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第2話 神との出会い

 結構長い時間を歩いたと思うが、相変わらず何も見えない。

 歩き疲れた私はその場に座る。貴族令嬢ですから、地面に直接座るなんてことはあり得ないことだが、もはや貴族としての云々、というのは無意味なもの。縛られていたものから解放された私は躊躇いものなく座ったのだ。

 そうして、休んでいると人の気配が背後から感じた。

 警戒しながら後ろを向くと、そこには***************、********がいた。


「そう警戒するではない。我はお主らのところで言う神というものじゃ」


 その**はおかしな喋り方をしていた。しかも、自分は神だと言う。

 完全に怪しいし、警戒しない方がおかしい。

 しかし、ここは不思議な空間。尚且つどこを見回しても何もなかったところに突然現れた神を名乗る**。神というのは間違いないのかもしれない。

 そう考えた私は目の前にいる**を神と思うことにした。


「あの、それで私に何か?」


 一応、神だと思って話しかける。


「くくくっ、慌てんのじゃな。普通はこのような空間に来て、突然人が現れればもっと面白いリアクションをするものじゃが」


 神は笑いながらそう言った。


「あなたが神というのならば、あり得ないことではありませんわ。それに今は不思議な事が起き過ぎて、リアクションができないのです」


 一番大きいのはやっぱり死んだはずなのに生きているということだろう。私の心臓を貫き、噴き出る血液を私は覚えてますから。死んだのは間違いない。

 そのことを思えばこの空間のことや突然人が現れるなんてことは、些細なことに過ぎない。


「なるほどのう。まあ、よい。それよりも、じゃ。お主がここにいる理由、分かるか?」

「私がここにいる理由、ですか」


 そういえばなんだろう。私たちの中で広まっている死んだあとの話通りならば、天国か地獄へ行くとなっていたから、今から神による審判が下され、天国か地獄、どちらへ行くのかを決めるためだろうか。

 というか、それしか考えられない。

 ああ、なるほど。じゃあ、今の私は生きているというわけではなく、魂という存在にでもなったのだろう。決して生き返ったわけではないのか。

 その事実はとてもショックなのだけども、これは変えられない過去だ。神の前だし、泣き叫んだりせずに最後まで私らしさを貫き通そう。


「えっと、今から神による審判が下されるため、でしょうか」


 そう言うと神は違うと言う。


「我はお主の最後を知っておる。あやつらからひどい断罪を受けたことをな」


 神の言葉でその時のことを再び思いだし、思わず俯いてしまう。


「そこで、じゃ。我はお主にチャンスをやろうと思ってな!」


 そこからの神からの提案に顔をがばっと上げる。


「チャンス、ですか?」

「そう、チャンスじゃ! お主を過去へと戻らせ、再び同じ人生を送ってもらう!」


 その言葉に絶望してしまう。何か希望かと思ったけど、一気に落とされた……。


「い、嫌!」


 思わずそう叫ぶ。

 神を相手に否定するのは無礼かなと言ってから気づいた。別の意味でも絶望してしまう。


「なぜじゃ? 同じ人生とは言ったが、未来を変えることができるのじゃぞ?」


 だけど、神は怒らずに優しく聞いてきた。


「だって、戻ったってあるのはラルド様との婚約……。婚約破棄を回避したところで……」


 例えラルド様との関係が良くなっても、別の未来のラルド様が婚約者を蔑ろにして婚約破棄したという事実は、私の中で決して消えることのない不信感が残るだろう。そんなことを不安に思いつつ過ごす人生を生きたくはない。

 そう思えるのは死んでしまったからであろう。

 生きていたら、そんな人生でも最後まで生きろうと思った。


「なるほどのう。お主は幸せな人生がほしいということじゃな?」

「そうです。できればラルド様と結婚しない人生が」


 そう言うけれども、結婚したい人、つまり慕っている人などは私にはいない。かっこいいとかなどは分かるのだけども、この方だ! とか言う人がいない。

 そういう意味では神はこの方だという系なのだけども。

 ともかく、誰と幸せな人生を送るかは置いといて、ラルド様との結婚を回避することが最初だ。


「では、過去に戻って回避すればよいのではないか?」

「無理です。私とラルド様の婚約は生まれてすぐに決まったんですから」


 それは政治の話であり、バランスを取るためである。生まれる時代が違うのであれば、血の関係で、避けれたという程度の話。


「なるほどのう。ならば、再び婚約破棄による幸せの人生を手に入れようではないか」

「婚約破棄を?」

「そうじゃ。じゃが、もちろん同じ道を辿るのではない。今度は味方を多く付けるのじゃ。お主の敗因は僅かな味方しかいなかったということ。あの場の味方はお主の取り巻きという友人たちのみじゃった。他はお主の婚約者を支持する者、つまり敵が大半。そして、残りは傍観者じゃった。もし、お主がもっと交流を増やし、仲間を増やしていればもっと有利になっていたであろう。何せお主は無実であるのは事実じゃからな」

