ちょっとした裏技
零戦。知らない人はいないだろう。
翼の形状と装備を見れば、52型であることもわかった。
「はい! えっと、赤城さんに言われてきました!」
空母赤城。まあ有名だし、説明はいらないか。
「ええと、マスター。信頼できる人物ということでよろしいので?」
「もちろん。行くよ」
ってか、零戦ってばどんな形してるんだ。まあ、船なんかよりも擬人化するのは難しいのかもしれないけどさ。シールドみたいに翼があるってのはどういうことだ?
「あ、離陸するので少し離れていただけると」
飛べるのか。いや、そうだろうけど。
零戦はちょっとずつ走り――トップスピードになったところで、空に駆ける。
奇麗な黒髪が風にたなびく。
「さてと、行きますか」
40ノットは伊達じゃない。とは言っても、さすがに零戦には勝てない。要するに、時速約80キロ。
向こうのほうが速い。それも圧倒的に。
「あの――マスター。もうちょっと早くできますけど」
「できるのか?」
「まあ、少し荒業ですが」
二次大戦中の駆逐艦――日本に限れば、40ノットは最速。
相対的に見れば、最速。ならば――その対象をすり替えてしまえば、速力は弄れる――らしい。
細かい原理はわからないし、正直聞いたってわからんけどさ。
「《対象転換》――こんな感じでどうでしょう?」
ちなみに、比較対象は、二次大戦中の戦闘機。そして、最速は――
「ちょっ!? 震電くらい、早いんだけど!?」
速い。
これは爽快だ。ていうか、早すぎ。
こんなのを扱えるパイロットはすごい。
「あー、あっちのほうだからね――!」
零戦もあきらめたのか、そんな声をかけてきた。