第19話 ついにこの日が!
さて、時間は飛んで数十日。
あの時からしばらくは様々な着せ替えとポーズを取らされた。さすがに後半になるとテンションが下がったけど。
ごほん、ともかくこの日はとっても楽しみにしていた日。
それは何か!
私の友人三人と一緒にお茶会だ! 彼女たちとは手紙のやり取りはよくやり取りをしていたが、実際に会うのは私の誕生日を含めて、今日で二回目。
彼女たちにとってはまだ私のことはそこまで大切な存在ではないだろうが、私にとってはかなり大切な存在。彼女たちも早く私に対してそう思うようになってほしい。それにもっと仲良く一緒にお話をしたいし。
「ふふふ、お嬢様、わくわくしてますね」
私が友人たちが待ち遠しくて自分の部屋をうろうろしていたら、その行動を見ていたシノにそう言われた。
「べ、別にわくわくしてないわ。ただ歩いていただけよ」
図星なのだけども、それを認めたくはない。だって、恥ずかしすぎるもの。
「ふふふ、そうですか」
ぐぐぐ、あっさりと流された……。
「ただ、お茶会で気分を悪くしないように今のうちに寝ておきましょう」
「? なんで寝る必要があるのよ」
「だってお嬢様、昨日ほとんど眠れなかったじゃないですか」
「!!」
その言葉を聞いた瞬間、私の顔は一瞬で熱くなった。
「な、なんで……!」
「一緒に寝ているんです。お嬢様が途中で起きたのは気づいてましたよ」
た、確かにシノと一緒に寝ているけども、まさか私が途中で起きたことに気づいていたなんて……。
「お茶会が楽しみで眠れなかったんですよね?」
「う、ううっ」
図星すぎる……! だって、だって! ついにあの子たちと一緒に楽しくお茶会ができる日が来たんだもの! ついにこの日が来たと前の日に興奮して眠れなくなったってしょうがないじゃない!
「ほら、お嬢様。ベッドで少し寝ましょう? せっかくのお茶会です。寝不足ではきちんと楽しめません」
「むむむ、それもそうね」
シノにバレていたのは恥ずかしいけども、シノの言う通り寝不足でお茶会を迎えるのはまずい。シノの言う通り、ここは眠っていたほうがいいだろう。
「分かったわ。寝るわ」
私がそう言うとすぐにシノが私のパジャマを用意してくれる。
つい先ほど着ていたパジャマ。それをすぐにまた着ることになるなんて思わなかった。
ベッドへ入るとシノも入ってくる。しかも、パジャマで。
「シノも寝るの?」
「いえ、横になるだけです。一緒に横になったらぐっすり眠れるかと思いまして」
「ありがとう。確かにぐっすり眠れるわ」
最近はシノと一緒に寝ているので、シノが隣にいないと違和感があるほど。シノの隣が落ち着くせいかも。
しばらくシノの匂いを嗅いでいると私の意識が段々と薄くなり、ついに眠りに就いた。
くうくうと十分に寝て、シノが起こす。
「ん、んんっ……。時間?」
「はい。もう少しで、ご友人たちがいらっしゃいますよ」
「ついに来るのね」
寝起きだけども、もう少しで来ると聞いて頭が一瞬にして意識がはっきりとなる。
「シノ、先ほどよりも奇麗にお願い」
「はい!」
私がそう言うとシノはすぐさま準備をしてくれる。
私の言葉通りいつもよりも気合を入れて準備をしてくれる。
まあ、さすがに誕生日パーティほどではないけども。
「ふう! 中々の出来です! どうですか?」
姿見で確かめる。
うん、中々いい。
「いいわね。パーフェクトよ、シノ」
「ありがとうございます」
さて、準備もある程度終わったので、あの子たちを出迎える準備をしよう。
出迎えるのはもちろん玄関。
本来ならば、令嬢である私が出迎えるなんてことはせずに、執事かメイドが出迎えるのだけども、今回は私自ら出迎える。
「ねえ、こういう出迎えでは何て言えばいいのかしら?」
こうして玄関に来て、あの子たちの出迎えをしようと思っているのだけども、残念ながら未来でもこのように出迎えをしたことなんてない。なので、出迎え方が分からない。
こういうことはこんな直前ではなくて、事前にシノに聞いておくべきことなのだろうけども、どうすればいいのかと思ってのは今このとき。
なので、事前に聞くというのは思いつかなかった。
「そうですね。笑顔で、来てくれてありがとう、などそういう単純なもので良いかと思いますよ」
「それは……いいわね。でも、私は公爵令嬢よ。何だからしくないわ」
公爵令嬢という立場はかなり重要なもの。私の立ち振る舞いが公爵家の格を表す。
なので、私がしっかりとしなければならない。
「そうですが、今から会うのはまだ幼いご友人。難しい言葉で歓迎するよりもこちらのほうがよろしいかと」
「むう、それもそうね」
私ならば問題はないだろうけども、他の子たちが対応できないだろう。
「シノの言う通りにするわ」
練習時間もないので、可笑しな失敗をするわけにもいかない。長々しいものや小難しいものではなく、シノの言う通り短く簡素な言葉で出迎えるとしよう。
もうすぐ友人たちが来るとはいえ、まだ少し時間があるので、少しだけ練習をした。
「あっ、どうやら来たようです。三人一緒のようですよ」
「まあ、三人一緒なのね!」
基本は一人ずつやってくるので、計三回は出迎えの挨拶をする予定だった。
けれども、三人一緒のようなので、挨拶は一回のみ。ちょっと緊張する。
一人ずつだったら三回あるからってそこまで緊張しなかったのだけども、それがいざ一回のみとなると緊張してしまってもしょうがない。一回の失敗が全ての失敗になるのだもの。
「し、シノ、緊張してきたわ。このままだと失敗しそうで怖いわ」
緊張をどうにかしてほしい私はシノの手をぎゅっと握る。
「大丈夫ですよ。私が後ろで見守ってますからね」
「失敗した時はたくさん慰めてよ?」
「ふふふ、失敗した時の話は止めましょう。成功した時はご褒美です!」
「……それは失敗できないわね。頑張るわ!」
ご褒美を目当てに頑張るわけではない。あくまでもモチベーション向上のためだ。
しばらく待つと玄関前が騒がしくなる。
離している内容は分からないが、声から私の大切な友人三人であることが分かった。
むう、私がいないのに三人仲良くお話なんて……。
やや、いや、かなり嫉妬している。
私だって楽しくお喋りしたいのに!
