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第6話 五歳の誕生日


「……お嬢様?」


 いつまでも奥へ行かない私にシノが話しかけてきた。

 うう、先ほどまで行く気満々だったのに行けないというのは私のプライドが……。

 でも、だからといってプライドを優先してわざわざ危険なところへ行こうとは思わない。

 どうしようと思っているとシノが突然衣類を脱ぎ出した。


「えっ、シノ!?」


 私の言葉に答えず、服を全て脱いだ。そして、シノが一緒の湯船に浸かってきた。


「よいしょっ」


 そんな声を出して湯に浸かる。

 そして、私のほうへ近づくとひょいと私の体を抱き上げた。幼い私の体はあっさりと抱き上げられる。


「な、何を?」

「いえ、万が一助けに遅れるかもしれませんからね。でしたら、こうして一緒に入ってしまおうと」

「し、仕方ないわね!」


 そう言うが、シノの気遣いだと気づいていた。

 ううっ、ありがとう、シノ。

 おかげで私のプライドも命も守られた。

 シノ、最高のメイド!


「お嬢様、奥へ行きますか?」

「ええ。お願いするわ」


 シノに抱きかかえてもらいながら奥へと進んだ。

 奥へ行くと首まで湯に浸かっても足が床に届かない。

 うん、一人で奥へ行っていたら確実に溺れてた。良かった、プライドに身を任せなくて。


「お、思ったより深いわ」

「ええ。ですから、私がいないところで危ないことはしないでくださいね」

「もちろんよ」


 しばらくこの場でシノに抱えてもらいながら湯に浸かる。

 うん、こうして抱えられながら湯に浸かるの、結構楽しい。


「シノ、腕、きつくない?」


 今の私が子どもとはいえ、ずっと抱えてもらい続けるのはきついはず。


「いえ、きつくありませんよ。ですので、お嬢様は遠慮なく、くつろいでください」


 シノのその言葉に甘えることにする。

 十分に体が温まったところで、そろそろ風呂から上がることにする。

 脱衣所に戻って、すぐにシノが私の濡れた体を拭いてくれる。体が冷えないようにとすぐに寝間着を私に着させて、その後に完全に髪を乾かす。


「よし、終わりです。すぐにお嬢様のお部屋へと帰りたいのですが、申し訳ございません。その、私の体が……」

「分かってるわ、シノ。椅子に座っているわ。だから、ちゃんと体を拭きなさいよ。あなたが風邪を引いたら困るわ」


 シノが体を拭くのを見ながら待つ。

 その途中で急いでいるためか、所々水滴が付いていたので、何度か指摘してきちんと拭きさせる。それが原因で風邪を引くなんて言う可能性はなくはないから。


「終わりました、お嬢様」


 メイド服に着替えたシノ。


「拭き残しは本当にない? 私に遠慮して拭き残しなんてしたらダメよ?」

「大丈夫です。今度はきちんと拭きましたから。髪だって、ほら、この通り、きちんと乾かしました」


 シノが髪をこちらへ見せてくる。

 触ってみると確かに乾いている。


「そのようね」


 確認を終えて、私の部屋へと戻る。

 今からの時間は就寝時間まで自由時間。今度も本を読む。

 その間、シノは壁際で待機している。もちろん椅子に座って。

 自由時間の間、読めたのは一冊と少し。就寝時間へとなってしまった。


「もう時間なのね。もう少し読みたかったわ」

「ちゃんと寝ませんと成長できませんよ。夜更かしはダメですからね」

「ふふふ、分かってるわ」


 未来の姿を知っているとはいえ、睡眠や食事は疎かにすればその姿は別の姿になる可能性もある。

 なので、ちゃんと食べたり、寝たりなどはしっかりとする。

 シノに連れられてベッドへ移動する。


「もし何かあればすぐに呼んでくださいね。すぐに駆け付けますので」

「ええ」

「おやすみなさいませ、お嬢様」

「おやすみ、シノ」


 シノは最後に私に微笑み、部屋を出た。

 部屋には私一人になる。

 ふう、過去に戻って一日目。最初は戸惑いのほうが多かったけど、今はこの時間を楽しんでいる。

 婚約破棄されたときの憎しみ? 死んだときの悲しみ? そのような感情は今はない。過去に戻って体が変わったからだろうか。それともすぐに無くなる程度のことだったということ?

 どちらにしても負の感情を抱いていないから、純粋に今後の幸せのことを考えることができる。

 ただ、今の私の体のことを考えるとできることは少ない。

 シノに言われた通り、この体では物を上手く扱うことは難しい。刃物を扱うことは危険を伴う。

 シノはそれをすぐに理解していたので、最初は刃物は使わないことになるだろう。

 それから眠るまでの時間、何をするのか想像して楽しんでいた。


…………

……………………

………………………………………


 それから時間は流れ、私の誕生日になった。今日は私の誕生日ということで、誕生日パーティがある。

 え? その前回から今までの時間? ほとんど同じ。ただ、午前中の時間は私が望んでいたことをすることになった。それは掃除。

 ただ、体も小さいということから、衣類などを畳むことをやっている。これなら道具などは使わないので、大きな怪我をする可能性は低い。

 ちなみに午前中にやっていることはシノ以外は知らない。まあ、きっと他のメイドが知れば、シノのように許してはくれなかっただろう。


「お嬢様、今日はいつもよりしっかりと綺麗にしますからね」


 シノをはじめとするメイドたちはいつも以上に気合が入っている。

 私の誕生日だけど、本人である私よりもメイドたちのほうが気合が入っているのはいつものことだけど、不思議な感じがする。


「シノ、お化粧はしないでいいの?」


 ドレスを着せてもらっている間、全く化粧をする様子がないので聞く。


「ふふふ、お嬢様もお化粧に興味がおありですか? 私もお嬢様にお化粧をして、さらに磨かせたいのですが、派手なお化粧は許されてません。ですので、あとで薄くお化粧をさせてもらいます」