「なるほど」


 どちらが正しいのかを多くの者が知っているというだけで、その場は私の息苦しいものではなく、もっと楽な場になっていたはず。そうでなかったのは取り巻き以外を作らなかった私の努力ミスとも言える。

 これは私の反省すべき点である。


「お主はあやつのこともう見捨てたろう?」

「ええ」

「ならば、婚約破棄などもうお主のダメージにもならん。あやつは自分の幸せのための踏み台と思え。あやつという試練を乗り越えるということじゃ」


 なるほど。その考え方は良いと思う。どうせ避けられないのならば利用すればいい。神様からの私が無実というお墨付きを持っているのだ。そのことが私に勇気をくれる。神の言葉ってすごい。


「くくく、分かったようじゃな。さて、婚約破棄までの道筋はできたのう。ならば、その先を考えよう」

「その先、ですか?」

「そうじゃよ。今のお主はあやつとの人生を歩みたくないというだけじゃ。具体的な人生が見えん。お主はどのような幸せな人生を欲しておる? 独身のままか? それとも誰かと人生を歩みたいか?」


 神様にそう言われて、そういえば具体的な未来が見えていなかったなと思った。

 思えば王妃になることが幼い頃から決められていたので、他の幸せな人生というのをよく理解していなかった。婚約破棄のあと、庶民になっても公爵令嬢と庶民では暮らしが違う。確かにラルド様との暮らしはなくなっているが、苦しい思いをするのは目に見えている。

 危なかった……。もし神様が言ってくれなければ、結局幸せな人生を送れなくなるところだった。

 しばらく考えて漠然とだけども、一つ考えた人生がある。


「恋愛をして、その方と結婚したいですわ。そして、物語のような幸せに暮らしたいのです」


 私がそう言うと神様は先ほどとは違った喜びを込めた笑みを浮かべた。


「ほう! そうかそうか! それはいい将来じゃ! その将来へ向けて、努力するがよい。その方法の一つは様々なことを体験することじゃ。そうじゃな、お主の相手がどのような相手か分からんが、料理をするのも一つの手かもしれん」

「料理ですか。なぜでしょう?」

「お主は食べる側じゃったし、公爵家の娘じゃったから分からんだろうが、好きな相手からの料理を食べたいというのは庶民の間では普通なのじゃぞ? 相手が男爵か子爵でも似たようなもんかもしれんがな」


 それは私には分からないものだった。

 でも、趣味というものもなかった私なので、料理をしてみるというのも良いかもしれない。あと、お菓子なども作れたらいいかも。


「相手が分からん以上、爵位の低い者との付き合いも増やし、様々なことを学ぶと良いじゃろうな」

「なるほど」


 私の人生はやることがいっぱいみたいだ。

 でも、未来が分かっている分、楽だと言える。王妃になるための教育も覚えているので、時間には余裕が増えるだろう。優秀な成績を保ってきた私である。同じことを無駄にすることなくこなしてみせる自信がある。


「他にも色々と学ぶ必要があるが、そろそろお主を現世へと返そう」


 そう神様に言われて、少し緊張する。


「ああ、言い忘れておったが、次どのようなことで死んでも、今回と同じようなことはならんということを覚えておくんじゃ。つまり、過去へ戻ることはできん。死ねばこのような死後の時間も感じることなく終わると知れ」

「わ、分かりましたわ」


 その言葉が本当であるというのは疑いもない。

 おかげでまた死んでも……という甘えた考えが無くなった。きっとその言葉なかったら、絶対に同じような道を辿っていたかもしれない。


「さあ、準備は良いか?」

「はい」


 私が返事をすると神様が近づいてくる。


「あの、ありがとうございますわ。私のために色々と考えてくださって」


 送られる前にお礼を言う。

 私が過去に戻ることができるのはどういう理由なのか分からないが、私にはとてもうれしいことであった。


「良い。全てはお主の幸せを願ってじゃ。まあ、我以外にも介入があるんじゃがな」

「え?」

「おっと、余計なことも言ってしまったのう。さあ、行くがよい」


 聞こうとするが、その前に私の体を光が包み、それと同時に私の意識は薄れていったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] そんないい神様か 最後に反転して悪役になるのが面白い
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