☆1
俺は天井を見上げていた。
ガランとした殺風景な部屋。あるものといえば壁に掛けられた学生服と、くたびれてガタがきた勉強机に旧式のテレビ、それにせんべい布団と枕がわりにしている薄汚れたぬいぐるみが一つ。
そんな寂しい部屋の中央で、大の字になって天井を仰いでいる。
……何をしてるかって? そんなに大した理由じゃない。
腹が減って動けないのだ。
かれこれもう三日は何も食べていない。食べ物を買う金など一銭も持ち合わせちゃいなく、動く気力も体力だって、とうとう底をついてしまった。
俺は、このまま死んでいくんだろう。思えばこれっぽっちもいい事がなかった、くだらない人生だったな……。唯一気楽な事と言えば、天涯孤独な俺が死んでも、誰も悲しませないですむ事くらいか。
さあ……天国への旅路へと向かおう。俺はすべてを諦め目を閉じた。
ちょうどそんな時だった。
————ガタガタ! ガスン! ゴスン! ガタガタ!
部屋の中で何かが暴れている様な、物音が聞こえた。
目を開けるのも億劫になった俺は、じっと物音を我慢する事にした。
————ガタガタ!
「あいててててて……」
……ふっ。とうとう空耳まで聞こえる様になっちまったか。こりゃお迎えは間もなくだな。
「えーっととりあえず、コレでいいかな。よっこらしょっと。…………げっ! ……ちょ、ちょっと! 何ですかコレは! いくら何でもコレは…………」
「……うるさ————--い !!!!」
俺は矢も盾もたまらず大声で怒鳴った。
怒鳴った拍子に体を起こすと、俺の目の前にいた物は。
黄色い体で小さい手足、出っ尻フォルムのポテっとしたオカメインコのぬいぐるみ。俺がどこぞから拾ってきて、枕がわりにしているものだ。
それが動いている。一丁前に、俺の怒鳴り声に驚いてやがる。
俺はすべてを悟った。
ああ、とうとうお迎えがきたのだな。
早いところ黄泉の国とやらに連れてってくれ。今際の際にジタバタするほど、俺は物分かりが悪い方じゃない。
俺は目を閉じて、再び横になった。
「ちょっと! 完スルーしないでください!!」
黄色いその物体が、俺にツッコミを入れてきた。
俺は渋々ながら再び目を開けて、少ない体力を振り絞り体を起こした。確かに神の使いにしてはふざけ過ぎた格好だし、何より人生の最期のお迎えがこんな小汚いぬいぐるみってのはあんまりだ。
「…………何か用ですか」
「アナタ、この状況で結構冷静ですね。普通はもっとこう『何だお前は!』みたいな、そう言うリアクションが普通じゃないですかね?」
何だこの黄色い物体は。俺のリアクションにダメ出ししてきやがる。
怒る元気もない俺は、手短に近況を伝える事にした。
「……スンマセンけど、腹が減っていてそれどころじゃないんすよ。あー、勧誘ならお断りです。とっとと帰ってください」
「ふふ…………噂にたがわぬ傍若無人ぶりですね。……それと生命の危機というのも間違いじゃありませんね」
したり顔で話す黄色いぬいぐるみは、短い手を組もうとしている様だが、全然腕が届いてない。……一体何がしたいんだ。
「まずは、話を聞いてもらう為に、体力をつけてもらわないといけませんね」
そう言い放った黄色い物体は、短い手を上げると、何もない空間をまさぐり何かを取り出した。
———え? 今、何をした?
何もない空間から手品の様に取り出したものは、竹の皮で包まれたおにぎりだった。
「これを食べながらでよいので、話を聞いてください。…………松本賢太さんで、間違いないですね?」
間違えるはずもない。松本賢太とは俺の名前だ。