光の向こうへ
「あ…」
目の前の景色が一転する。
路の端で応援する観客も、自分が走っている道も、すべてが頭上から降り注ぐような、錯覚。
転倒。
何が起こった?
みんなで繋いだ襷を受け継いで、俺は走り出して…
最後の区を走ってて、もう少しでゴールで…
起きあがれ、俺。ゴールテープまで後どのくらいだったっけ?
早く起きあがらないと。早く、早く、早く…!
足が震える。
立ち上がる。崩れ落ちる。また立ち上がる。だが崩れ落ちる。
歯を食いしばれ。筋肉も血管も腱もはち切れんばかりに、力を込めて−
立ち上がる。しかし、崩れる。
「−−−−−−!」
耳元で誰かが叫んでる。
ああ、毎日怒鳴られてた声だ。たぶん、監督。
ジャマしないでください。俺はあのゴールテープを切らなくちゃならないんだ。
まだ俺は走ってるんですよ、なんでジャマするんですか。
だがジャマしているのは他でも無い俺の足だった。
こりゃ誰の足だよ、情けねーな。俺の足はもっと力強くて、今頃もうとっくにゴールしてて…
「大丈夫ですから、俺、大丈夫ですから」
とにかく、そんな事を叫んでいた気がする。
とにかく、今は立たないといけない。
畜生、畜生、畜生、畜生、畜生…!
この襷は、俺だけの襷じゃねーんだ。
学校の名前が刻まれた襷。みんなの汗と努力の結晶。そんな安っちょろい言葉では言い表せない、俺たちの魂と呼べる代物なんだ。
この襷をゴールテープへ導くために、一歩。一歩。
棄権?危険?棄権?危険?
そんな単語が耳を突き刺す。脳裏にそれは重くのしかかる。
だが、その根底で確かに燃えたぎる「完走」の二文字は俺を奮い立たせて止まない。
少しずつ近づくゴールテープ。気付けば俺は這い蹲っていた。
そうだ。走れないなら這い蹲ってでも走り抜いてやる。理性でそう思う前に体はそれを実行したのだ。
耳をつんざくBGMも、蜃気楼に揺らぐ目の前の景色も、全てが鮮明で輝いて見える。
あれほど重かった体も、まるで宙に浮くかのように軽やかだ。相変わらず足は動いちゃくれなかったが。
さぁ、走りだそう。
太陽の下、胸に輝くのは魂の襷。
たかが一筋の紙切れを目指して。俺の戦いは、俺たちの戦いは、もうすぐそこまで…
30分くらいで書き殴った短編です
最近駅伝とかで盛り上がってるなぁ、とTVの前で思ってたら書きたくなりました
稚拙な文章ですが、見てくれた方々に感謝