその顔に浮かび上がらせた。
————当たり前だ。小汚いボロ布を被り、黄色いヘンな生き物を頭に乗せた奴を警戒するなって方に無理がある。
跳ね橋を渡ろうとする俺の前に城兵が立ち塞がった。
「…………待ちたまえ。通行証はお持ちかな……………ってくっせえ!」
俺の怒りは一周して、とうとう無の境地にたどり着く。
俺は無表情のままポケットから通行証を取り出し、城兵に差し出した。城兵は鼻を摘みながら指二本で通行証を摘み上げると、もう一人の城兵と何やらヒソヒソ相談し始める。
「一応規則だから」とか「仕方ない」とか「何でこんなに臭いんだ」とか…………。
鼻を摘みながら、一人の城兵が、
「城内で良からぬことを考えるなよ。……それと、すぐ風呂に入る様にな」
そう言うと、城門が重い音を立てて開きだした。
渋々跳ね橋を通してくれた城兵に一瞥もくれず、城門を潜って城内に入る。
再び門が閉ざされる音が、俺の背後で響き渡る。
それが完全に終わり、静寂が訪れるのを待ち。
————俺のライトニングアッパーが、ルカに炸裂した。