そして再び。
お久しぶりです…。遅くなりましてすみません。
同じ廊下を歩いていて、また同じ人間がふっ飛んで来ると誰が思うだろうか。私は今そのような状況にある。
ちょっとイラつくのも仕方ないよね?
今度は剣は飛んで来なかった。なので飛んで来ている男を本でヒットしようかと思ったが、すんでのところで思いとどまった。流石にそんなことをしたら、手首を痛めてしまう。
なので代わりに、前の時間に作った気付け薬のビンの口を相手の口に差し込んだ。
「ゲッホゲホゲホゲホゲホッ!」
案の定むせた。
水筒を差し出すと、すぐに奪われてしまった。あぁ、駄目だよ。そんなに一気に飲むのは。だってそれは、
「苦ッ!」
「それは私特製激苦健康茶だからね。」
「なんで水筒に入れて持ち歩いているんだよ!」
「うん、これ効用はバッチリなんだよね。それで製作方法の都合で大量にあるんだけど、あまりの苦さに誰ももらってくれないんだよ。捨てるのはもったいないし、しょうがないからこうやって消費しているんだ。」
「そんなもの無言で差し出すなよ。」
「知らない人からもらったものを確かめもせずに口にするからいけないのでは?」
「酷いな!」
まだ苦さが口に残っているのか、彼は唾液を何度も飲み込んでいる。あら、半目で睨まないでくれ。
「そういえば、気になったんだけど、そんなに剣が飛ぶなんて、どんな握り方してんのよ。ちょっと見せて見なさい。」
案の定、握り方はダメダメだったので直してやった。
「おお!こうやって握るのか!しかし段々手が痛くなってきたな。」
「手にマメができて、皮が厚くなればそれも平気よ。そんな弱い手じゃ剣なんて無理よ。というか、ここで剣術の練習しているからには授業取っているんじゃないの?持ち方ぐらい習わなかった?」
「いや、取っていないから独学だ。帝王学科だからな。」
帝王学だと?帝王学は将来国政のトップのための学問だ。エリートによるエリートのためのエリートの学問。あまりにも単位数が多過ぎて、スケジュールがハードだと聞いている。座学が中心で剣術の授業はなかったはずだ。
「何故、忙しいのに剣術を?」
「完璧になりたいからな。傲慢だと言われるかもしれないが、私は様々なことをして、一級品とはいかなくてもそれなりに身に付けたい。将来は国の命運を預かるんだ。いくつものことをやりこなせた方が格好良いだろ?」
「そうか?まぁ、他人の考えはわからないこともあるからいいや。」
「なぁ、ところでお前は誰だ?私と対等な口を聞いているが何者だ?しかも剣術を嗜む女ってどういうことだ?」
帝王学を取るからにはそれなりの坊っちゃんだ。本来、私がタメ口聞くような相手じゃない。ちょっとやってしまったか。
「成り上がり侯爵のご令嬢とでも言えばわかるか?」
「……お前が噂のやつか。」
「おう。剣術は留学中に護身術で習った。」
成り上がり侯爵とは私の家のあだ名。我が家に令嬢は私しかいないから、それだけで神童たる私のこととなる。
話を聞けば、相手は公爵家の嫡男だった。それから、時々剣術を見てやる約束をした。