「そうなのね」


 ドレスに着替えさせてもらった後、シノに薄く化粧をされた。大人のような化粧ではなく、シノの言葉の通り本当に薄い化粧。子どもの化粧と言ってもいい。


「どうでしょうか、お嬢様」


 全ての私の支度を終えたシノが確認をと私を姿見へと誘導する。

 姿見に映るのは幼い私。薄い化粧とはいえ、いつも見る化粧をしていない私と比べると大きく変わっているように感じる。

 うん、とっても奇麗。

 ドレスのほうもそんな私の幼さに合わせているので、可愛らしいものになっている。

 こっちも可愛い。


「うん、いいわ。最高の出来ね」


 くるりくるりと回りながらそう言った。


「気にいただけたようでこちらも満足です」


 シノが代表して言う。


「さあ、お嬢様。旦那様がお嬢様をお待ちです」


 父が待っているのは私をエスコートをするから。

 一応、すでにラルド様の婚約者とはなっているが、エスコートされるのは初等部へ入る年齢である六歳から。それまではパーティでは父や親族がエスコートすることになっている。

 シノについて行き、別の部屋へ。

 そこにはいつもとは違った立派な服を着た父が。

 父はあまり表情を変えることのないので、怖いという印象が多いけど、それさえ目を瞑れば実は結構モテたりする。特に母が死んでからは色んな女性からアプローチされているのだとか。

 まあ、私の同世代は大人の魅力というのはまだ理解できないというのもあり、未来でも大人の女性たちのように父のことを噂するというのはなかった。


「よく似合っているな、ラヴィリア」

「あ、ありがとうございますわ、お父様」


 父が褒めるとは思ってはいなかったので、少し驚いた。あと、何だか頬がいつもより緩んでいる気がする。

 もしそうならば、私、父の表情が分かるようになったのかもしれない。


「お父様もよくお似合いですわ」


 父は私の言葉に頷いて返す。

 うん、いつもの父だ。

 不愛想な父は私へ手を差し出す。


「さあ、お嬢様。旦那様の手を取ってください」


 普通なら腕を組んで歩くのだが、私と父では身長に差があるので、それはできない。

 なので、こういう場合は手を繋ぐことになっている。

 私はその手に自分の手を乗せた。

 何だか恥ずかしい。だって、父と手を繋ぐのは子どもっぽい。

 え? 今の私は子ども? まあ、そうだけども体はともかく、中身は十八の淑女。感情は主に十八歳の私なので、子どものようにしろというのは難しい。

 ただ、中身が十八なので、せめてもの抵抗の表情を偽るということは上手くできている。

 表情を隠すことは貴族の淑女では嗜みの一つ。マナーのようなもの。この私ができないはずがない。


「……緊張はしていないか?」


 会場へと向かっていると父がそう聞いてきた。

 私の知っている父は不器用なので、こういうときでも何も言わないのだけども。なので、ちょっと驚いている。


「ええ、大丈夫ですわ。私も今日でまた一つ、立派なレディに近づきましたもの」


 緊張よりも恥ずかしいという方が大きい。


「そうか。今後、大きな集まりに呼ばれることがある。緊張していないというのは大きなアドバンテージだ。今の調子で相手と接すれば有利になる」

「分かりましたわ」


 父からしたら公爵家の当主としても喜ばしいことなのだろうけども、本人としてはズルをしているって感じなので、何とも言えない。

 ま、まあ、ズルと言ってもきちんと私が努力して手に入れたもの。全く努力していないというわけではないので、そういう意味ではズルはしていない。同じ土俵であると言える。言えるよね?


「今から会場入りだ。前回はずっと緊張していたが、今回は問題ないか?」

「ええ。会場入りした途端緊張、なんてことはなりませんわ」


 未来の経験がある私に緊張という二文字はすでにない。むしろベテラン。そんな私がいざ会場入りして緊張して失敗などというのはあり得ない。……振りじゃないよ?

 ごほん、まあ、体が小さくなっているので、お風呂の時のような失敗をしないとは言えない。

 ベテランだけど、油断はしないようにしよう。どんな達人でも油断すれば多くの失敗を犯す。故にそのような油断はしない。

 こういうのは大抵ベテランぶって油断したら、大きな失敗をして恥をかくというのはお決まりである。さすがの私も子どもの体とはいえ、大きな失敗をしたら結構落ち込む。やばいほどに落ち込む。

 というわけで、油断をしないようにと気を引き締める。

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