おい、ちょっと話がある! ~婚約破棄シリーズ 16~
第二王子のジェイドは側近たちを連れ、舞踏会の華やかな空間にそぐわない急いだ様子で会場を歩いていた。斜め後ろを早足について来る宰相令息が、テラスに近い壁際で談笑している令嬢たちを指差した。
「殿下、あそこにパメラがおります!」
「うむ!」
ジェイドが見れば、確かに輪の中心で囲まれているのは自分の許嫁だった。ジェイドの片頬に、無意識に笑みが浮かぶ。
「ふふん、まるで場の中心が自分であるかのように振舞っているじゃないか」
「はっ。ヤツめ、これから起こることを想定もしていないでしょうな」
いつも偉そうで、ジェイドや取り巻きたちを小馬鹿にするような態度を取る侯爵令嬢。ジェイドは王子として、一個人としてもう我慢の限界だ。
女王然としたヤツめにジェイドはこれから婚約破棄を突き付け、ジェイドを真に愛してくれる男爵令嬢との新しい婚約を宣言する。いきなり婚約を破棄され、軽く見ていた婚約者と他の女が目の前でイチャイチャする光景を絶望と共にまぶたに焼きつけるがいい。
「行くぞ!」
「ははっ!」
ジェイドと側近の令息たちは、肩で風を切るように令嬢の集まりへと近づいて行った。
女子たちの輪の中心にいる許嫁へ、ジェイドは居丈高に声をかけた。
「おいパメラ、話がある!」
軽く少女たちが騒めき、中心人物である侯爵令嬢がちらりと横目でジェイドを見た。
「ステイ!」
そのまま会話に戻る女性陣。
ジェイドと取り巻きたちは直立不動で待っていたが、五分経っても十分経っても女のおしゃべりは終わらない。
しびれを切らしたジェイドは再度声をかけた。
「おいパメラ、話があると……」
またちょっと口をつぐむ令嬢の人垣の向こうから、またパメラが冷たい一瞥をくれた。
「シット!」
ジェイドと友人たちは絨毯に正座して待っていたが、十五分経っても二十分経ってもパメラたちは取り留めない噂話を続けている。
温厚で気が長いと自認するジェイドでも、いい加減この態度には腹が立った。
「おいパメラ! 貴様、王子である俺をいつまで待たせるつもりだ!」
やっと許嫁の少女がこちらをまともに見た。
「はあ……躾がなっていませんわね。これでは久方ぶりに友人に会えたのに、のんびり会話も楽しんでいられませんわ」
艶やかな美貌の令嬢は、持っていた羽根扇子でビシッと王宮の居住区の方を指した。
「ハウス!」
「ふふん! 婚約破棄まではいかなかったが、あれでパメラめも思い知ったろう」
「まったくですね殿下! あの女の心胆を寒からしめましたよ!」
「そうであろう!」
命令通りにジェイドの部屋へとせかせか歩きながら、ジェイドと愉快な仲間たちは口々に今日の勝利を語り合った。
本作と逆に、自分の作品で多分一番長くなる連載作品「きっと空を飛べるはず! ~美女に泣いて頼まれたので、鳥人間コンテストでポンコツエルフを飛ばします~」を連載中です。そちらも是非読んでみて下さい。
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