「お嬢様、笑顔です」
シノに言われて、すぐに笑顔に。
ふう、まあ、私と三人たちはまだ出会ったばかり。それに私は公爵令嬢ということもある。気軽に話すことはまだ難しい。
なので、私がやるべきことは友情を深めること。
でも、こういうのは大抵、友情を深めることとかそういう目標ばかり考えていると失敗するので、いつも通りで行こう。つまり、楽しむことを考える。こうすることで自然と仲良くなれる。
そう思って挑もう。
そう考えているとついに扉が開く。
入ってくるのは私の友人三人とそのお付きの者たち。
先頭は伯爵令嬢であるミシェル。その両後ろにライラとエミリー。
「ほ、本日は、お、お招きいただきありがとうございましゅっ」
ミシェルが代表して挨拶する。
緊張していることが言葉にも仕草にも表れている。しかも、最後の最後に噛んだので、顔が真っ赤になってる。見ているこっちはミシェルの可愛さを見れて楽しい。
でも、あわあわとしているミシェルを放置するのはこれ以上はよろしくないので、そろそろ声をかける。
「ようこそ、ミシェル、ライラ、エミリー。今日は来てくれてありがとう。今日を楽しみにしていたわ」
にっこりと笑顔で挨拶を。
多分しっかりとできたと思う。
え? 未来でやってきただろう? あの時は全てここまで本気ではなかった。成功とか失敗とかそういうのは関係なくやってたもの。つまり、本気度が違う。たったそれだけで大きく変わる。
「わ、私もです! 私もラヴィリア様と会うの、とっても楽しみにしてましたっ!」
「私も私も!」
「同じく」
三人はぱあ~っと顔を輝かせてそう言った。
まあ、あまり表情を出さないエミリーは分かりにくいけど。
「さあ、会場はこちらよ。私が案内するわ!」
最初の挨拶が成功したこともあり、私もテンションはとても高い。つい私が案内してしまうほど。
で、目的地はこの屋敷の部屋の一つ。そこは私室とは違うが、私の部屋の一つで、主に家族ではない親しい人間と対談するための部屋だ。つまり、今みたいな時に使う部屋。
一応、庭園もある。昔からある大きな庭園だ。様々な花々が咲き乱れ、とても美しい庭園。
ただ、今は季節的に暑いので、あまり外は行きたいない。
なので、部屋の中だ。
「ここよ」
部屋の前に着き、扉を開けた。
「わあっ! とっても広いですね!!」
さっそく中へ入ったライラが声を上げて言う。
ライラは部屋の中央へ行くとくるくると回って、部屋を見回す。
その令嬢らしからぬ行動にライラの付き人は冷や汗をかいていた。
まあ、確かに令嬢らしからぬ行動だけども、私はあまり気にしない。むしろ、可愛いとか思って、怒りどころか、愛おしさを感じるほど。
「ライラ、ここ、ラヴィリア様の家。自重して」
そんなライラを見ていたエミリーがそう言って、ライラを自重させた。
「ううっ、そうでした……。ごめんなさい、ラヴィリア様」
「気にしてないわ。あとでじっくりと見なさい。今日はそういう時間だもの」
「はい!」
こちらとしても自分の部屋の一つをじっくりと見てもらえるのはうれしい。
で、今からお茶会ということで、私たち四人とシノ以外は出ていく。
シノがいるのは私たちの奉仕のためにいる。さすがに令嬢である私たち四人が紅茶をいれることはできない。
でも、あまり人が多いと私たちとしてはお話をやりにくい。
なので、その他いろいろな事情からシノが奉仕の役となった。
今は座って、早速会話を。
「皆さん、私の誕生日パーティ以来ね」
「はい、わ、私、ラヴィリア様と会うことをずっと楽しみにしてましたっ!」
「私もですよ! ミシェル様とエミリーと合流したときはラヴィリア様の話ばっかりでした!」
「ラヴィリア様の噂、たくさんある」
三人は顔を輝かせてそう言った。
どうやら玄関前の楽しそうな会話の内容は私のことみたいだ。
私がある意味では仲間外れになっていなかったのだけども、な、何だかこれはこれで恥ずかしい……。
しかも、顔を輝かせてこちらを見てるし。
「そ、それはうれしいわ」
反応しにくいことだったが、そう言っておく。
「ラヴィリア様の話、たくさんしていい?」
エミリーが目を輝かせて言う。
正直、私の目の前で私の話をされるのは恥ずかしいのだけども、あまり喋りたがらず、表情にも出にくいあのエミリーのお願い。それを断るというのは私には難しい。私に拒否する権利があり、それでエミリーが落胆しても私には関係ないのだけども、未来の私の友人兼取り巻きであったエミリーの願いを拒否することはできなかった。
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(投稿遅れましたが、エタることはございません)