女の子を拾ったらいつの間にかその子が俺の嫁になっていた件。
お久しぶりの投稿です。お手柔らかに。
【女の子を拾ったらその子がいつの間にか俺の嫁になっていた件について。】
俺はしがない冒険者だ。
それなりのランクにいてそれなりに稼いでいるが、とある討伐でちょっとしくじってな。
今は脚の怪我で療養中だ。
「うむ、治りは順調だな。
これからはリハビリも兼ねて毎日散歩でもするといい」
怪我をして一月経つ頃には医者のおっさんにそう言われ、市場まで歩いて買い物に行っていた。
俺の家は街外れの一軒家で、市場まで歩くのはちょうどいい運動になるからな。
その日もゆっくり歩いて市場に行き、美味そうな肉と果物を買って帰るところだった。
それまで外食ばかりだった俺が怪我で自炊するようになって、市場のおばちゃん達とも随分仲良くなった。
今日なんて旦那の愚痴大会になぜか引っ張り込まれ、気付けば夕方で。
おばちゃん達はあんなに喋りまくって疲れないのだろうか。
女ってのは不思議なもんだ。
「……ん?」
女の不思議について考えながら歩いていると、日が暮れかけた薄暗い道の端に、いつもと違うものが見えた。何かが落ちている。
近付くにつれ、俺は駆け寄りたくなった。
やっとのことでそこまで辿り着き、確信する。これは人だ。
持っていた荷物を道端に置き、抱き起こした。
女の子だった。
もの凄く痩せてガリガリ、しかもあちこちに痣や火傷の跡がある。死んでるのかとも思ったが、鼻と口に手をあてると微かに息をしているのがわかった。
生きてる。
そうわかってからの俺の行動は速かった。
魔法の鳥で医者を呼び、俺の家にその子を運び(何事だとすっ飛んできた医者とゆっくりしか歩けない俺が家に着いたのはほぼ同じタイミングだった)、医者の指示を仰ぎ金はいくらでも払うと言って任せた。
そして現在。
女の子を拾ってから数年経った今。
彼女はいつの間にか俺の嫁になっていた。
どうしてこうなった。
「お帰りなさいませ、旦那様!
ご飯にしますか?
それともお風呂に入ります?
あ、先に私食べます……?」
帰ったばかりの汗臭い俺に抱きつき頬を染める可愛い嫁。
本当にどうしてこうなった。
いや、成長するに連れ、どんどん俺の好みの女になっていくなぁとは思ってたよ。うん。
いつの間にか女らしくなってドキッとすることも増えたしさ。
ほんとにいつの間にか、俺は彼女にハートを打ち抜かれてしまったわけだ。
「あー、とりあえず風呂入って汗流してくるから、飯の用意しといてくれ」
「はい!
お風呂はもう沸いてます。
あとでお着替え持って行きますね!」
嬉しそうに俺の着替えを取りに向かう嫁。
その後ろ姿はボンキュッボンの理想的なスタイルで。
緩やかなウェーブの掛かった艶のある茶色い髪が俺の贈った緑のリボンで纏められ背中で揺れている。
「あ、今日の夕飯は旦那様の好きなハンバーグですよ!
お楽しみに~!」
振り返って笑う嫁の顔には薄らと火傷の痕が見える。
今は服に隠れて見えない身体のあちこちにも薄らと火傷の痕は残ってしまって、それは本当に悔やまれる。
火傷の完全治癒魔法はあるにはあった。
ただし超絶高度な技術を要するらしく(俺は治癒魔法は使えないからわからんが)、当時の俺の稼ぎでは、そしてこの街の医療では完全に治してやることは出来なかった。
いずれ王都に連れていって、綺麗な肌にしてやるのが今の俺の目標だ。
とはいえ、火傷の痕が薄ら残ってるくらいでは嫁の可愛さは薄れない。
綺麗な眉と長い睫毛に縁取られた二重の目。
瞳は髪と同じく茶色。すっと通った鼻筋とふっくらツヤツヤの吸い付きたくなる唇。
俺の理想的な可愛い女そのものだ。
俺は衝動的に嫁の手を引き、彼女を抱き締める。
泥の着いた汗臭いおっさんに抱き締められるなんて嫌だろうに、嫁はそんな俺の背に手を回す。
「……ただいま」
そういえば言ってなかったなと思ってそう言うと、可愛い嫁はにっこり幸せそうに笑って俺にちゅ、と口付けた。
「お帰りなさいませ♡」
なぜこうなったのかはわからんが、俺はとても幸せな日々を過ごしている。
***
【私の旦那様が素敵過ぎて毎日悶えている件について。】
私の一番古い記憶は真っ暗闇だ。
たぶん押入の中なんだと思う。
母親らしい女性が私を
「アンタナンカ、ウマレテコナケレバヨカッタノニ!」
と叫んで叩いて押入の中に閉じ込めるのだ。
機嫌が悪いと煙草を押しつけられて。
私はいつも一人、暗闇の中で痛みと恐怖に泣いていた気がする。
気がする、というのも、私はあまり昔の記憶が無いのだ。
気がついたら暖かいベッドに横になっていて、優しい男性が私の面倒を見てくれていた。
その優しい男性というのが私の旦那様であるのだけれど。
私にとって旦那様は神様のような存在なのだ。
冒険者らしいがっしりした身体。
日に焼けた肌に無駄のない筋肉。
短く整えられた金髪。
意志の強そうな眉に涼しげな目元。
優しく私を見つめる綺麗な緑色の瞳。
私が昔の記憶に怯え泣き出してしまったときは、抱き締め頭を撫でてくれる大きくて暖かい手。
優しくて頼りになる、私を受け入れ愛してくれる素敵な男性。
そんな男性に私が惚れないわけがなかった。
市場のおばさま方を味方に付け、旦那様の好みに合わせた料理や美容を心掛け。
旦那様に私はちんちくりんの子供ではないのだと理解させ、私を女性として意識して貰うために、どれほど頑張ったか。
本当に市場のおばさま方には頭が上がらない。
そして現在。
私は無事、名実ともに旦那様の妻になった。
「ただいま」
と言って私を抱き締めてくれる旦那様が素敵過ぎて内心悶絶している私。
旦那様は自分を汗臭いおっさんだとか言うけれど、私にとって旦那様の匂いはとても素敵で安心する。
旦那様が素敵過ぎて毎日幸せです。
ありがとうございました。